カーン

「ロボトルぅーファイトッ!」

ゴングが響く。

飛び交う弾丸。鳴り渡る金属同士がぶつかり合う音。

まるで戦場だと、ぼんやり思う。

っていうか。

「何でレフェリーがいるんだ?」

「さあ?我々は職務を全うしているだけだからね」

今日もセレクト署内でお茶を飲む俺。

ウルは外でセレクト隊がロボロボ団と戦っているのを見てる。

あれから何週間経っただろう。

ボロボロになったウルのパーツ一式を新調して。

ティンペットにもキズが入ってたから修理に出して。

パーツをカスタマイズして。調整して。そのカネを稼ぐために働きまくって。

やっとマトモに出歩けるようになったと思ったらコレだ。

「近ごろロボロボ団の活動が目につくようになった」

「つうか俺たちがサンザン被害届け出してたけど」

「見たまえ、我らがセレクト84分隊の勇姿を」

話をそらしやがった。それでも責任者か。

外に出てみるとまだ戦っていた。

「セレクトビームだ!」

「アイサー!」

カッパ型メダロットの頭部に光が集まり、ほどなく細い光線が放たれる。

ビーッ

「に、逃げるロボー!」

機能停止したコウモリ型メダロットを抱えて逃げる黒タイツ集団。追う白バイザー集団。

どっちもマジメにやっているんだろうが面白い光景だ。

「カッパーロードって、対水射撃が強いメダロットのハズじゃ?」

「正しくはカッパーロードKKだ。特注品というヤツだな」

「ここ港町じゃないっすよ。水辺も少ないし」

「細かいコトは気にするな」

どこかズレている。

そのズレたヤツらに追い回されるロボロボ団もどこかズレている気がした。

ロボロボ団か・・・。

「ジク、今日もロボトルしないの?」

「んん・・・」

俺たちはずっとロボトルをしていない。スランプだ。

いや、ウルは戦いたがってる。俺だけがスランプなんだ。

ウルが直ってすぐ、近所のメダロッターとロボトルしようとした。

でも、できなかった。

相手を目の前にすると冷や汗が垂れるようになった。

怖いんだ。負けるコトが。

負けなしだった俺たちを負かしたメダロット。アイツが頭によぎる。

ワケのわからないカタチ。ワケのわからないパワー。

どれだけ強くなっても勝てる気がしない、ワケのわからないオーラ。

俺はそれがニガテだ。次に会ってもまた逃げ出してしまうだろう。

そんな情けない姿をウルに見せたくなかった。

「ジク!ジクってば!」

「あ、あぁ。帰るか」

話を聞いていなかったらしい。このごろずっとそうだ。

セレクト署から出てアパートに向かう。その一室にある自宅に戻るためだ。

「ジクさ」

「おう」

「最近ロボトルしないね」

「そーだな」

たわいもない話。すぐに家の前に着いた。

今日はバイトが休みだし、メシ食って寝よう。

階段に片足を乗せた。

「ジク!」

「えっ?」

ウルがこっちを見てる。いや、ニラんでいるのか?

「ジクのいくじなし!」

「な、何だよいきなり」

コイツがこんなに怒ってるなんて初めてだ。何だってんだ?

