「だからさー、クレープが辛くてもいいと思うワケ」

「話がズレすぎていて話になりません」

「ジクはバカだからねぇ」

「ウルッ!お前どっちの味方だ!」

「パーツのメンテ手伝ってくれるほう」

ここはセレクト署。いわゆる『メダロット犯罪専門の相談所』

だからこうして毎日のように顔を出してあの事件を説明しているのに。

一向にわかってくれる様子がない。困ったモンだ。

「まったく困ったモンだ。署はメダロットのメンテナンス工房じゃないんですよ」

「お茶飲み場でもないですよ」

と言いながら渋々お茶を出してくれるセレクト隊員A。

「どもっす。これがないと一日が始まる気がしなくって」

「やれやれ・・・もう来ないでね」

ティンペットを盗まれてから毎日ここに顔を出すようになった。

俺は諦めていない。もちろん、ウルもだ。

「ジクよりネジ回すの上手だった」

「なにぃっ!かしてみろ!」

「もうやってあるってば」

「チッ。バイトにでも行くか」

今日は俺が店番する日だ。さっさと着替えてコンビニに向かうとしよう。


「らっしゃい!」

「は、はい」

俺がバイトしていると客はなぜかビクついている。フシギだ。

入ってきたのは2人組。俺は声がデカい方だが、その俺でもわかるくらいにデカい声で話している。

「そーいや最近、海行ってねーなぁー!」

「そーだなぁー!」

「××町の浜辺なんかいーよなぁー!」

「いーねぇー!でもあそこってよぉー!」

「ゴミだらけだよなぁー!誰も片付けねーしぃー!」

「野良メダロットでもいるんじゃねぇー!?」

「こえーなぁー!」

「おい、あんたら」

ぬっと割り込む。ビクつく客ども。

「な、何ですか」

「でかした!」

なるべく店員らしい態度でお礼を言った。


その日の夕方。

ウルを連れてやってきた、知らない町の知らない浜辺。

オレンジ色に燃える光に照らされてウルのボディが赤く染まっている。

「ヒデーなこりゃ」

浜辺に詰み上がったのはメダロットのパーツのゴミ、ゴミ、ゴミ。ゴミゴミしている。

メダロットが流通してから、こういった壊れたパーツを勝手に捨てるヤツが後を絶たない。

おかげで俺みたいな貧乏人が使えそうなパーツを見つけて生計の足しにできるんだからインガなもんだ。

「ジクぅーこっちに怪しい看板がー」

ウルに呼ばれて行ってみると『危険立ち入り禁止ロボ』の看板が立っていた。あからさまに怪しい。

「いいぞ、ウル!」

「へへへ」

頭をなでてやると嬉しそうにする。

メダルはメダロットの性格を決めるらしいが、メダルの名前そのまますぎて時々フシギだ。

「でだ。とりえず」

「うん。とりあえず?」

「ひっこ抜いてみよう」

「アイヨ!」

うーんうーんとうなって力を合わせて看板を引っぱる。

よほど深く突き刺さっているのか簡単に抜けない。

「キバれー!ウルー!」

「ジクもっと力入れて!」

「全開だあああああ!!」

スポーンッ

抜いたら落ちた。

落とし穴だった。


ぼすっ

「くっそー。ウル平気か?」

「ボディが砂まみれで気持ち悪い・・・」

「コウミョウなワナ、だな」

「ヒキョーだ!」

悪態をつきながら辺りを見回す。また殺風景な場所だ。

どうやらここは洞窟のようだった。

ついこの間、洞穴探検したばかりなのに。また穴ぐらか。

「あのタイツヤロウども、モグラみたいなヤツらだな」

「ロボロボ団でしょ」

前と違って明かりは十分な数が壁に埋め込まれている。

そして広い。20人以上は並べそうな幅の広さ。

ロボロボ団がどれだけいるかは知らないが、人間が作ったモノじゃなさそうだ。

