「う・・・。私は、負けたのですね。
なぜメダルを元に戻したのですか?」
起き上がった騎士メダロットはうなだれて言う。
オレは言葉の意味がわからず聞き返す。
「どういう意味だ?」
「私は、私の同僚はすべて野良メダロットにメダルを奪われました」
騎士メダロットはうつむきながら話し続ける。
「野良メダロットが人間を憎んでいるのは知っています。
それに協力する私たちのようなメダロットは常に死と隣り合わせなのです。
奪われるならまだ望みがありますが、割られてしまうことも少なくありません」
泣きそうな声だ。
この山の連中はけんかっ早いが、そこまではしない。
オレたちはそのメダロットたちと同じだと思われているのか?
そんなことをするのは・・・。
「それは、人間がすることだ」
「そんな!人間はそんなこと決してしません」
「メダロットを捨てる人間は少なくない」
オレは山のことを教えることにした。
「入り口のゴミ山を見ただろう。何十、何百と捨てられたメダロット。
オレもそのうちのひとりだ。
転がり落ちたメダルが車に轢かれて砕けるのを、何度も見た。
セレクト隊や町の連中がたまに回収しに来るのは知ってる。
それでも捨てる連中のほうがずっと多い。前は毎日のように来ていた。
いつしかメダロットだけじゃなく動物まで捨てるようになった。
オレが知っている人間はそういう生き物だ」
「そう、ですか・・・」
騎士メダロットは黙って話を聞いていた。
座り込んだまま。何か思うところがあったのかもしれない。
このまま居座られても困る。オレは話を変えた。
「お前、なぜ戦った。メダルが割られるかもしれないと思っていたんだろう」
「それは・・・。山の中にいるメダロットだって私たちのように、
人間と仲良くできるかもしれないじゃないですか。
それを手助けするのが、私たちセレクト隊の使命ですから!」
明るい声でそう言う騎士メダロット。
次に黙ることになるのはオレのほうだった。
こいつ、オレたちと人間が仲良くできると信じて疑わないのか。
オレの話を聞いたあとでも。なんてヤツだ。
話はまだ続いていた。
「あなた、名前は?」
「イルドだ」
「イルドさんのように、野良メダロットもちゃんと話してくれるかもしれません。
ですから、他の皆さんにも下山したい方がいたらセレクト隊に来るよう言って下さい!
私たちはいつでも皆さんを待っています!」
なんのためらいもなく言う。こんな力強い言葉を初めて聞いた。
こいつは違うような気がした。
オレたちとも、これまで見てきたどの人間とも。
「・・・言ってみる」
手を掴んで助け起こす。
無駄なことかもしれない。だが、これまでしてこなかったことだ。
なぜか、オレはそれを試してみたいと思った。
「あ、ありがとうござます・・・わっ」
軽いボディを脇に抱えてゴミ山に跳び戻る。
下ではセレクト隊がハシゴを倒したところだった。
「名前を訊いてなかったな」
「私ですか?私はギャラントレディ。VAL型のセレクト隊モデルです」
「女だったのか・・・」
今さら気づく。呟きが聞かれたのかギャラントレディが笑った。
「ふふ。女でも戦えますよ。手を抜かないでくれましたよね?」
「そうだな。今からもそうする」
「えっ?今からって・・・」
セレクト隊の準備がやっと整ったらしい。
下には大きく広げられた白い布のようなものが見えた。
中央にバイザーマークが描かれている。
「いけっ!」
「いやあああああああああああああ!!!!!」
空が青い・・・。
山の上から落ちるメダロットは、そう思った。