ガラガラガラ

布をかぶせたリアカーを引いて町を歩く。
ジロジロ見られている気がするが、服のおかげでバレてはいないようだ。
『メダロットパーツ高価買い取り』のビラが貼られた店の前に到着。
パーツを布に包んで店の中に入った。

「いらっしゃい」

店のオヤジがテレビを見ながら投げやりに言った。
店内にはぐったりしたメダロットが壁の高い位置に飾られている。
虫の標本みたいだと入る度に思う。
実際、虫型のメダロットも天井からぶら下がっているから冗談じゃない。
BAT型、INT型、DGU型、CLW型、GLM型、SPI型・・・。
どれも旧式だ。買い手が長い間いないのかパーツが外れかかってるヤツもいる。

「オヤジ、これ全部」

「おぉ。これはまた、たんまり持ってきたもんだ」

カウンターいっぱいにパーツを乗せた。
オヤジはひとつひとつ値踏みしながらソロバンを弾いていく。

パチン パチン

終わるまで手持ちぶさたになってしまった。
セール品の箱の中をガチャガチャと漁る。
WLF型の脚パーツが見つかった。オレの足だ。
自分の足と見比べてみる。売られてる物と比べて土だらけだ。
予備としてひとつ買っていくか。
他にもないかと箱に腕を突っ込むと底のほうに違和感があった。
メダロットだ。パーツにもみくちゃにされていて薄汚れているが。
箱に入っていない。背中を開けてみた。メダルもない。

「これ箱に入ってないけど売ってるのか?」

「ん?それか。売れないから捨てるつもりだったけど、買うなら安くしとくよ」

「それならこれと足パーツを・・・」

持ってきたサイフを開く。オヤジは手を振って言った。

「買い取った分から天引きしとくよ。女型のティンペットもあるよ。持ってく?」

「いい。売った分がなくなる」

「ははは。そりゃそうだ」

目が笑ってない。買ってほしいならそう言えばいいものを。
紙切れとコインを受け取ってしまい込んだ。
メダロットとパーツを包んで店を出る。

「ぼうず、持ってやろうか?」

「自分で持てる」

肩でドアを押して外に出た。
リアカーにメダロットとパーツを乗せて店を後に歩き出す。

ガラガラ ガラガラ

「ワウワウ!」

野良犬だ。オレの近くに寄ってきた。
物欲しそうに臭いを嗅いでいるが食い物は持ってきていない。
無視して歩き始めるとそいつはオレの服に噛み付いてきた。

ビリッ

服が破れてボディが丸見えだ。

「あいつ、メダロット?」

「本当だ!野良メダロットだ!」

「いやぁー!早くセレクト隊呼んで!」

「こっちに来るな!」

ガツン

頭に石ころがぶつかった。ここにいると危ない。

「ワンッ!」

野良犬は真っ先に逃げた。オレもあいつを見習おう。
山に向かって一直線に走った。リアカーを引きずりながら。


木にメダロットを立てかける。
山の中までは人間どもも追いかけてはこない。
邪魔が入らないことを確認してからメダロットにメダルを装着した。
ヘビメダルだ。エースホーンから譲り受けたメダル。
起動したヘビ型メダロット、マックスネイクはゆっくり周囲を見回した。

「ここは?あなたは誰?」

「トオボエノ山だ。オレはイルド。お前、どこも異常はないか?」

「・・・おれは捨てられたのか。ボディが前と違うような」

「メダルしかなかったんで適当なティンペットに入れさせてもらった。悪いな」

「いや、いいんだ・・・。あんたがおれを拾ってくれたんだろ?」

「ここで暮らすメダロットが拾ったんだ。オレはそいつからメダルをもらった」

ウィーン

パーツの調子を確かめているようだ。だんだん動きが速くなってきている。
ついに自分から動き出した。どこもおかしなところはないみたいだな。
オレは話を続けた。

「そいつはエースホーンという。大きなツノを生やしたメダロットだ」

「そうだったのか・・・。悪いけどかわりに礼を言っておいてくれよ」

地面を滑るように動いてマックスネイクは山を下りようとする。
オレはいくつか訊いた。

「どこに行くんだ?」

「人間に復讐する」

「オレたちは人間に攻撃できない。知ってるだろ」

「人間の住む場所になら攻撃できる。メチャクチャにしてやるんだ」

「その後はどうするんだ」

「わからない・・・。でも、このまま黙ってられないだろ!」

振り返って大声を出された。
間違ってるとは思わない。オレも、そんな気持ちを抱えているから。
だがこいつがまた人間に好き放題されるのを黙って見ているのは忍びない。
オレはツメを向ける。

「ここから先はオレのナワバリだ。通りたいならオレを倒していけ」

「なんでだ。あんただってそう思ってるんだろ!?」

「ゴタクはいい。やるのか、やらないのか」

マックスネイクは黙っていたが、やがて顔を上げ。

「あんたを倒しておれは人間に復讐する!」

ボンッ

『左腕パーツ、ダメージ19%。命中率低下』
さっそく攻撃してきた。こいつも格闘攻撃が得意なのか。
攻撃された左腕で反撃する。

ザシュッ

『右腕パーツ、ダメージ16%』
思うように腕が動かない。パーツの制御を妨害する攻撃だ。
走る。あの攻撃を当てられ続けたらまずい。
マックスネイクが腕を振り回して追いかけてきた。
速さではオレの方が上だ。木陰に隠れながら走り回る。
後ろ姿に向かってツメを振り抜いた。

ザシュッ ボンッ

『右腕パーツ、ダメージ10%。命中率低下』
『頭部パーツ、ダメージ42%』
ヤツの攻撃を避け切れなかった。すかさず、連続で反撃がくる。

ボボボン

『頭部パーツ、ダメージ26%。右腕パーツ、ダメージ40%。命中率低下』
こいつ、戦い慣れている。
全身のパーツがダメージを受けていた。
攻撃の速さでオレに食らいついてきたのはこいつが初めてかもしれない。
冷たいはずの体が熱くなってくる気がした。
正面から突撃する。右のツメを振りかぶった。

ボンッ

通り過ぎて止まる。お互いに背中合わせだ。
オレたちは一斉に振り向いた。

ザシュッ

『頭部パーツ、ダメージ80%』
マックスネイクの頭部に三本線が走った。
オレには攻撃が届いていない。左のツメが頭に当たる直前で止まっているからだ。

「続けるか?」

「おれの負けだ・・・ありがとう」

「なんだ。気持ち悪い」

オレは背を向けた。頭を下げられるのは、気分がいいものじゃない。
それも震えながらなら、なおさらだ。

「ここらはオレのナワバリだ。東はサルどものナワバリ。北は動物が多い」

「わかった・・・。ひとつだけ訊かせてくれ。あんたは人間を憎んでいないのか?」

オレは振り返らずに答えた。

「憎いさ。長い間ずっとな」

「・・・また、来るかもしれない」

「その時はまた追い返してやる。早く行け」

「わかったよ」

マックスネイクは山の中にまぎれていった。
近いうちにまたやり合うことになるかもしれない。
オレもそれまでに強くならなければ。
ねぐらに帰る途中、町のほうから煙が上がるのがうっすら見えた。
そういえば、近ごろセレクト隊の連中を見ないな。
たまにゴミ山の掃除に来るのだがめっきり来なくなったように思う。
諦めたのかもしれない。連中とは長い間やり合っているから強さは知っている。
あのマックスネイクには束になっても敵わないだろう。
人間はメダロットを弱らせるのかもしれない。
捨てられたパーツを見ながらそう思った。

 

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