「ジク」

「どうした?」

立ち止まるウル。俺のズボンを引っ張ってくる。

「ここヘンだよ」

「どこが?」

「このドークツ全部、ヘン」

メダロットにも感情はある。だからビビることもある。

だけどウルがビビるのは珍しかった。普段から俺と一緒に突っ走ってるヤツなのに。

「らしいな。帰りたいか?」

「・・・ううん、帰らない!先に行こう!」

「オウヨ!」

俺たちは洞窟の奥へ進む。すると、道がせまくなってきた。

そんなのは知ったコトじゃない。気にせず進む。

すると。

「ドアだな」

「ドアだね」

いかにも石で作ったってカンジのドア。ドアは叩くモノ。

ドンドン

「入ってまーす」

声が返ってきた。ここで間違いないらしい。

ガチャ

「お邪魔しまーす」

「入ってるって言ってるだろ、おい」

「だから入ったんだよ」

声の正体はコイツだった。ムカデとかいう、ロボロボ団。

あいかわらずニヤニヤしている。メダロットはカーテンらしきモノを閉めていた。

狭い部屋だ。といっても走り回れるくらいの広さはある。

来るまでに通ってきたデカい道と比べたら狭いってだけだ。

「ティンペット返せ」

「なら、ロボトルするか?」

「いいぜ!ロボトルだ!」

「もう逃がさない!」

「決まりだな」

ウルも俺もやる気マンマンだ。

そして。

ドドドドドドッ

「・・・フム」

「同じテにはノらないぜ」

先に部屋じゅうにしかけられていたトラップを破壊した。

『右腕パーツ、ダメージ12%』

少しばかり当たったが、このくらいへっちゃら。

「やるぜ!」

「やるよ!」

「本気というワケか。私もカクゴを決めよう」

ニヤニヤが収まった。いいぞ。

トカゲ型メダロットとウルが向かい合う。

にらみ合う2体。

動いたのはアイツが先だった。

「サグリザー。左腕設置」

「ウル。右腕連射!」

カチッ

ガガガガガガ

「チッ」

「させねぇ!」

『左腕パーツ、ダメージ43%』

『右腕パーツ、ダメージ22%』

バラまかれたトラップを設置される前に撃ち落とす。

落とし切れなかったトラップの攻撃でこっちもダメージを受けたが、まだまだ平気だ。

「キサマ、弱点がわかっているようだな」

「まあね」

そう。トラップを使うメダロットの弱点は『トラップが無効化されると攻撃できない』こと。

そのくらいは俺もウルもわかってる。

しかし。

「サグリザー、動きながらバラまけ」

「させるかよ!」

ドドドッドドドドッ

『左腕パーツ、ダメージ60%』

『右腕パーツ、ダメージ41%。脚部、ダメージ13%』

まただ。左腕で防御しながらトラップを設置している。

長期戦に持ち込まれるのはヤバい。ヤツの攻撃がどんどん増えちまう。

右腕のダメージも増えてきた。マズい。一気にカタをつける。

「リニアカノン1!」

「オーケー!」

「またそれか。奥の手は何度も見せるモンじゃないぞ」

ウルの頭部がスライドする。デカい砲門がトカゲメダロットに狙い定めた。

が、すぐにハズされる。速い。

ガガガガガガ

『頭部パーツ、ダメージ27%』

「ウル!」

「大丈夫。任せて!」

ピピピ

照準スコープがゆらゆら揺れる。

元からこの攻撃は狙いが甘い。動き回る相手に当たるワケがない。

「その攻撃はもう見ている。当たるワケがないだろう」

「うっせぇ!」

ムカデにも言われた。言われなくてもわかってるっつうの。

ガガガガ

『頭部パーツ、ダメージ49%。脚部パーツ、ダメージ32%』

聞くな。集中しろ。

狙え。逃がすな。そして。

「撃て!ウル!」

ドゴムッ!

