「警備員、研究員の皆さん。これは緊急事態です」

地上1Fの監視室に集まった人びと。
帰り損ねた者たちが招集され、固唾をのんで警備員の話を聞いていた。

「今夜は台風接近による泊まり込みとなっています。
ですがご存知の通り、先ほど何者かが地下に侵入しました。
緊急に隔壁を降下させていますが効果は薄く、足止めにしかならないでしょう。
それと・・・」

隣の警備員が言葉を続ける。

「ミジュウ博士が地下3Fに残っているようです。
ハッキリとはわかりませんが、どうやら浸水しているのを発見した様子です。
さらに、警備員2名が独断で侵入者の足止めに向かっています。
ここにいる研究員9名警備員12名の計21名から彼らを差し引くと18名。
この18名で侵入者を確保する必要があります。」

「わ、私たちもですか?」

研究員のひとりが不安そうな声を出した。
警備員はゆっくり頷くとなおも話を続ける。

「試験機体が盗まれた以上、われわれだけでは対処しかねます。
協力をお願いしたい。皆さん、メダロッチは?」

「あ。自宅に・・・」

「俺も」

「私も・・・。すみません」

誰ひとりとしてメダロッチを持ってないことを確認した警備員。
頭に手を当てながらウロウロしている。
彼の苦悩を知ってか知らずか部屋に入り損ねた研究員が手を挙げた。

「そういえば、地下1Fの準備室に予備のティンペットが置いてあるはずです。
メダルもいくつか・・・」

「それだ!われわれはそれらを取りに行きます。
研究員の皆さんは待機していて下さい。
侵入者への対応も行いますので、くれぐれも独断で動かないようお願いします」

青い帽子を被り直し、彼らは地下へと急いだ。


空き箱やイスで塞がれた大穴。
押し込み終えたわたしとゾーリンは実験室を後にした。
廊下の外れた受話器を取り内線を使う。
かける先は監視室。監視カメラで何が起きているか見えているはず。

「もしもし。ミジュウです」

「博士、ご無事でしたか!浸水のほうは・・・」

「はい。今のところ止まっています」

「救出に向かいたいのですが現在は侵入者への対応で手一杯です。
危険ですのでその場で待機していて下さい」

「わかりました」

ガチャ

受話器を戻して持ってきた用紙とボードを取り出す。
侵入者は階段を上っていった。わたしも急いで後を追いかける。

「マスター。もう塞がなくてもいいのですか?」

「ええ。試験機を追いましょう」

長い期間をかけて完成させた試験機。
データを取る前に彼らのパーツを壊されてはたまらない。
幸か不幸か、全機起動しているのがすれ違った時に確認できた。
こうなったらせめて実戦データだけでも・・・。

ギギギギギギギギギギギ

いた。侵入者。
角に隠れて様子を伺うと隔壁を破壊しているのがわかる。
奥には警備員が3人。侵入者の前に立ちはだかるのが見えた。

「誰だか知らないがここは通さない!メダロット転送!」

ジジジジ

並ぶカニ型メダロット3体。やや小型のタラバクラバたち。
侵入者は背を向けていて表情はわからない。
それでも肩が小刻みに揺れ、笑っているのが想像できた。

「ゴウカイランキ!」

唐突に名乗る男。よく通る声なので聞き逃しようもない。
途端に、警備員たちがたじろぎ始めた。

「ゴウカイランキって確か隣町の・・・」

「セレクト隊が追っている凶悪犯じゃないか!?」

「手当り次第に入り込んでるからな・・・」

ランキと名乗る侵入者の近くで声が聞こえる。
試験機に隠れて見えにくい。メダロット?

「一応、止めたんですが。セレクト署だけはと・・・」

別の声。ため息をついているように聞こえた。
また大きな声が廊下に響く。

「ウタゲズキー、オドロモンス、イロイガンナー!」

試験機の名前。気づかれないよう近づいて隔壁に隠れる。
3体のメダロットが奥に行った。
恐る恐る除き見ると、やはり試験機。
でも、メダロッチがないのにどうして従っているの?
その気になれば逃げ出せるはずなのに・・・。

「ロボトル開始じゃ!」

また別の声がロボトル開始を宣言した。
とても嬉しそうな声で。

 

戻る

inserted by FC2 system