代金を支払い、修理屋からあのメダロットを引き取る。
生活必需品以外での支払いは久しぶりで勝手がわからない。

「あ、い、う、え、お」

「音声異常なし。お前の名前は?」

「ボクはバルチャー」

修理が終わるまで2日かかった。
なし崩しに面倒を見るハメになったがそれも今日で終わり。
ボディもあらかた直ったし、もう関わることもない。

「セレクト署への行き方はわかるよな?」

「レレクト?」

手帳と万年筆を取り出してセレクト署までの道を描く。
それを見せながら順を追って説明を始める。

「現在地はここ。そこの通りを直進すると、十字路に出るから左折する」

「ジュージロ?」

こいつ・・・。わざとトボけてないか?
そもそもこいつは何者なのか?

「どこから来た?」

「カナダ」

「そんな遠くから、どうやって?」

「お仕事してお金たまったから、飛行機に乗って・・・」

言っていることが本当なら、空港を通ってきたことになる。
違法メダロットということはなさそうだ。

「それで、メダロッターは本当にいないのか?」

「いない。飛行機は、ひとりで乗った」

外国の航空事情はどうなっているのか。
メダロットだけを乗せるなんて、この国では考えられないことだ。
それはともかく。

「連れていくのはまずいな・・・」

謹慎中の身でノコノコと署に行くのは気が引ける。
空港に連れていくのもダメだ。経費が落ちない。
どうするべきか・・・。


「あああ!おめーはあの時のメダロット!」

目つきの悪い子供がふたり、急にこっちへ駆け寄ってきた。
バルチャーが体を硬直させる。

「こいつら知ってるのか?」

「この人たちに追われてた・・・」

悪ガキたちは腕に巻いたメダロッチのボタンを押した。

ジジジジ

出現したのは2体のメダロット。まだバルチャーを追っているのか。
どちらも戦闘準備万端だ。

「今度は逃げんなよぉ」

不穏な空気。あれだけ容赦なくやったことを考えると・・・。
違法ロボトルでメダルでも奪うつもりだったのか。

「仕方ない。メダロット転送!」

ジジジジジ

ラ・ア・ゲダマーを転送。同時にロボトルレフェリーへ申請を行う。
ほどなく40代ほどの男性が走ってきた。

「お待たせしました。2対2のチームロボトルならば、リーダーを決定して下さい」

「けっ。余計なことしやがって」

これで違法行為はできない。
ロボトル中の行動は全て、レフェリーに記録される。

「ラ・ア・ゲダマーをリーダーにする」

「こっちはシーオッターだ!」

「わかりました。両者とも準備はよろしいですね。
リーダーが倒されたチームが負けとなります。
それでは、ロボトルファイト!」

レフェリーが手で大きく空を切り、ロボトルが始まった。


「シーオッター、ソリットブロウ!」

「ガードだラ・ア・ゲダマー!」

ガキーン

『右腕パーツ、ダメージ20%。移動力低下』
特殊攻撃パーツによる攻撃がラ・ア・ゲダマーを襲う。
こいつは防御力重視のメダロットだ。そう簡単にやられない。

「ハンマーで反撃しろ!」

「はい。マスター」

ガゴン

『脚部パーツ、ダメージ40%』

「こっちもいるぜ!」

カエル型メダロットがラ・ア・ゲダマーの背後に回り込む。

バキッ

『脚部パーツ、ダメージ30%。命中率低下』
こいつもか。ラ・ア・ゲダマーの動きがぎこちなくなっていく。

「振り払え!」

ブン

左手を振って反撃する。カエルは大きく跳んで攻撃を回避した。
素早い相手だ。簡単には捉えられない。

「ボ、ボクは・・・」

バルチャーがカチコチに固まっている。
しまった。パーツデータがないから指示が出せない。
急いでメダロット社のデータバンクからデータを探す。
『検索中です。しばらくお待ち下さい』

「マスター!」

呼び声で顔を上げると、ラ・ア・ゲダマーが攻撃にさらされていた。
防戦一方だ。このままだとなぶり殺しにされてしまう。
カエル型メダロットが突撃してきた。

「やっちまえ!」

少年たちは余裕の表情。明らかな劣勢だ。
しかし、ロボトルはそう単純じゃない。

「右腕を振り上げろ!」

ガツン

『頭部パーツ、ダメージ60%』
突撃してきたカエルメダロットが宙に舞う。
カウンター攻撃がモロに入り、道路に倒れた。

「くそっ。いい気になるなよ!」

ガツン

『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
ラッコメダロットの攻撃を受けてヒザをつくラ・ア・ゲダマー。
足がやられた。2度目のカウンターが通じるとは思えない。
それなら、未知の可能性に流れを託す。

「バルチャー、何でもいい。攻撃しろ!」

「わ、わ、わー!」

バルチャーが両腕を振り回しながら突撃する。
悪ガキたちが声を揃えて笑い出した。

「なんだそりゃ!カッコわりー!」

ズガン

『頭部パーツ、ダメージ40%』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

「え・・・」

吹き飛ばされたカエル型の頭がラッコ型の頭に直撃した。
すかさずラ・ア・ゲダマーに指示を出す。

「ハンマー!」

「はい!」

バキン
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

「う、嘘だろぉ!?」

「勝負あり!ラ・ア・ゲダマーチームの勝利です!」

レフェリーが声高々に勝利宣言をした。
俺は思わず息をつく。

「ビギナーズラックって本当にあったのか・・・」

悪ガキたちはパーツを置くとすごい速さで走り出す。

「てめーら、アタッシャーズに手ぇ出して無事でいられると思うなよ!」

「覚えてろー!」

半泣きで行ってしまった。やっぱりまだ子供か・・・。
呆然と立ち尽くすバルチャー。
去り際に『アタッシャーズ』と奴らは言っていた。
セレクト隊の俺には聞き覚えがある名前だ。

「あ、あ、やった。勝った!」

「感謝します」

ラ・ア・ゲダマーとバルチャーは喜んでいる。
どうしたもんかな・・・。
悩み事がまたひとつ、増えてしまった。

 

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