ガチャッ ガチャッ

木造りの家の瓦をオレは跳び移る。
跳び移る度に、昼寝をしていた野良猫がニャッと金切り声を出し。
次々に下へと飛び降りていく。

ガチャッ ガチャン

「野良メダロットの泥棒だ!誰かそいつを捕まえてくれー!」

下の道では町の人間どもが猫のかわりに金切り声を上げて騒いでいた。
スズメを飛び越えながらオレは屋根をひた走る。
町を東へ東へと跳ぶオレはある気配に気がついた。
メダロットの頭のような白いバイザー。それに合わせた白い制服。
メダロット犯罪を取り締まるセレクト隊の連中だ。

ガチャン

「野良メダロット!止まるであります!」

「工具店からパーツのメンテナンス用工具を盗んだ疑いで逮捕するであります!」

工具のひとつやふたつでケチケチしやがって。
お前らは一体いくつの工具を使い潰してるのかと言ってやりたくなったが。
その前にメダロットのパーツが積み重なる野山の西口に到着した。

「隊長どの!ここはトオボエノ山であります!追いつめたであります!」

「部下よでかしたであります!メダロット転送!」

ビビビビビッ

閃光がゴミ山を照らすとなよなよした植物型のメダロットが現れた。
たったの2体だ。他の連中はといえば・・・。

「ゼェ。ゼェ・・・」

「走りすぎたであります・・・」

ダレていた。こいつら本当にやる気あるのか。
隊長らしき男とその部下のメダロットがオレに詰め寄る。

「野良メダロットお縄につくであります!」

「野良メダロット観念するであります!」

どいつもこいつもノラノラと。
オレは工具を置き、振り向いて右手のツメを向けた。

「オレにはイルドって名前があるんだ。覚えとけ人間ども!」

ズバババッ

『右腕パーツ、ダメージ20%。左腕パーツ、ダメージ30%』
『頭部パーツ、ダメージ16%。脚部パーツ、ダメージ10%』
両腕のツメでパーツに攻撃する。3本の爪痕が緑のボディを切り裂いた。

「げげっ!素早いであります!」

「ナチュラリー。防御態勢を取るであります!」

植物メダロットが両腕をだらんと垂れた。隙だらけだ。

ザシュッ

逃さずに切りかかる。違和感。手ごたえがない。
『右腕パーツ、ダメージ22%』
ほとんど効いていないらしい。当の本人は勢いよく回っている。

「ナチュラリーの防御は鉄壁!攻撃を受け流してダメージを軽減するのであります!」

「コラ!余計なことを言うなであります!」

ボコボコと隊長が部下を殴っている。
その隙に積み重なったパーツの上に乗りある場所を探す。
間もなく小さなボタンが見えた。あった。これだ。

カチッ

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

スイッチを押す。前もって準備してあったものだ。
雨あられと射撃パーツから弾丸、ミサイルが乱れ飛ぶ。

「ギャー!」

「痛いであります!」

「ひー」

セレクト隊がメダロットを連れて一目散に逃げていく。
オレたちメダロットは直接、人間を攻撃できない。
だが、こうした間接的な攻撃ならできるのだ。
あいつらもメダロットに攻撃されるなんて思ってもみなかっただろう。
フン、あんなへなちょこ人間たちにオレが捕まるわけがない。
下に降りて工具を持つ。こいつには当たらなかったらしい。
ゴミ山を跳び上がってトオボエノ山の山道に入る。
数分もしないうちにオレのねぐらに着いた。
坂を掘り抜いただけの穴ぐらだ。それでも、ここはオレの住処だ。
中に入って座る。工具箱を開けると新品の工具がぎゅうぎゅう詰めになっていた。
右腕パーツを予備パーツに取り替えて地面に置く。
久しぶりのメンテナンスだ。傷一つ残さず修理するぞ。
夢中でパーツをいじっている間に時間が過ぎ、すぐに辺りが暗くなってしまった。
電球を点けて穴ぐらを出る。空を見上げると雲だらけ。
月さえ雲に隠れ、山の中は真っ暗闇に覆われてしまった。

ワオーーーーーン ニャーーーーー うォォォォオォー

今夜も動物どもとメダロットどもが吠えている。
こうして色んな奴らが吠えるうちに山には人が寄り付かなくなった。
それでいい。オレたちは、人間など必要としない。

アオーーーーーーーーーーーーン

オレも吠える。力の限りに。オレは生きているんだと。
何度か吠えたら疲れた。今日はもう寝よう。
曇り空の下でオレはスリープモードを起動させた。

 

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