「メダロット転送!」

ジジジジジ

「クイスターガードが到着しました」

「まるで荷物のようだ」

手首に装着したメダロッチでクイスターガードを転送する。
メダロットが普及した昨今。急に現れるというのはさほど珍しいことではない。
むろんメダロットに限った話ではある。

「もう一度。メダロット転送!」

ジジジジジジ

「勇気を胸に悪に立ち向かうブレイブメダロット。クイスターガード参上」

「良さげな線だ。しかし物足りない」

われわれは線路沿いを歩いている。
風が強い。クイスターガードが時折、電柱にしがみついて強風に耐えている。
短い髪がなびいた。強すぎる風。まるで台風のように。

カンカンカンカン

ガタンゴトン ガタンゴトン

踏切が下がる。間もなく電車が目の前を通過した。
クイスターガードはまだ電柱を支えにしている。
道を戻ろうとした矢先に少年の悲鳴がとどろく。

「たすけてー」

「うわあ!」

悲鳴をかき消すように新たな悲鳴が踏切の向こう側から発せられた。
よたよたしながら歩いている少年は後回しでいいだろう。
クイスターガードに追いかけられる形でわれわれは現場に急行する。


メラメラ

「どどどうしよう!?」

燃える牛乳パックを振り回して火を消そうとしているメダロット。
赤いボディの飛行メダロット。PHX型だ。

「おや。デスフェニックスじゃないか?」

「誰か助けを呼んでくれ!
ロボトル終わった後に火を出したら、急に燃え上がって・・・」

焦げた紙パックを落として叫び散らすデスフェニックス。

「われわれに任せたまえ」

ガラガラッ

「だ、誰だあんた急に」

「火事だ。消化器を使わせてもらう」

近い家から消化器を借りてデスフェニックスの元に戻る。
安全栓を抜き、燃え盛るゴミ袋にノズルを向けてレバーを握った。

ブシャーーーーーーーーーー

白線が走る。横風が強いためやや近づいて使う。
積まれたゴミ袋を覆う火が下から順に消えていく。

バサッ

洗濯物らしき衣服が風にあおられて飛んできた。
案の定それらはゴミ袋に着地して着火。このままでは危ない。

「デスフェニックスくん。君も手伝いたまえ」

「す、すぐに取って来る!」

風に乗ってデスフェニックスは消化器を取りに行く。
ようやく我がパートナーも到着したようだ。

「火事?」

「訊くまでもないだろう。剣を使うのだ」

「とーうりゃ」

バシャー

長いが折れた形の剣で大量の酸液をまき散らすクイスターガード。
それらを避けるように燃える衣服が宙に浮く。
飛んで行った先には積まれた雑誌、新聞紙が置かれていた。

メラメラメラ

「まずこちらを先に消化しよう」

「はーい」

ゴミ袋を鎮火してすぐに紙山に向かう。
幸いどれも紐で結んであったがこの風だ。早く消化してしまわなければ。

ブシャーーーーーーーー バシャー

われわれは消化器とメルト攻撃で消化にあたる。
猫が転がってくる。危ない。
片足で紙山に突っ込みかけていた猫を支えながら消化を続けた。
なんなのだ。この畳みかけるような連続攻撃は。

バサッ

そしてついに紙山の一部が舞い上がった。
曲がり角の垣根に向かって揺れるように飛んでいく。
危ない・・・。そう思った矢先に角からデスフェニックスが戻ってきた。

「取れ!」

「へっ!?」

尻尾と肩を使って紙を受け止める。なかなかの器用さ。
われわれは彼ごと紙を消化しようと試みた。
だが、連鎖はまだ続いていく。

メラメラ

取り逃した紙切れが垣根に届いてしまった。
緑が火に包まれ始める。
これ以上、火の手を広げるわけにはいかない。

「ここで連鎖を終わらせるのだ」

われわれは残り少ない消化器と酸液を。
デスフェニックスは取ってきた消化スプレーふたつで懸命に消化に当たった。

ブシャーーーー バシャー プシュー


半分ほど黒く染まった葉っぱを見て安堵の息を吐く。
家の住人が騒いでいるが、残った半分で我慢していただこう。
デスフェニックスと手を取り合うわれわれ。

「見事な体さばき。よほどロボトルで慣らしたのだろう」

「それほどでもないさぁ」

「頭が燃えないか心配だったよ」

心配そうに頭をかばうクイスターガード。
デスフェニックスがそれを見て頭を下げた。

「いやぁつくづく助かった。ふう」

ボッ

「危ない!」

デスフェニックスが頭パーツから火を吹き出した。
危険を感じてとっさにクイスターガードを突き飛ばしてかばう。
電柱に向かって流れていくさまがはっきりと見えた。

「うわー」

ガツン

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

ボディが倒れ、メダルが地面に転がった。

「あ・・・」

しばしの間、お互い立ちつくす。

「さらば」

先手を取ってメダルと動かなくなったボディを拾う。
近隣に住む人々が集まってきている。
留まると多くの時間が割かれてしまいそうだ。
われわれは風にまぎれてその場を走り去った。

「ごめーん」

軽々しいデスフェニックスの謝罪を背に受けて。

 

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