ドン!

 

「だから、グラサンとツノの黒タイツだってさっきから言ってんだろ!」

 

ドンドン!

 

「俺のティンペット!!」

 

ドンドンドン!

 

「オレのティンペット!!!」

 

ドンドドンドンドドドッ!

 

「落ち着いて下さい。署内での発砲は禁止されてます」

 

ここはセレクト隊がいる施設。いわゆる『メダロットに関係する犯罪専門の交番』

 

買ったばかりのティンペットを強奪された俺たちは犯人を追ったが逃げられて。

 

興奮したままセレクト署に殴り込んだというワケだ。

 

「たしかに、我々セレクト隊。メダロット犯罪を取り締まるのが仕事ですが」

 

キリッとした眉毛のオジサンはヘルメットのようなバイザーを外しながら言う。

 

「ハッキリ言いましょう。アナタたちの発言では証拠不十分です。発言をまとめると・・・」

 

書き留めたメモをめくるオジサン。

 

「急にツノを生やした変装集団がティンペットを奪った。徒歩で。

 

購入したのは勤めているコンビニ。型番はXX。男型。パーツも欲しかった。

 

よそ見をしているうちに車より速く逃げ去った。後を追ったがあと一歩の所で見失う。

 

手当り次第に聞き込み。ロボトルで勝ったら口を割れ、などと迫り・・・」

 

ため息をつくオジサン。

 

「まるで要領を得ません。そもそも人間の足では車より速くは走れませんし、聞き込みにロボトルは関係ありません」

 

「人間、やれば何でもできるんだよ!」

 

「ロボトル好き!」

 

俺とウルは負けじと食い下がるが、すぐに放り出されてしまった。

 

「君も大人なんだから。また買えばいいでしょう。それでは」


追い出されてしまった。

 

俺もウルも顔を見合わせて、手を組んだ。

 

「わかってるな?」

 

「わかる!」

 

「俺たちで犯人を捕まえる!」

 

「ティンペット取り返す!」

 

そして俺たちは走り出して人の前で急停止した。

 

「そこのキミ!」

 

「は、はいっ!?」

 

そうとなったら早速聞き込みだ。まだ遠くには行っていないはず。

 

「このへんで黒いタイツの怪しいヤツを見なかった?」

 

「え、ええ。そこに」

 

知らない男の人が指差す方向を見ると先ほどの黒タイツが1人でくつろいでいた。

 

「そうそう、あんな感じの・・・」

 

「ジク、あいつらさっきの人たちじゃない?」

 

「あっ」

 

そうだアイツだ。くつろぎすぎていて全く気づかなかった。何てヤツだ。

 

男の人に礼を言って身を隠すと、黒タイツは歩き出した。ごく普通に。

 

「見られるなよ・・・」

 

「うん・・・」

 

気づかれないようこっそり尾ける。

 

商店街を抜けて、道路を横切って、オバサンに挨拶して、町の外へ。アイツもウチの町内の人もバカなのか?

 

そうしているうちに小高い丘にやってきた。走り回るには最適な緑あふれる丘だ。

 

俺もウルと一緒にたまに遊びに来る。だが、そこには見覚えのない洞穴があった。

 

人がなんとか入れるような狭い穴ぐらだ。

 

「怪しいね・・・」

 

「入るぞ」

 

「おうっ!」

 

洞穴の中は真っ暗だ。

 

ウルのアイカメラと腕に巻いたメダロッチの光を頼りに進む。

 

しばらく歩くと明るい場所に出ることができた。

 

黒タイツはさっきからキョロキョロしている。

 

「何、探してんだ?」

 

「さあ」

 

ザッザッ

 

「交代の時間ロボ」

 

「待っていたロボ。今日はマヌケからティンペットを奪ってみんな大喜びロボよ」

 

増えた。黒タイツが。だが気になるのはそこじゃない。

 

「誰がマヌケだ!」

 

「オレはマヌケじゃない!」

 

