「合意と見てよろしいですね?」

聞き慣れたフレーズに耳に届く。
若いロボトルレフェリーがいつの間にか入り込んできていた。

「ラ・ア・ゲダマー」

「審判の方でしたのでお通ししました」

しれっと言われた。これだからメダロットは。
今一度、少年とメダロットに向き直る。
誰ひとり逃がさない。それだけ間違わなければいい。

「いけ、バルチャー!」

「スィート、かわせ!」

ブンッ

バルチャーの左腕が空を切る。積もっていた砂埃が舞った。
やはり、こいつはまだロボトル慣れしていない。攻撃が当たらない。

「当たらない!何で!?」

「敵の動きをよく見ろ。隙を伺え」

バッタ型は狭い室内を動き回っている。
メダロッターの少年ともども足取りが軽い。

「ハハッ。初心者じゃねーか。次はこっちの番だぜ!」

バッタ型が構えると両腕のツメが赤みを増す。
真っ直ぐバルチャーに向かって振り回し始めた。

ガッガッガッガッ

『右腕パーツ、ダメージ20%、35%、50%、51%。なおも上昇中』
『左腕パーツ、ダメージ15%。16%。なおも上昇中』

「うぐぐぐ」

攻撃をモロに受け続けるバルチャー。
何か変だ。回避できないのはまだしも、防御すら間に合わない。

「バルチャー。どうして防御しない?」

「体が動かしづらくて・・・」

バルチャーが何とか右腕のオノを振りながら言う。
行動を妨害するパーツ?

「一度そいつから離れてみろ」

「離れる!」

バルチャーが一目散に部屋の角まで走り抜けた。
敵に背を向ける奴があるか。後で教えてやらないと。

「あっ。いつも通り動く」

左手を握ったり開いたりしている。
格闘攻撃に効果がある特殊パーツかもしれない。
格闘戦しかできないバルチャーには相性が悪い能力だ。

「突っ込んでみろ」

「突っ込むんでもまたやられるんじゃ・・・」

バルチャーが不安げに言う。

「いいからやれ。逃げ回ったところで時間稼ぎにもならない」

話してるうちにバッタ型が追ってきた。
また攻撃が直撃すれば大ダメージを受けるに違いない。

「バルチャー!」

「わ、わかったよぉ!」

俺の怒鳴り声に反応してバルチャーが突撃する。
バッタ型は追うのを止めて大きく横に動いた。

ブウン

「おおっと」

「わっ!」

ゴロンと転ぶバルチャー。
バッタ型と少年は笑いながらそれを見ている。

「立て、バルチャー。もう一度だ」

「やあ!」

ブンッ

また転ぶ。今度は少し下がって避けられた。
オノの重さに振り回されている。

「立て、バルチャー。攻撃しろ」

「やあっ!」

ガキン

「へっ。何度やってもムダだよムダ」

ツメで受け止められた。ギリギリと競り合う。
そして後ずさった。間違いない。
こいつはバルチャーの攻撃を恐れている。

「バルチャー!やれ!」

「せいやあっ!」

ガッ バコン

『頭部パーツ、ダメージ35%』

「うお!」

吹き飛んで壁に叩き付けられるバッタ型。
俺が指示を出す前に、バルチャーは懐に潜り込んでいた。

「追撃!」

ゴッ

『頭部パーツ、ダメージ65%』
右の拳で突き上げられたバッタ型が宙に浮いた。
そして落下する。

「トドメだ!」

「やあああああああっ!!」

バコン

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

オノの一撃がバッタ型の頭部にクリーンヒットした。
機能を止め、メダルが落ちるのを確認したレフェリーはバルチャーの手を取る。

「勝者バルチャー!」

「やったー!!」

バルチャーが大声で勝鬨を上げる。俺も思わず息をつく。
こんなにロボトルに対して真剣になったのは初めてかもしれない。
ずっと忘れていた高揚を、俺は肌で感じ取っていた。

 

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