「あそこが4つ目と・・・」

手帳にアタッシャーズの溜まり場をメモする。
奴らを調べ始めてから5日が経った。
規模と行動範囲、メンバーの顔ぶれなどの調べがついた。
セレクト隊でも半年ほど前からの活動を確認している。
これまでは少数だったために証拠が押さえられなかったが。
この間に確認できただけでも20人以上が所属しているのは明らか。
踏み込めば必ず尻尾を掴める。

「ヒャクヒ、もう夕方だよ」

バルチャーに言われて気がついた。
そうか、今日はあの日だった。
手帳をしまう。陽が落ちるまでに店に行かないと。


花屋に入ると、花の匂いが混ぜ返っていた。
赤い花、青い花、ピンク、黄色い花。なんでもある。
花には疎い。だから花屋に来るのも年に1度きり。

「今年は濃い色にしたい」

店主にそう言うと、いくつか植えてある場所に案内される。
どれもこれも名前も特徴もバラバラ。
直感で選んで料金を支払い、包んでもらった。

「ありがとうございました」

夕日が沈む。
坂道を下る俺の後ろにラ・ア・ゲダマーとバルチャーが続いた。


電柱に花を括りつける。
両手を合わせて目を閉じた。バルチャーも手を合わせている。
風習を理解しているとは思えない。その証拠にソワソワ動いている気配がした。
愛犬が事故で死んでからもう9年。
兄弟がいない俺にとって、子犬の時から一緒に育った彼は家族そのものだった。
俺の身長が彼を超えたのはいつのことだったか。
あの日を思い出すと胸が痛む。
事故の日・・・。
俺は今でもハッキリと覚えている。


メダロットが走っていた。2体だ。
ケンカしていたのか、ふざけ合っていたのか。
それだけは覚えていない。
俺は散歩をしていた。いつものように。
曲がり角で紐の先にいる犬が立ち止まった。
立ち止まったんだ。
後ろから走ってきたメダロットのうち1体がもう1体を押した。
転んだメダロットは俺の横を通って紐の先に。
立ち止まった犬は押し出されて、そこに車が走ってきた。
犬は電柱に打ち付けられて動かなくなった。


あの時。
メダロットたちがしっかり管理されていれば事故は起こらなかった。
過ぎた事だとわかっていてもその考えが頭から離れない。
この先もずっと忘れない。
忘れようがない。
目を開けて、電柱に括りつけた花を見る。
鮮やかな紫色の花。
ヘリオトロープとか言ってたか。
淡い色はもう何本も供え尽くした。
今年からは濃い色も供えたい。

「マスター。夕食はどうしますか?」

ラ・ア・ブラーゲが話しかけてくる。
俺は歩き出した。ラ・ア・ブラーゲとバルチャーも後に続いた。

「材料を買ってくる。お前たちは先に戻っていろ」

ひとりで近所の商店に向かう。
夕暮れは終わり、電灯が明るく灯り始めていた。

 

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