「約束通り自首しろ。お前らは負けたんだからな」

「く、くそっ!」

逃げていくアタッシャーズ。
俺は簡易地図を取り出して×印をつけた。
アタッシャーズを追い出し始めてからこれで4日目。
これで1箇所を残しほぼ全部を巡ったことになる。

「ねえ、あの人たち離していいの?」

縄を解いたバルチャーが言う。
せっかく捕らえた奴らを離すのは俺も本意じゃない。

「まだ謹慎中だからな。逮捕して署に連れて行ったら始末書が増える」

俺がやってるのはあくまで『説得』の範囲内だ。
拘束力はないが、やっている事に気づいて目が冷める奴もいるだろう。
とはいえ、署の連中がいつ気づいてもおかしくない。
そろそろ最後の仕上げをする頃合いか。

グウ

一仕事終えたら腹の音が鳴った。
もう夕方。夕飯の材料を買いに行く時間だ。

「明日の分も買っておくか」

「マスター。バルチャーが先に行きました」

ラ・ア・ゲダマーが報告した。
あいつときたら、夕飯の買い物だけは疲れを忘れてはしゃぐ。
少し前までは買い物するとぐったりしてたくせに。
多少は余裕が出てきたということなのかもしれない。

「ロボトルでの動きもマシになってきたしな・・・」

「何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない。お前も来るんだ」

俺たちもバルチャーの後に続いた。


両手に特大の袋を持って裏道を歩く。
インスタントラーメンが安売りしてたから大量に買ってしまった。

「ん・・・?」

道の先にある街灯の下に誰かがいる。
背丈からして小学生か、中学生あたりの子供がふたり。
こちらを見ながら囁き合っていたが、やがて近づいてきた。

「あんただな。俺らのナワバリを荒らし回ってる奴は」

「こっち来なよ」

そう言って通りに面している寂れた建物に入っていく。
アタッシャーズのメンバーか。
暗がりで顔はわかりづらいが、鋭い目つきだけはハッキリと見えた。

「手ごたえがありそうだ」

俺はメダロットたちと共に建物の中へと導かれた。


室内の両脇には電子レンジのような箱形の部屋が積み重なっていた。
元はカプセルホテルだったと想像できる。
幅がある通路の奥。
天井からぶら下がった懐中電灯に照らされる影がふたつ。
ひとつはニット帽の少年。もうひとつは胸にブローチを着けた少女のもの。

「俺らはアタッシャーズの精鋭に選ばれた」

「あなたを倒す責任がある。メダロット転送!」

ジジジジ

黒いドラゴン型のメダロットが2体、光と共に現れる。
足がある珍しいタイプのメダロットだ。
対してラ・ア・ゲダマーとバルチャーが立ち塞がった。

「2対2だとか思ってるでしょ?」

少女が得意げにメダロッチを構える。

「違うんだなー。そっちは1人。こっちは2人。
俺らが圧倒的に有利なんだよ」

少年も言う。その通り、1体だけのメダロットに指示を出すのが基本。
1人で2体以上のメダロットに指示を出すのは効率が悪い戦術とされている。

「同意見だ。悪知恵の働く悪ガキどもめ」

口で言うほど追いつめられてる気がしない。
何故か、と問われたら答えられない。
ただ・・・。

「マスター。指示を下さい」

「ヒャクヒ!早く帰って夕飯食べよ!」

負ける気はしない。
その理由は、ロボトルが終わってから考える事にする。

「レフェリーは呼ばない。
かわりに、お前たちが負けたらセレクト隊に自首しろ。どうだ?」

「いいよ」

「オッケー」

それぞれ答える。承諾したようだ。

「ルールは破っても約束は破るなよ。それじゃ、ロボトルファイト!」


言い終わった途端に、2体のドラゴンが散開した。
薄暗がりに赤青の光が揺らめく。

ボオオオオ

2本の火線が走る。
点在するライトの丸い明かりで、腕から火を吹いているのが見えた。

「またファイヤー。アタッシャーズは火が好きらしいな」

ボボボボボ

『右腕パーツ、ダメージ30%。32%。更に上昇中』
『左腕パーツ、ダメージ20%。22%。更に上昇中』
ラ・ア・ゲダマーの両腕が焼かれた。
両腕を薙ぎ払い、追撃を阻止する。
黒いドラゴンたちは暗がりの中に消え失せてしまった。

「ラ・ア・ゲダマー!だいじょぶ?」

「問題ありません。ですが、長期戦は不利です」

バルチャーたちはライトに照らされながら背中合わせで攻撃に備えている。
天井から吊るされた明かりが振動でゆらゆら揺れる。
不特定に床が照らされるもののドラゴンたちの姿はない。

