メダ遊の3Fには数えるくらいしか来た記憶がない。
それも屋上に行く途中で通るだけで、奥まで行ったことはない。
フウミもそんなところらしい。初めての体験だ。
セビトが先に、いかついオジサンたちがいるテーブルへ歩いていく。

「よお。久しぶりだな」

「セビトさん。すんません、すぐどくんで」

「いや、終わるまで続けてくれ」

そのまま、オジサンたちがゲームを終えるのを待った。
麻雀じゃないらしい。メダルを使って何かしてる。

「セビトさんの子ですか?」

「まさか。お前らの若い頃みたいなモンさ」

「へぇ。珍しいですね」

ジロジロ見られてる。フウミが露骨に嫌な顔をする。
終わると、ゾロゾロと他の台に移動していった。

「知り合い?タバコ臭かったぁ」

フウミが席に着きながら手を煽ぐ。
セビトは小銭を摘みながら背をかがめてる。

「そこまで悪い奴らじゃねえ。無下にしないでやってくれや」

オレは手元にあるルールブックを開いた。
メダバナという名前。ルールは、メダル4枚ずつ3列で役を作る。
全員がメダルを表にして合計ポイントの多い人が勝ちらしい。

「セビトがいつもこのゲーセンにいるのは、どうして?」

ルールブックを読みながらセビトに訊いてみる。

「そういう決まりだからだ。ほら、始まったぞ」

中央から裏向きに積み上がったメダルが現れた。
最初は3枚のメダルを取って表にすると書いてある。

カチャ

3枚取る。
手で触ると、メダロットに装着する本物のメダルとは違うことがわかった。
表になったのはクラゲ、ペンギン、クラーケンのメダル。
ここから順番に1枚ずつ取って、いずれかに裏向きのメダルを潜り込ませていく。

「オレ、よく来てるから知ってるんだ」

カチャ

セビトから順番に取る。フウミは手を伸ばすのが楽そうでいいな。

「何の話?」

1枚ずつ、裏にしてメダルを下に繋げていく。
セビトはメダルを取った。

「俺は、腕っぷしで食いぶちを稼いでる」

カチャ

セビトがメダルを置く。
背はオレよりちょっと高いくらいなのに、帽子で顔が隠れてよく見えない。

「俺みたいな奴は他にもいる。もう昔馴染みばかりだな。
警察の手が届かない場所で、俺たちは拳を振るってきた」

カチャ

オレもフウミも、セビトの声を黙って聞いた。

「だが、そんな奴だけじゃねえ。
近ごろは特に、人を食い潰す奴らが増えてきた。
俺たちの目が届く範囲はそう広くない。
少しでも、そういう輩を追い出したくてな」

カチャ

かける言葉が見つからない。
言ってることはわかる。わかるのに、何も言えない。
オレはメダルを取り、置いた。

「このゲームはいい。どんな手でも、捨てられないようにできてるからな」

ダン

フウミがテーブルに手を叩き付けた。

「辛気くさぁーい!要は、悪い奴らがいっぱいいるってことでしょ。
ヨソはヨソ!ウチはウチ!でいこーよ」

オレもセビトも呆気にとられる。
さっきは自分がしんみりしてたの忘れたのか、このねーちゃん。
セビトはセビトで何がおかしいのか、笑いながらゲームを続けてる。

「わはは。そりゃあいい!いいことを言うな、たまには」

「いつもいいこと言ってますから!」

カチャ

考えるのがバカらしくなって、オレは淡々とメダルを置いた。

「お、メダルなくなった」

いつの間にか表1枚裏3枚ずつ、各自メダルが置かれてる。
ふたりも気づいたのか、表に裏返して役を見せ合う。

「ウチは、えーっと10ポイント?」

「オレは13」

最後にセビトがメダルを表にした。
右列はバラバラで1ポイント。
中央列が同じ絵柄の10ポイントで。
左列はデビルから始まる最も高得点な役で20ポイントだ。

「負けたぁー!」

「ズルしてない?それ一番、確率低いのに」

順不同でこの組み合わせじゃないとできない役だ。
何度見直しても、間違ってない。
唸っていると頭の上にぼんと手を置かれた。

「負け惜しみはかっこ悪いぞ、坊主」

このオッサン、いずれ負かしてやる。
野望を胸に秘めているとあることに気づいた。

「・・・引き分けじゃん。どうすんの?」

「ここまでやって引き分けってのは後味がわりぃな」

「屋上いこ、屋上。やっぱり決着はメダロットでつけないと!」

フウミが先に階段を上った。セビトがそれに続く。

「最初からロボトルすれば良かったんじゃ・・・」

軽い頭痛を覚えながらも、オレはふたりの後を追った。

 

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