午後4時。
電車に揺られる学生の上に人影がふたつ。
ひとつは人間。右目に眼帯をした男のもの。
いびつに広げられたハンドマークが描かれている。
もうひとつはメダロット。頭が星形の浮遊型。
ロボットとは思えない人間的な動きで男と同じポーズを取っている。

「もっと天空から滑り落ちるような動きで」

「ハッ」

男は両腕を後ろに伸ばして拳を天に向けた。真剣な顔で。
歩道橋を歩く少女が不思議そうにそれを眺めて通り過ぎた。

「その勢いだと地面に激突しそう」

「われわれが登場と同時に地面にのめり込むというのはいかがなものだろうか」

「ボクはのめり込まない」

「いかに君の頭が柔らかいとはいえ、
高度1万メートル以上の彼方から落下すればただでは済まない」

「そこまでどうやって行くの?」

「・・・考えていなかった」

煮詰まった考えを線路を見てほぐす。
ここはハングリッジシティ。至る所に線路が張り巡らされた大都市。
ある事件の収束後に目覚ましい発展を遂げた。
あの事件がきっかけになったのか、たまたまタイミングが合っただけなのかは知る由もない。
車はまず見かけることはなく、道路には路面電車が見受けられる。
われわれは隣町の小さな遊園地からやってきた。
多くのメダロットが暴走したあの事件は、
われわれの働いていた遊園地にも大打撃を与えた。
閉園となった遊園地を残して、われわれは町を出た。

「たすけてー」

少年が歩道橋を登りながら息を切らしていた。それと同時に。

「うわーん!助けてー!」

公園から泣き声が。歩道橋の彼は後回しでもいいだろう。
われわれは急いで声の方に向かった。


「誰かー!」

砂場で幼い少年がおろおろしている。
だのに聞こえるのは少女の泣き声。どういうことか。
われわれは砂場に文字通り突撃した。顔を砂から抜いて少年を呼び止める。

「無くした右目を呼びつけないでくれ。
彼は涙の跡を見逃しはしない。
われわれが代わりを務めてみせよう。
望遠鏡の瞳を持つ男、このリンヨウに悩みを打ち明けてみたまえ!」

「え・・・あのう・・・」

たじろぐ少年。フッ。子供には刺激が強すぎたか。
砂場を見直すと小さめながら深い穴が空いているのがわかる。
覗くと両手を挙げながらすっぽり落ちている少女が見えた。

「砂場には似合わない深い落とし穴があるようだ」

「ご、ごめんなさい・・・」

うつむく少年。なるほど、事情はおおよそ見当がついた。
少年に頭突きするクイスターガード。

ぼふっぼふっ

「だいじょうぶ。ボクたちが助けてあげるよ」

「ほんと?」

「本当」

穴に近づく。クイスターガードは伸び縮みする左腕をもっている。
つまづいて落ちでもしない限り彼女を助けられるだろう。

ズサッ スポン

「マスター助けてー」

落ちた。まっさかさまに。
右手の剣のおかげで底までは落ちていないようだが。

「とにかく、君は左腕を伸ばすのだ。
われわれは合図を受け取ったら引き上げる。少年、手伝ってくれ」

「うん!」

ビヨーン

包帯のような腕が伸びる。先についた手で少女の手を握るとすぐに合図が。

「両手で握って。マスター掴んだよー」

「剣を抜くのだ。せーのーで!引っ張れ!」

スッポーン

少女とクイスターガードが飛ぶ。一本釣りだ。
クイスターガードが軟着陸する横では少年に少女が直撃していた。
どちらも涙を浮かべているが、危機は去った。
それはどうにでもなることだろう。

「メダロットとあなほりしてて・・・えっちゃんが落ちて・・・」

「反省は後でいい。まず彼女に言うべきことがあるはずだ」

ふたりを並べた。少女は涙を拭きながら少年を見ている。
少年は申し訳なさそうに言った。

「ごめんね」

「怖かったよぉ」

思い思いに言葉をぶつけるふたり。
われわれはそれぞれの手を取り握手させた。
「穴はわれわれが埋めておくから今日はもう家に帰るのだ。
少年は少女の家に着くまで手を離してはならない」

「うん・・・」

「わかった・・・」

ふたりが去る。われわれも穴を埋めて公園を後にした。


午後5時半。
われわれは最寄りの駅に来ていた。
砂を払いのけて券売機から切符を買う。
改札口を通って階段を登る。

「さっきので100回」

「その通り。ここから移動する時が来た」

ホームで電車を待つ。次の発車まであと6分。
ハングリッジシティは広く、まだ行ったことのない場所が多い。
どれだけの者たちがわれわれに助けを求めていることだろう。
発着までの6分間がとても長く感じられた。

「行こう。助けを求める声はすぐそこだ」

「荷物は?」

われわれがこの駅から再び発車するのは、それから数十分も後のこと。

 

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