ピュン

細い光線が室内を照らして直線する。
狙い外れてるが、俺に当たるところだった。

「あいつら、マスターを誤射しないだろうな・・・」

物陰に隠れながら様子を伺う。
何本ものレーザーが四方八方から乱れ飛ぶ。
命中率が悪いのか、バルチャーたちにはまだ当たっていない。

「ヒャクヒ・・・」

「動くな。こけ脅しだ。ラ・ア・ゲダマー、頭部パーツを使え」

「はい、マスター」

ブゥン

薄い半透明の壁が発生し、ラ・ア・ゲダマーとバルチャーの盾となる。
飛んできたレーザーが光の盾に当たって飛散した。
やはり、パーツの性能を活かし切れていない。
メダロットのメダルとパーツの相性が悪いせいだと推測できる。

「この手は通じないってか」

「かわいくなーい」

それはお前たちだと、心の中で相づちを打つ。
レーザーの雨が収まり静寂が訪れた。
ラ・ア・ブラーゲが防御体制を解除した、その時だった。

「いただきィ!」

2体のドラゴンがラ・ア・ブラーゲに襲いかかる。
頭部パーツから火を吐いて間近に急接近してきた。

「バルチャー!」

「やあああ!」

バキキッ

「ウッ!」

『脚部パーツ、ダメージ40%。左腕パーツ、ダメージ30%』
『脚部パーツ、ダメージ40%。右腕パーツ、ダメージ30%』
飛びかかってきたドラゴン2体をバルチャーが吹き飛ばす。
壁に激突したドラゴンをバルチャー、ラ・ア・ゲダマーが追撃した。

バコン バキッ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

「レツ!」

まずは1体。もう1体は再び姿を消した。

「バルチャー、動くな」

立ち止まったバルチャーにすかさずレーザーが飛んでくる。
さっきより狙いが正確だ。

ジュウ

『左腕パーツ、ダメージ60%』

「わわわっ!」

腕に直撃して大きなダメージを受けた。
どこからか狙い撃ちしているのか?

「マグレ当たりで調子に乗ンな!レイ、もう1発当ててやれ!」

少年が大声で指示を出す。

ピュン

今度は外れた。メダロッターの指示が大雑把すぎる。当たり前だ。

「ラ・ア・ゲダマー、右だ。やれ!」

ガッガッ

『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
ラ・ア・ゲダマーのハンマー攻撃が命中。
並んでいる簡易ベッドの中からドラゴンを引きずり出す。
俺も同じようなものかもしれない。

「どうして場所が!?」

少年の驚く声が聞こえる。
答える前にラ・ア・ゲダマーとバルチャーの同時攻撃が始まった。

ガッガッ バキキキッ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

メダルが外れるのが聞こえた。勝負ありだ。

「2体して連続で撃たれればわからなかったが・・・。
1体で狙い撃てば、嫌でもレーザーの光が目立つ」

「くそおお・・・。へへへ。でもさ・・・」

メダルを拾う少年。不敵に笑いながら歩き始める。
この余裕。何かを隠している。
それに気づいた時にはもう、遅かった。

「お前ら、まさか・・・」

「やっとわかった?途中からわたしがいなくなった理由。
頭冷やしてねぇ。さようならー」

入り口に片割れの少女。少年も、メダルを拾って外に出ていた。

カチッ ガチャ

扉を閉じるのに合わせて何かを押す音。
天井から大量のガレキと砂袋が落ちてくる。
俺たちは急いで通路の奥に走った。

「ゲホゲホッ!あのガキどもめ。一杯食わされた!」

ガレキと砂は念入りに準備してあったのか大量で。
通路のゆうに半分以上を埋め尽くしていた。

「マスター。良いご報告と悪いご報告があります」

「何だっ!こんな時に!」

気が立っていてメダロットに対してさえ余裕がない。
いや、それは違う。このごろずっと調子がおかしい。
バルチャーが来てから、俺の生活が少しずつ狂い始めてる。

「ヒャクヒ、ボクの顔に何かついてる?」

言いたいことは山ほどあるが、今はラ・ア・ブラーゲの報告が先だ。

「それで、良い報告は?」

「お買い上げになった食料品は無事です」

ロボトルが始まる前に隠しておいた袋が置かれる。
次に、そこからいくつか取り出して床に並べられた。

「卵、牛乳、ヨーグルト等は保存が利きませんので・・・。
なるべく早く消費なさって下さい」

それが悪い報告か。
残った袋の中身を見て、嫌な予感が襲う。

「・・・残ったのは?」

「乾燥麺、飲料水、菓子類です」

大失態だ。
今月に入ってからの疲れが一気に体にのしかかってきた。
瞼を閉じるとバルチャーたちの声が遠くなっていく。
少し、寝かせてくれ・・・。
その呟きが聞こえたかどうか、俺にはわからなかった。

 

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