ザッザッ

ここはトオボエノ山。その山中。
メダロットがゴミのように転がる場所。

ザッ

ふと足を止める。パーツが剥がれかけたティンペットが転がっていた。
詳しく調べるまでもなく壊れているのが見てわかる。
側にメダルが落ちていた。メダロットの頭脳。メダル。
人間で例えるなら心臓と脳が一緒くたになったようなものだ。
メダルさえ無事ならメダロットはいつまででも生きられる。
オレはかがんでメダルを拾い土をぬぐう。傷一つない。
まだ、こいつは生きている。オレはこいつをねぐらに持ち帰ることにした。


オレのねぐらはそう広くない。
くり抜いたほら穴の中には使えそうなメダロットのパーツ。
工具箱と大きな服。鉄くずが積み上がった山。
そんなのが散らかり放題でほとんど足の踏み場がない。
奥に隠してあるメダルの袋を取り出した。
満杯近い袋だ。オレもいつかこの中に入ることになるんだろうか。

チャリン

さっき拾ったメダルを入れる。これで何枚目だったか。
腰を降ろした途端、壁に埋め込んである生首が音を立てた。

ピッピッピッ

索敵パーツだ。誰かがねぐらに近づいてきているらしい。
外に出て見回す。少ない木々と坂道。そして足音。

ザッザッ

「こんにちは。ストレイウォルフさん」

「エースホーン。お前だったのか」

背に袋を担いだメダロットが立ち止まる。いつ見ても立派な角だ。
オレたちは決められた名で呼び合う。
自分で勝手につけた名前もあるのだが、この山にオレたちの同型機はいない。
自然に商品名で呼び合うようになっていた。
エースホーンは背の袋を下ろして開ける。

「腕パーツがひとつずつ手に入りましたよ。そちらはどうですか?」

「そこで待ってろ」

ねぐらに引き返してパーツを探す。あった、これだ。
すぐに多脚パーツをひとつ持って戻った。

「悪いが今はこれだけだ」

「構いませんよ。ワタシにとっては貴重な予備です」

互いのパーツを交換する。
エースホーンのパーツは貴重でまず手に入らない。
渡したのも別のメダロットのパーツだ。オレは腕パーツを受け取る。
こいつは古びてはいるものの頭を別のパーツに変えたところを見たことがない。
こだわりというヤツだろうか。

「お前、いつここに来た?」

ビクッと体を強張らせるエースホーン。
いつ知り合ったかも覚えていないほどの古なじみだ。
いつもは気にならなかったが、なぜか今日は訊いてみたくなった。

「・・・覚えていません。あなたこそいつ来たんですか?」

「さあな。オレも忘れちまったよ」

気がつけばひとりだった。捨てられる前のことなど覚えていない。
毎日ただ生き残ること。そのために強くなること。戦うこと。
それだけを考えて生きてきた。袋を持ち上げるエースホーン。
そろそろ帰るつもりらしい。

「そうだ、忘れていました。どうも東が騒がしいようですよ」

「東?」

山の東側といえばサル型メダロットのナワバリだ。
ことあるごとに他のメダロットに手を出す困り者の連中。

「どうやら仲間を増やしたいらしく、ティンペットを集めているそうです。

パーツはいくらでも落ちていますからね。残るは・・・」

「メダルか・・・」

ティンペットとメダルは貴重品だ。
いくらメダロットが無尽蔵に捨てられているとはいえ数に限りがある。
そのうちの片方を手に入れたとしたら残る片方を集めているオレの元に来るのは時間の問題だろう。
オレはねぐらから大きな頭パーツを持ってきてエースホーンに手渡した。

「これは?」

「情報料だ」

「毎度どうもです」

袋に入りきらない頭パーツを抱えながらエースホーンは去っていった。
夜か。久しぶりに暴れることになりそうだ。


ザザザッザザザッ

MON型メダロットの集団が目を光らせながら歩いている。
その中のひとりが歩きながら話し始めた。

「相手はWLF型1体。こっちは12体。間違ってもしくじるんじゃねぇぞ」

「わかってるぜアニキ」

「あんなオンボロオオカミ1体くらい楽勝だぜ」

「お前らにオンボロ呼ばわりされるなんてな」

ガシャン チャリン

メダロットが倒れる音でサルメダロットたちは振り返る。
立っているのはオオカミ型メダロット1体。
薄暗くて見えづらくともおおよその形はわかった。

「モンキーゴングども。オレに何の用だ」

「てめぇの持ってるメダルをよこせ。さもないと」

そのうちの1体が倒れたモンキーゴングを見下ろして言う。

「そいつと同じ目に遭わせてやる」

「痛そうだな。それは」

ズババッ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

最後尾にいたモンキーゴングが倒れた。飛び出すメダル。

「やるなら早くしろ」

「囲め!」

ザザザザザッ

10体のモンキーゴングがオレを取り囲む。
どいつもハンマー攻撃の構えを取っている。
じりじりとにじり寄る。囲いが狭まってきた。
ピタリと急に止まる。そして。

「やれ!」

一斉に飛びかかってきた。

ドスドスドスドスドス

ザシュシュシュシュ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

地面にめりこむ拳。
それと同時に5つのメダルが宙へ飛んだ。

「う、うわああ!」

ブン ザシュッ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
殴りかかったモンキーゴングをすれ違いながら斬る。
メダルが飛び出る前に頭を掴んだ。

「おら!」

ブン

「うわっ!」

投げつける。残るモンキーゴングは4体。
2体は機能停止したモンキーゴングをどかし、もう2体は殴りかかってきている。

ザシュシュ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
跳び上がりながら両腕で斬る。残り2体。

ザクッ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
「あ・・・」
着地してすぐに爪を突き刺す。
最後の1体はオレを見て震えていた。

チャリン

メダルが落ちて地面に転がる。
その音が鳴った途端にモンキーゴングは叫んだ。

「やられっぱなしで終わるかああああーーー!!!」

バシュー

「ウッ!」

視界が覆われる。ガスか?
デタラメにツメを振って煙を払った。

ザシュッ ゴン

『右腕パーツ、ダメージ20%』
『左腕パーツ、ダメージ60%』
オレの右腕とヤツの左腕が傷つく。相打ちだ。
お互いに後ずさってにらみ合う。
無言のあと先に背を向けたのはオレの方だった。

「待て!逃げるのか」

「メンテ代をケチると誰にも勝てなくなるぜ」

オオカミメダロットが闇の中に消える。
残されたのは倒れたメダロットと散らばるメダル。
片腕を押さえるモンキーゴングだけ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

叫び声に驚いた野良犬がビクリと立ち止まった。

 

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