ドゴッ

『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

『左腕パーツ、ダメージ89%。発射口損傷。使用不能』

「何っ・・・」

「どうだ!」

「どーだぁ!」

当たった。マグレだ。でも、運も実力のウチってヤツだ。

相手は動きがノロくなった。ウルに言うまでもない。

大チャンスだ。

「右腕掃射!」

「サグリザー、頭パーツ使用」

ドドドドドドッ

ガガガガガガガ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

相打ちだ。食らいついてくる。

「まだまだっ!」

「頭部使用」

ドウンッドウンッ

ガガガガガガガ

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

『脚部パーツ、ダメージ78%。バランサーに異常発生』

足がやられた。これで条件はほぼ互角。いや。

「追いつめたぜ」

「見抜かれてしまったか。そう、サグリザーの頭部残弾はあと1発」

「こっちも似たようなモンだ」

「ならば、決着は近いな」

「ああ」

「オレはまだ戦える!」

「マスター。指示を」

他者多様。言いたいことを言い切って、黙る。

ギリギリだ。目が離せない。まばたきができない。

次に動いたのは、ウルの方だった。

「角度修正!左に8度!」

「避けろ」

ドウン


『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

背部からメダルが放り出された。

頭部が機能停止したメダロットは行動できず、安全保護のためメダルが強制排出される仕組みだ。

つまり、俺たちは勝ったってコト。

「やったぜ、ウル!」

「ジク、よくアイツの位置がわかったね」

「まさか本当に負けるなんてな・・・」

抱き合って勝利の喜びを確かめ合う俺たち。メダルを拾うムカデ。

「アンタの目だよ。攻撃する時、視線がブレた」

「思っていたよりカシコイらしい。ハハハハ」

「そんなことより、約束だ!」

「ティンペット返せ!」

「ああ、そのことなら・・・」

詰め寄る俺たちを見てニヤつくムカデ。そして。

「もう使ってるからムリムリ。そんじゃあな」

逃げた。

「おい、ふざけんな!」

「フザケンナ!」

「ハハハハ。ニゲゴシのムカデ様を捕まえられるかな?」

カーテンの向こう、ニヤニヤしてるのが丸わかりな笑い声。

ブチッ

頭の中で何かがキレた。

「このヤロー!ボコボコにしてやる!」

「ハチノスにしてやる!」

腕っぷしをまくり上げて真っ赤なカーテンを突き破る。

振り上げた拳。向けられた銃口。

その先で笑うムカデ。

笑う理由が、やっとわかった。

「何だ、コイツ」


目の前にメダロットがいる。

キバが生え揃ったオオカミのような頭部。

どデカい戦車砲のような右腕。

発射口がたくさん空いている左腕。

脚部パーツは半透明で、剥き出しのティンペットが赤く染まっている。

まるでゼリーのような何かに覆われているだけで、それがパーツだとは思えなかった。

どれもこれも細長いクダで奥のキカイと繋がっているようだ。

「ジク?」

心配そうにこっちを見ているウル。

「大丈夫?」

コイツに心配されるとは。よほどヒドい顔なんだろう。今の俺。

「ああ。そうだ、ムカデは?」

「私ならここにいるぞ」

不気味なメダロットの背後からひょっこり出てきたグラサンタイツ。

ニヤニヤしている。今はそのニヤニヤが、今まで以上に嫌らしく見えた。

「返せよ。ティンペット」

「キサマのティンペットはコイツに使わせてもらっている」

何だと。

高いカネ払って買った商品が見ず知らずの人間に。

しかもワルいヤツに勝手に使われているだと。

ワケがわからない。

「ロボトルで勝ったら今度こそ返してやってもいいぞ」

「・・・本当だな?」

「ジク。オレまだ戦えるよ!」

「ああ。ロボトルだ!」

メダロッチを構える俺。

それとほぼ同時に。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

雨が横向きに降ってきた。

弾丸の雨だ。スローモーションのようにハッキリと粒が見えた。

粒の一つ一つが冷たい感情を持っていて。それでいてメチャクチャで。

まるで怒っているみたいだ。

怒りが、ウルを吹き飛ばす。

吹き飛ばされた体は洞窟の壁に叩き付けられる。

振動で上からカタいカケラがコツンと、俺の頭に直撃した。

痛い。やっと感覚が戻る。

「私の勝ちだ。そのDOG型は貰うぞ」

手を伸ばすムカデ。払いのける俺。

「逃げるぞ、ウル!」

ウルを抱える。ティンペットが剥き出しだ。

この日、ルールを破ったのは俺たちの方だった。

 

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