カプセルホテルからの脱出後。
ラ・ア・ゲダマーたちの充電と、
レックの土産話を聞くのに丸一日かかった。

「メダロットになっても癖は変わらないな。もっと早く気づくべきだった」

「ヒャクヒはずっと怒り顔だったから、人違いかと思ったよ」

鏡で自分の顔を見る。そんなにキツい顔をしてるか?俺は。

「いつもこーんな顔して」

額をぎゅっとつままれた。眉間に皺が寄る。悪どい顔が鏡に映った。

「ぷっ。くくく・・・」

自然に笑みが溢れる。何年ぶりだろう。何も考えずに笑ったのは。

ウィーン ガシャンガシャン

「マスター。充電が完了しました」

ラ・ア・ゲダマーが回復したようだ。
レックと俺の準備はもうできてる。

「よし。では各自10分以内に準備を整えて出発。
あのガキどもに目に物を見せてやる」

「大人げないですね・・・。
いつもはバルチャーに感情を見せないよう叱るマスターが」

言った後に思い出したようにハッとするラ・ア・ゲダマー。
普段、返答以外はろくに話さないこいつが憎まれ口を叩くとは。

「すみません。失言でした」

「いや、気にしなくていい。そうだ言ってなかったな。
バルチャーをレックと呼ぶことにした。お前の名前も変えよう。
そうだな・・・。グリニーでどうだ?」

「グリニー。私の名前・・・」

返事を忘れて名前を呟き繰り返す。
こいつも変わったのかもしれない。俺と同じように。

「出発するぞ!レック、グリニー!」

「はい!」

「ラストバトルだね!」

俺たちは士気を上げながら向かう。奴らの本拠地へ!


アタッシャーズの最後の溜まり場。それは四丁目の廃工場にある。
ガメンという系列の会社が建てたのだが経営不振の末に放棄された。
立ち入り禁止とされてはいるものの、何故か一向に取り壊されない。
そこを悪ガキどもに利用されたという訳だ。

ガチャガチャ

まだ俺たちには気づいていないらしい。恐らくこのバカでかい扉が原因だ。
大人でも2、3人。子供ならそれ以上の人数がいないと開かないだろう。
だがメダロットがいれば話は別だ。少数でも開く事ができる。
奴らはそれを利用してアジトにしているに違いなかった。
しかし、それは俺たちにとって好都合でもある。

「セットしたな?3、2、1・・・開けろ!」

ギギギギギギギ

工具によって左右に動く巨大な扉。やっと通れる広さになり、俺がまず飛び込む。
中には数十人ものアタッシャーズが屯していた。

「リーダー!あいつ、例の奴です!」

黒いドラゴン型メダロット使いの少年が叫んだ。隣には少女もいる。
リーダーらしき少年はこっちをじっと見つめている。

「てめぇら、セレクト隊に手ぇ出したのか?」

振り向かずにそう言った。震え上がる少年と少女。

「ご、ゴメンナサイ・・・」

「フン・・・。いいさ。
オレらがここまでのし上がれたのは、セレクト隊どもがふ抜け揃いだから。
あんたもそうなんだろ?大人のくせに情けない連中だぜ」

一杯食わされた身としてはぐうの音も出ない。
冷えきった視線が俺に突き刺さる。
己だけを信じているかのような、人を拒絶する視線。
憎しみをぶつけるのをためらわない目だ。
俺もこんな目をしていたんだろうか?

「ここらで目を覚まさせる必要がある・・・。
お前らが侮ってきた奴のやり方を、よく見ておくんだな」

レックとグリニーが道具を運び終える。
準備は整った。

「ジッとしていてもらうぞ!」

バシュバシュバシュバシュバシュ

各自、担いだネット射出機のトリガーを引く。
一気に何人ものアタッシャーズが網に覆われて身動きが取れなくなった。

「取り押さえろ!相手はたった1人と2体だろうが!」

リーダーの少年が命令を下す。
一斉にメダロットを転送してきた。先にレックたちの動きを封じるつもりか。
だが扉の前の俺たちとアタッシャーズとでは距離がある。
転送が終わる頃には次の手を打っていた。

バシュウウウウウウウウウウウ

前方が煙で覆われる。発煙筒を一斉に投げたからだ。
奴らが煙に咽せる間にネットを連射する。

バシュバシュバシュバシュバシュバシュ

ここで大型射出機の弾が切れた。
残るは使い切り用が何本かと、縄と、さすまたのみ。

「ゲッホゲホ!ゲホ!」

3、4人が逃げようとしているのか、扉に駆け寄る。
しかし開けようとしてもびくともしない。
あらかじめ扉の内側にコンクリートブロックを置いてあるためだ。

「開かない!誰かこっちに・・・うわぁ!」

すかさず取り押さえて縄で縛り上げる。
そうして何人か取り押さえたところで煙が晴れてきた。
残ったのは奥に逃げたリーダーとその取り巻きのみ。
他は人間、メダロットとも例外なくネットにがんじがらめにされている。

「たかがセレクト隊員ひとりが暴れたとこで!どうにかなると思ってンのか!?」

額に青筋を浮かべたリーダーが怒りをぶつけてくる。
この人数だ。動きを封じてはいるものの、そう長くは保たない。
だが、リーダーは丸裸も同然。チャンスは今しかない。

「ひとつ提案がある。ロボトルをして俺が勝ったら大人しくしていろ」

「てめぇが負けたらどうするつもりだ!?」

取り巻きが言う。
俺は心の中で隊長に謝りながら答えた。

「この町にいるセレクト隊はお前たちを二度と追わない。どうだ?」

リーダーは考え込んでいたが、やがて面を上げてメダロッチを構えた。

ジジジジジ

3体のメダロットが転送される。

「最後に立っていた奴が勝ちだ!」

「非公式ロボトルは好きじゃないんだが・・・。やるぞ、ふたりとも」

5体のメダロットと4人のメダロッター。
それぞれが臨戦態勢を取る。

「ロボトルだ!」

「かかってこいやぁ!」

互いの意地をかけた勝負が始まった。

 

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