夕焼けがトオボエノ山の斜面を照らす。
野山をぐるりと囲むゴミの山はすべてメダロットのパーツ。
あるいは捨てられた動物だった。

「ワンワン」

ゴミ山にひもで繋がれているのは胴長短足の小型犬。
人は彼らをミニチュア・ダックスフンドと呼ぶ。
赤ん坊をやっと卒業したくらいの年ごろの薄い毛並みだ。
人影がダックスフンドに近づいて右腕を振りかぶり。

ズバッ

オレはもろいリードを断ち切る。
首輪をしたままのそいつはオレのボディとよく似た薄茶色の身体で吠えていた。

「ワン!」

こちらに向かってひと吠えした犬はどこかへと走り去ってしまう。
行くあてがあるのなら止める理由はない。
ここはどこにも行けなくなったヤツらのふきだまりなのだから。
ゴミ山を跳び移ると走っていく犬の姿が視界に入った。
見えなくなるまで後ろ姿を見つめ続ける。
石粒より小さな背中だった。


「バカなことしやがって」

イノシシとイノシシ型メダロットが倒れている。
メダロットから飛び出しただろうメダルは割れ、イノシシには深い傷跡がある。
どちらも助からない。イノシシのほうは動物どもが勝手に食うだろう。
メダロットであるオレはイノシシ型メダロットのパーツを解体し始めた。
腕パーツ、脚部パーツはまだ使い物になる。
頭パーツはダメだ。完全に潰されていて元の形を留めていない。
ティンペットにも深い傷があった。これも使い物にならない。
3つのパーツを抱えてねぐらへ戻った。

ガラガラ

ため込んだパーツが崩れてくる。このところパーツを拾うことが多い。
売ってこないとオレの寝場所がなくなるな。

ピッピッピッ

レーダーがわりの頭パーツが音を出す。狭いねぐらに反響する音が耳障りだ。
様子を見てこよう。エースホーンでも来たのか?


予想は当たった。エースホーンが木を背にして立っている。
いつもと違うところがひとつだけある。それは。

「やめて下さい。ワタシは大したものは持っていません」

「隠してんじゃねーよ。さっさとパーツ出しな」

「メダルごと売っぱらわれてぇのか?」

他の野良メダロットどもに絡まれていることだ。
攻撃パーツを持たないメダロットはこうして根こそぎパーツを奪われる。
これが山の『掟』ではあるが。
目の前にいる連中は見覚えがない。新入りだ。

「見ない顔だな。お前らいつ来た?」

「あぁー?何だ、てめぇ」

「邪魔すんじゃねーよ。どっかいってろ」

「ス、ストレイウォルフさん・・・」

エースホーンがこっちを見たがすぐに顔を背ける。
助けてくれと言ったところで、誰かが助けてくれる場所じゃない。
そうわかっているからだろう。

ザシュッ

『右腕パーツ、ダメージ30%』
オレは3体のうち1体に斬りかかった。倒れる二脚型メダロット。
それを見た2体がオレに向かって攻撃を始めた。

ドンドンドンッ

ライフル攻撃だ。オレは斜面を下りながら攻撃を避けた。
攻撃している間に斬られた1体が起き上がる。怒っているようだ。

「ふざけやがって!カイゾクロベーさまの恐ろしさを思い知らせてやる!」

「おらおらおら!」

ドドドドドド ドドドドド

頭部から銃弾を撃ちまくるカイゾクロベーたち。
狙いは良いがどうも強そうに感じられない。なぜだ。
オレは銃撃の中を正面から突っ込んでいく。
『右腕パーツ、ダメージ14%。左腕パーツ、ダメージ16%』

「ひゃひゃひゃ。あいつ突っ込んでくるぜ」

「バカなヤツ!斬りキザんでやる!」

ビュン ギン!

「うおっ!」

振り下ろされた2本の剣をツメで弾く。
ガラ空きになった頭部パーツを狙って回転した。

ザシュシュシュ

『頭部パーツ、ダメージ58%』
『頭部パーツ、ダメージ59%』

「この!」

ドンッ

『左腕パーツ、ダメージ27%』
走る。もう1体が撃った弾丸を受け止めて。
左右のツメが太陽の光を反射して鋭く光った。

「なんだっ!?」

ズバババババッ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

「こいつ!離れろ!」

ジャキ

後ろの2体が背を向けたオレに向かって銃を構えるのがわかった。
跳び上がって攻撃を回避する。

ドンドンドン

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
両腕を失ったカイゾクロベーに2体の集中砲火が浴びせられた。
オレは落下の勢いで頭パーツに爪を突き立てる。

ザクッ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

3枚のメダルが落ちた。オレはそれを拾ってカイゾクロベーたちを再起動させる。

「う、お前・・・」

意識がハッキリしないままのヤツらを起こしてオレは言った。

「ここいらはオレのナワバリだ。二度と近づくな、新入り」

「く、くそー!」

一目散に逃げ出すカイゾクロベーたち。本当にわかっているのか。
モンキーゴングたちに目をつけられないといいが。
爪についたパーツの破片を払って一息ついた。

「ありがとうございました・・・」

「で・・・何か用か?」

腰が抜けてるエースホーンを助け起こして訊いた。
こいつは勝手にナワバリに来るくせにこういうことにはめっぽう弱い。
オレを用心棒か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。

「そ、そうでした。メダルが見つかったのでストレイウォルフさんに・・・」

そう言って1枚のメダルを見せる。ヘビの絵が描かれたメダルだ。
オレは受け取ってねぐらを指差した。

「そろそろパーツをまとめて売り払う。
次を仕入れるまでしばらく交換できないから好きなのを選べ」

「いつもより早いですね・・・。
それだけ、捨てられるメダロットが多いということでしょうか」

「ああ・・・。そうだな」

人間がメダロットを捨てる。捨てられたメダロットは別のメダロットを糧にして生きる。
やるせない気持ちを抱えながらオレたちは生きていた。

 

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