「この台でどうだ?」

セビトがウロウロしてるオレとフウミ呼びつけた。
クモ型メダロットがケースの中で、巣の上を動き回っている。
パーツトラップって名前らしい。巣の上にはストラップが山盛り乗っていた。

「クモ!セビトって、趣味悪すぎ・・・」

「ギャースカうるせえぞ」

耳に手を当てるセビト。フウミはどう見ても腰が引けてる。
オレはゲーム説明をすでに読み始めていた。

「次コレ?セビトから2回ずつってことで」

「ね、ねぇ。ホントにやるの?」

チャリン

「先にやってやるからよく見てな」
セビトもやる気満々だ。
手元にある9つのボタンが光り始めた。
クモは相変わらず動き回っている。

ポチ

セビトは2列目の真ん中のボタンをためらいなく押した。
クモが巣の下側に移動して、巣の真ん中に触れる。
するとパネルが開き、上に乗っていたストラップが落ちてきた。

「どうだ。一気に4つだ」

「4つもケータイにつけるつもり?」

オレの問いかけでセビトが口をつぐんだ。
このオジサンは、後先ってものを考えるのが苦手らしい。

「余計なこと言うな。気分が萎む」

また、クモメダロットが移動し始める。
怒られたオレは仕方なく、フウミに声をかけた。

「フウミって、いつも学校帰りに来てんの?」

「ウチ?まーね」

さっきから元気がない。入り口の方向をチラチラ覗いてる。
クモが苦手なのかと思ってたけど違うみたいだ。

「アレ、フウミんとこの生徒だろ」

「付き合ってるカレと友達、っぽい・・・」

気軽に訊くんじゃなかった。思ったより深刻らしい。
フウミはため息をつきながら向きを変える。

「はーあ。何でうまくいかないかな。勉強は、もっと簡単なのに」

「次、お前の番だ」

セビトがフウミに順番を譲る。
嫌な顔しながらフウミはサイフを出してボタンを押した。
1回目はハズレ。クモメダロットが開けたパネルからストラップが落ちる。
落ちたストラップは下の巣で集められ、上の巣に戻されていく。

「バイトも恋も長く続かなくて。みーんな、時間にうるさすぎ」

2回目は左下のボタンを選んだ。落ちたストラップが、また上の巣に戻される。

「もー!何よこのゲーム!」

バシンと手で見えない壁を叩くフウミ。
オレは順番を変わって、選ぶボタンを考える。
1回目、中央列の右。予想は当たり、ストラップが落ちてきた。

「進学校だろ、あそこ。よく勉強ついてけるなー」

ゲームを続けながらオレは言う。
3年生がよく口にする名前だ。難関校だって聞いてる。
平凡な偏差値のオレが3年間がんばっても、絶対に行けない。
そんな学校だって先輩が言っていた。

「社会のルールってやつだ。
時間を守らない奴は、団体の足を引っ張ることになる」

セビトが呟くように言う。
フウミはうつむきながらヌイグルミをいじっている。
2回目、上列中央。成功した。大量のストラップが落ちてくる。
1回目の分と合わせると片手に収まり切らない。

「遅刻する奴がいないのは変。
ひとりも足を引っ張る奴がいないなんて、気持ち悪い。
んで、これあげる」

オレは言いながらストラップをふたつずつ、セビトとフウミに渡す。
フウミはさっきより少し明るい顔でそれを受け取った。

「ありがと・・・」

逆にセビトは渋い顔をしていた。

「おい、こんなにいらん」

「そんなこと言わず受け取ってくれよパパ」

「こんなに生意気なガキを育てた覚えはねえ」

「アンタたち、親子だったの?」

フウミがオレたちの様子を見て呆れた声を出す。

「言わなかったっけ?」

「違う。絶対に違う」

否定し続けるセビトを揃ってパパと呼びながら、オレたちは通路の奥へ進んだ。

 

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