「誰だロボ!?」

 

つい、身を乗り出してしまった。もう後には引けない。

 

「俺は逆雷時狗!サカライジク!ジクって呼んでくれ!」

 

「オレはウル!DOG型!」

 

「俺たちとメダロットで勝負しろ!」

 

「勝ったらティンペットを返してもらうよ!」

 

「な、なんだロボこいつら・・・」

 

今度は黒タイツどもがボーゼンとしている。ざまあみろだ。

 

大声を出したからなのか、わらわらと集まってきた。

 

3人、4人と、どんどこ増えていく。

 

「いいだろうロボ。ただし、我々全員が相手ロボ」

 

「負けたらそのメダロットをいただくロボよ」

 

腕時計型のメダロット転送装置を構えるタイツ集団。ヘンな光景だ。

 

でも俺は『ヘン』が好きだ。バイトの面接だって、最初は青髪で受けた。

 

ウルの体も通常パーツじゃ性能が物足りない。徹底的にカスタムした。

 

軽量化、砲門の調整、装甲微増、削減。何でもやった。だから。

 

「いいぜ。だけど俺たちはこの町で一番強いぜ」

 

「早くやろう!」

 

俺たちは今じゃ負けなしのメダロットとメダロッターなんだ。


メダロッチから光が放射される。

 

光線が地面や天井に辿り着くとコウモリによく似たメダロットが何体も現れた。

 

「フン、いい気になるんじゃないロボ」

 

「我々は悪の秘密結社、ロボロボ団!」

 

「たかが1体のメダロットなんてボコボコのメチャクチャにしてやるロボ!」

 

「いけ!コフィンバット!」

 

ブン ブン ブン

 

左右の腕パーツから繰り出される格闘攻撃『ウェーブ』

 

威力は低いが、当たれば運動機能低下を引き起こす攻撃だ。

 

「ウル、右、上、左!」

 

「オーケー!」

 

ドンドンドン

 

ウルが放ったライフル弾が三体のコフィンバットに命中する。破壊できたのは、足パーツのみ。

 

ブンッ

 

「退がってスナイプライフル2連射!」

 

ドドドッドドドッドドドッドドドッドン

 

攻撃をかわしながら撃ち込む弾丸は気持ちいいくらいまっすぐコフィンバットへ吸い込まれていく。

 

残り、3機。相手損傷は、右腕、足、頭部。

 

「順に腕、足、頭に撃て!アサルトライフル3!」

 

ドウンッドウンッドウンッ

 

通常よりも長めのロングバレルから銃弾が放たれた。

 

「や、やめるロボ!」

 

「右腕掃射!」

 

ドドドドドドドドドドッドドドドドッ

 

叫びを打ち消すように、短い砲身から容赦なくプラスチック弾が吐き出される。

 

その間に飛び込む影があった。


「何だこのザマは・・・」

 

ウルの銃弾を受け止めたのはトカゲ型のメダロットだった。

 

傍に立つのはやはり黒タイツ。なのに、どこか雰囲気が違う。

 

「も、申し訳ありませんロボ。急に襲ってきて・・・」

 

「バカヤロ。ヒキョーな手をやるならまだしもやられてどーする」

 

バキッ

 

「ロボォ!お許し下さいムカデ様!」

 

殴った。いいパンチだ。

 

どうやらコイツが親玉らしい。

 

「おい、お前がリーダーか!?」

 

「ティンペット返せ!」

 

銃口を向けるウルとメダロッチを構える俺。

 

弾が少し減っただけでまだまだ戦える。そう思った。

 

だが、次の瞬間。

 

「調子に乗りすぎだ。若造」

 

背筋がビリビリする。『オカンが走る』ってヤツだ。なぜカアちゃんが走るのかは、知らないが。

 

コイツは、ヤバい。

 

つまり『ヘン』なヤツだ。

 

「ロボトルしろ!」

 

俺はまたしても叫んだのだった。

 

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