ワケがわからないのに怒られたら、俺だって黙っていられない。

「何の話だよ!」

「バカ!いくじなし!」

「なにぃ!?」

「怖いんだ!ジクはアイツが怖いんだ!」

「アイツって誰だよ!さっきからおかしいぞお前!」

「ジクはあのオオカミ頭のメダロットが怖いんだ!」

「バッ・・・」

言葉に詰まった。ウルが直視できない。

チラリと横目で見る。やっぱり怒ってるようだ。

「バカ、そんなんじゃねーよ」

「ウソだ!アイツに負けてから、おかしいのはジクのほうだよ!」

胸にグサリと刺さる。イタい。コトバがイタい。

何より、何一つ言い返せない自分がイタイタしい。

「だから・・・」

「へなちょこ!」

だからって言いたい放題はよろしくない。今のはかなりムカッときた。

「また負けたらどうすんだよ!お前、取られちまうんだぞ!」

叫んでいた。というより、怒鳴っていた。

大人しくなるウル。だがそれもつかの間。

「へなちょこメダロッターと一緒にいるくらいならロボロボ団の手下になったほうがマシだっ!」

「お、おい・・・」

「探さないでください!」

どこでそんなコトバ覚えてきたんだ。

ウルは怒りながら走り去ってしまった。

何だよ。急に・・・。

バタン

「ケッ、勝手にしろっての」

フキゲンなままドアを閉める。部屋はゴチャゴチャしていて足の踏み場がない。

特にパーツをいじるために使う工具がそこかしこに散らばってしていた。

そういえば昨日はアイツ、自分でメンテしてたっけ。

「・・・何だよ」

窓辺に猫がいた。黒い猫だ。

黒猫は不吉らしい。良くないコトが起きる前触れ。そう先輩に教えてもらった。

ぴょん

見ていると黒猫はどこかへ行ってしまった。

「どいつもこいつも」

ため息をつく。

アイツ、どこ行くつもりなんだろ。

ウルは近所のメダロットとはあまり仲が良くない。

行くトコなんてないハズだ。

じゃあ、どこに・・・?

「あっ」

ウルのコトバを思い出す。

『ロボロボ団の手下になったほうがマシだっ!』

まさか、アイツ。

長袖のシャツを着た。戸締まりをした。

俺は走り出す。あの浜辺に向かって。


「たしかココらへんに・・・」

ゴミだらけの浜辺に着くと、すぐに看板は見つかった。

夜だからもっと迷うと思ったが。とにかく。

「ぐぬぬ」

看板を引っ張る。そりゃあもう背中が痛くなるくらいに。

なかなか抜けない。ウルがいないからパワーが足りないんだ。

「くそおおおおおお!!!」

力任せに引っ張る。引っ張る。

すぽーん

「あああああぁぁぁ・・・」

やっぱり落ちた。

ドスン

「いてて」

「イテテ」

あれ?下に何かいるぞ。

どいてみると、水色のDOG型。ウルだ。

「ウル!」

「ジク!どうしてここに?」

「お前の考えるコトぐらいわかるっつーの」

「くそぉ」

「へへ」

砂に埋まって身動きが取れないみたいだ。手を出してウルを引っ張り上げる。

「ありがと」

「いいって」

「何しに来たの?」

「何って、お前・・・」

前を見る。あるのは広すぎる洞窟と明るすぎる明かり。

もう後にはひけない。俺は覚悟を決めた。

「ロボトルするために決まってんだろ」

「ホント!?」

「あぁ、ホントだ」

「やった!」

ウルの頭を軽く叩いてやる。仲直りを喜んでいる場合じゃない。

この先にはアイツがいるんだ。きっと。

「行くぞ」

「うん!」


石のトビラ。あの時のままだ。

ドンドン

「入ってまーす」

まただ。何を考えてるんだコイツは。

「まだいたのかよ」

「何だキサマか」

「何だとは何だ。今日こそ俺のティンペットを返してもらうぞ」

「こりないね。ロボトルするのか?今度は・・・」

カーテンがない。アイツはキカイをいじってる。

キカイに囲まれているのは、やっぱり。

「最初からコイツで相手をするよ」

オオカミ頭のメダロット。いや、オオカミじゃない。

コトバにするなら『バケモノ』だ。前よりずっとムキシツになっている。

怖い。怖すぎる。だけど。

「さっさと構えな!」

「準備オーケーだよ!」

腕に巻いたメダロッチを構える。ウルも銃口を向けた。

「フッ。いいだろう。だが私は戦わない」

「ビビってんのか?」

「ああ、コイツにね。コイツは起動したが最後、メダロッターの意思に関わらず戦うんだ」

俺たちを見ようともしないムカデ。相変わらずニヤニヤしていやがる。

「今度は無事じゃ済まないかもな。ま、がんばって」

「ナメられたモンだな、俺たちも」

「ムカッ!」

ウルと俺は顔を見合わせた。もう無駄話はいらない。

「ロボトル開始だ!」

ふたりの声は洞窟内をビリビリ震わせた。

 

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