「どういうことですかボス!」

両手を机にバンと叩き付けて俺は憤った。
机上に置かれた紙切れには今回の事件について事細かく記載してある。
その中には俺への『処分』が含まれていた。

「抱田百碑(カカエダヒャクヒ)隊員。今月の目標を言ってみろ」

ヒビ割れたバイザーの奥で瞳が鈍く光った。
向井眸駿(ムカイボウス)隊長の声はいつも淡々としている。
気圧されることもあるが、今はそんなことを気にしてはいられない。

「『信頼される防犯活動』であります!それと何か関係が・・・」

カチ カチ

「犯人のメダロットを捕まえるまでは言及しない。
メダルを壊そうとしたのが問題だ」

ボールペンの先を押しながら隊長は言った。
俺は熱意のままに反論する。

「しかし!相手はリミッターの緩んだ老朽品でした!
あの場でメダルを破壊しなければ自分たちだけではなく、市民に被害が・・・」

カチン

「犯人に鉄槌を下すのを好まない者もいる。そして・・・。
お前は規則を破った。1ヶ月の謹慎を命じる」

そう言い残して隊長は席を立つ。

「待って下さいボス!納得できません!」

隊長は行ってしまった。同僚の冷たい視線だけが残る。
俺は歯を食いしばりながらバイザーを置き、制服をロッカーにしまった。


ガチャン

自販機からリンゴジュースが落ちてきた。
釣り銭を財布にしまい、缶のフタを開ける。

カシャ

ゴクゴクと喉を動かしてジュースを飲む。
飲み切った後はゴミ箱に捨て、周囲に落ちてる空き缶もついでに入れる。

「ラ・ア・ゲダマー。俺は間違ってるか?」

隣を歩くタヌキ型メダロットに話しかけてみる。
セレクト隊に支給されているメダロットだ。

「私には判断しかねます」

「だろうな・・・」

まさにロボットの答えだ。
メダロットは、人間のように複雑な判断をするのは難しい。
特に俺たちの隊のメダロットは隊員同様、隊長から厳しく言われている。
勝手な判断はするなと。

「1ヶ月も・・・。どう過ごせばいいんだ」

俺にとってセレクト隊の仕事が生活の全てで、他の事は考えられない。
始末書も帰ってすぐに書き終えてしまった。

「どうすれば・・・?」

考えているとメダロットが走ってくるのが見えた。
メダロッターは見当たらない。主人のいない野良メダロットか。
今日びまず見かけない、珍しいメダロットだ。
それも見たことのないパーツで構成されていた。

「助けて。追われてる」

発生音が不自然だ。まさか、違法に作られたメダロット?
もしもそうなら見過ごせない。

「マスターはどこだ?」

「誰、それ?」

「・・・登録ナンバーは?誰に追われている?」

「ボク、わからない・・・」

決まりだ。このメダロットは正規のものではない疑いがある。
しかし、今日から隊員としての行動は禁じられている。
関与することはできない。

「悪いが、市民の安全ならまだしもメダロットの安全など保証できない。
俺は手出しができない。勝手に自首するがいいさ」

自宅に戻るために踵を返す。
ラ・ア・ゲダマーがその場から動かない。

「帰るぞ。ラ・ア・ゲダマー」

「はい」

呼ぶと後に続いた。それでいい。
自首すれば隊長たちが身柄を拘束してくれる。

「待って。ヒャクヒ」

こいつ、俺の名前を呼んだのか?
思わず振り返る。自分には見えないがきっと、間抜けな顔で。

「首・・・」

「あ・・・?」

服にネームプレートがくっついたままだった。
気づかずに歩いていたかと思うと、急に恥ずかしくなる。

「早く来るんだ!ラ・ア・ゲダマー!」

「マスター。どうしたんですか?」

俺は脇目も振らずに帰路についた。


散々な日だった。
テレビを消して、その横にある倒れた写真立てを見る。
気分が優れるどころか、もっと落ち込んだ。

「外にでも行こう・・・」

誰に言うでもなく呟いて玄関のドアに手をかける。
気分が落ち込んでいるせいかずっしりと重く、開けるのに苦労した。

バタン

「う・・・ぐ・・・」

声がする。どこだ。誰だ?
振り返ると、昼間に出会ったメダロットが我が家のドアにもたれかかっていた。
全てのパーツに致命的なダメージを受けているのがわかる。
動いているのが不思議なくらいボロボロだ。

「助けて・・・」

「お、おい・・・」

それだけ呟くと動かなくなった。
機能停止。メダロットの身を守るセーフティプログラムが作動したのだ。

チャリン

「マスター。鍵が開いていましたよ」

月明かりに照らされる六角形のメダル。動かないボディ。
家の中にいたラ・ア・ゲダマーが外に出てきた。

「どうすればいいんだ・・・」

俺はまたしても間抜け面でラ・ア・ゲダマーに尋ねてしまった。

 

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