メダ遊に入ってまず目につくのは景品つきゲームだ。
挑戦に成功すると景品が手に入る、いわゆるプライズゲーム。
特にクレーンゲームは人気でかなりの数が設置されてる。

「だからってクレーンじゃ勝負にならん。他にしろ、他に」

オレの頭の中を覗いたのか、オジサンがそう言う。
ねーちゃんは渋々オレたちを他のゲーム台の前に呼び寄せた。

「じゃーこれ。メダコロやろー!」

ケースの中にすべり台が置いてある。
いや、これは坂道らしい。端に登山客の絵がある。

「始める前にふたりとも名前。オレはウエノタダシ」

一応の礼儀として言ってみた。
ねーちゃんがくねくねしている。

「えーでもぉ」

「俺ぁセビトユクラ。セビトでいい」

赤帽子のオジサンが先に名乗った。
オレも名字で呼ぶように言うべきだったかも。
ねーちゃんはふてくされた顔をしている。

「ウチが先だったんだけど?」

「遅いんだよ」

「まあまあまあ」

またケンカし始めそうな雰囲気をさえぎるように割って入る。
ねーちゃんは短めの髪をいじりながらオジサンから離れた。

「はー。名前だっけ?タガサマフウミ。フウミね」

「ルールはどうすんの?」

オレが訊くとフウミは口をとがらせて考える。

「1回100円だからぁ、1人2回ずつ」

「たった2回か?」

セビトは不満そうだけどオレは賛成した。

「子供は使えるお金が少ないんだ。2回に賛成」

「決まり!取った数が多いほうが勝ち。ウチからね」

チャリン

100円玉を投入してフウミは手前の大砲の角度を調整する。
大砲っていっても片手を広げたくらいの小さい砲台。
制限時間があるらしく、大砲近くのパネルに映る数字が刻一刻と減る。
数字が残り10カウントになったところでフウミはボタンを押した。

ポン

野球ボールより小さい球が上向きに発射される。
ケースの天井に当たって向きを変え、奥にある鏡のような板まで辿り着く。
大きくカーブした鏡でさらに大きく進む方向が変わった。
ボールはそのままの勢いで坂の上へ。
坂を下る途中に男型、女形のティンペットの絵がある。
後ろ向きの絵だ。ボールは背中にあるメダル型の穴に入った。
『Good Reflect!!』

ぼす

文字が点滅してCAT型メダロットのヌイグルミが落ちてきた。
フウミはヌイグルミを抱きながらオレたちに順番を譲る。

「簡単でしょ?ほら、タダシやってみなよ!」

「メダル穴にボールを入れるだけ。よおし」

チャリン

小銭を入れる。大砲を両手で動かし、上下左右に狙いを動かす。
カウントが2になったところで導火線マークのボタンを押した。

ポン

飛ぶボール。天井、鏡で跳ね返って勢いよく進む。
だけど勢いがよすぎて坂を一気に駆け下りてしまった。
手前にある板にぶつかって、端の回収用らしき穴に落ちてしまう。

「げ」

「しっぱーい」

フウミに笑われた。狙いは悪くなったはす・・・。
セビトがオレをどかして大砲を動かし始めた。

「へ、こんなもん。見てろ・・・」

ポン バババ

壁を何度も跳ね返りながら進むボール。見るまでもなく失敗。
フウミとオレは顔を見合わせて笑った。

「プッ」

「セビト、オレよりヘタクソ」

「ちっ。ちょっとばかし調子が悪かったんだよ」

ふてくされている。この人は本当に大人か?
順番が一巡した。次はまたフウミの番。

「よぉーく見てなさいよ」

余裕しゃくしゃくな態度で砲口を向ける。
フウミの手元を見る。パネルに表示された数字がやはり減っていく。
カウントが9を示したとき、フウミは発射ボタンを押した。

ポン

飛ぶボール。球がカーブに沿いながら転がって坂から飛び出す。
最初と同じく、女型ティンペットの絵に入り込んだ。
『Good Reflect!!』

ぼすん

BNY型メダロットのヌイグルミが取り出し口に落ちた。

「どう?こんなもーんよ」

2体のヌイグルミをバッグに入れるフウミ。
踊り出しそうなくらいご機嫌だ。あ、回った。

「次オレなんだからどいてくれよ」

「はいはーい」

両手でしっかりと砲台を持ち角度を合わせる。
カウントが着々と減っていく。カウントが20を切った。
狙いをつける。今度こそ・・・。
そこでふいに考える。さっきはどうして失敗したのか。
狙いは悪くなった。フウミのやり方とどこが違う?
カウントが15を切る。フウミは、むしろ狙いはオレより甘かった。
手元の数字が10を切って、オレはようやく気づいて発射ボタンを押した。

ポン

飛んでいったボールが坂を下って男型のティンペットに向かう。
六角形の穴に入ると文字看板が光った。
『Excellent Reflect!!』

ぼす

取り出し口にメダロットのヌイグルミが落ちてきた。

「やりぃ!」

BER型メダロットのヌイグルミを取って高く掲げる。
耳部分にはバーコードのアクセサリーがくっついていた。

「ベティベアぁ!?見せて!」

「うわっと」

フウミがいきなり食いついてきた。
例えじゃなく、本当に噛み付きそうな距離まで突っ込んできた。
心臓に悪いねーちゃんだ。

「うわー。うわー。ホントに出るんだぁ」

「それ、レア?」

「そう!何っ回やっても出なくてー」

ヌイグルミを持って興奮してるフウミ。
オレには良さが全然わからない。

「欲しいならあげてもいい」

「え!いいの?」

オレは片手を突き出して手のひらを上にした。
フウミはじっとそれを見つめてくる。

「・・・わかった!握手?」

「100円」

「可愛くねー・・・」

「オレはヌイグルミじゃないしなぁ」

サイフに100円をしまった。
フウミは真似できないくらい喜んでるみたいだ。

「あー!くそっ!」

その横のゲーム台で、セビトが悔しがる声が聞こえた。

 

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