「合意と見てよろしいですね!?」

「まだ、待って下さい。パーツ転送!」

ロボトルが始まる前に左腕のパーツを変更する。

エイムシザースの腕が管楽器のようなパーツに変化した。

ノトリーさんから受け取った格闘パーツだ。

威力は落ちるもののキリサキバサミより当たりやすい。

「両者とも準備はいいですね?それでは!ロボトルーファイト!」

レフェリーの人が手を勢い余って泥の中に入り込ませてロボトルが始まる。

久しぶりの1対1。どこか心細さを感じながら、おれは指示を出す。

「エイム、脚部パーツを狙ってハモンスナイプ!」

バンバンッ

羽根が開いた弾丸は加速。

相手は空中にいる。落とせば有利になる!

『脚部パーツ、ダメージ12%』

「空中にいるのにいつもと同じ威力?」

アンチエア攻撃は空中にいるメダロットには効くはず・・・。

うしろから毎度おなじみのサキジの声が飛んできた。

「バカやろう。浮遊パーツには対空射撃は通じないんだよ」

「そんなぁ」

つくづく運が悪い。ぬか喜びだったみたいだ。

ガッカリきているおれをよそに相手が反撃してくる。

「テン・・・」

「わかりました」

エボシさんが小さな声で指示を出している。

よく聞こえない。どんな攻撃がくるのか・・・。

ブォォォォ

『脚部パーツ、ダメージ3%』

バシャン

「エイム、どうした!?」

反応が遅れる。突然エイムが倒れた。

ダメージはごく少ないはず。どうなってるんだ。

「立てエイム!」

「泥が・・・」

手足に泥がまとわりついてゆっくりとしか起き上がれないエイムシザース。

イーブンテンキの頭パーツからバチバチと電気が起きる。

バチチチッ

『頭部パーツ、ダメージ29%。一時停止』

「エイム!」

攻撃が命中したエイムシザースのアイカメラから光が消える。

サンダー攻撃だ。一時的にメダロットの全機能が停止する。

「くっ・・・」

動きが戻ったエイムシザースが立ち上がる。

その動きに合わせるようにイーブンテンキの右腕から溶解液が飛び出した。

ベチャ

『頭部パーツ、ダメージ11%。12%。なおも上昇中』

「メルト攻撃!ヤバいぞハヤノスケ!」

サキジが叫ぶ。頭部パーツのダメージが少しずつ増えていっている。

頭を振るエイムシザースだが、溶解液は離れない。

「頭部パーツ、ダメージ増加中。15%、16%・・・」

「強い・・・」

たくみな連続攻撃だ。おれたちは一方的に攻撃されている。

考えなしに反撃するのはまずい。そう感じた。

「テン・・・」

「はい」

攻撃が来る!何でもいい、反撃するんだ!

おれはエイムシザースに指示を出す。

「動きながら音波攻撃と対空射撃だ!」

「りょうかーい!」

バシャバシャバシャ

キィィーン バンバンッ

『右腕パーツ、ダメージ24%。左腕パーツ、ダメージ6%。移動力低下中・・・』

当たった。それでも一時しのぎだ。

泥に足を取られてうまく動けないエイムシザース。

対し、浮いて移動するイーブンテンキ。

音波攻撃を当てているとはいえ、移動能力に差がありすぎる。

ベチャ

『左腕パーツ、ダメージ19%。20%。頭部パーツ、ダメージ34%。35%。なおも上昇中』

「くそお。どうすれば・・・」

確実にダメージを与えられている。このままじゃジリ貧だ。

格闘パーツで構成されている相手には頭部パーツは役に立たない。

攻撃力も機動力も負けている。悩むおれに、容赦なく攻撃が行われる。

ビュオオオオオオ

『脚部パーツ、ダメージ8%』

バシャッ

再び倒れるエイムシザース。これでトドメか・・・。

おれは目を閉じる。こんなに実力の差があったなんて。

このまま負けるのか?

「目を開けるんだマスター。まだ負けてない」

「エイム?」

目を開ける。

泥だらけで体を起こすエイムシザースがおれを見ていた。

「マスター、指示を」

まっすぐおれをみるエイムシザース。

メダロットはメダロッターの指示に従う。

おれには責任があった。最後まで戦う責任が。

「あぁ!反撃だ!」

バンッ

威嚇射撃して反撃するエイムシザース。イーブンテンキは難なく回避する。

その隙にメダロッチを構えるとあることに気づく。

頭部と左腕のダメージが増えてない。溶解液が泥で洗い流されたのか。

ビュウウウウウウウ

バシャン

『脚部パーツ、ダメージ10%』

三たび泥に倒れるエイムシザース。

また連続攻撃をしかけてくるつもりか。そうはさせない!

「エイム、そのまま泥の中にまぎれて移動するんだ」

「了解」

バチチチチ

イーブンテンキが泥に向かって頭突きをしかける。

バシャッ

だがそこにエイムシザースの姿はない。頭を上げるイーブンテンキ。

ザバッ キィィィーン

『脚部パーツ、ダメージ35%。移動力低下中・・・』

「下!?」

真下から音波攻撃を受けたイーブンテキが慌てる。

溶解液で攻撃をしかけて反撃を始めた。

ベチャベチャ ベチャベチャ

泥が明るい緑色に染まった。

少し離れた場所で、再びエムシザースが姿を現し攻撃する。

キィィィィィーン バンバンバンッ

『脚部パーツ、ダメージ78%。出力低下』

攻撃を受けたイーブンテンキの高度が下がる。

そう、真下に溜まった溶解液の水たまりに向かって。

『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

「しまった!」

脚部パーツをやられたイーブンテキは動けない。あとはこっちのペースだ。

「一斉攻撃だ!」

「了解ーっ!」

バンバンバンバンバンバン

キィィィィーーーーン

バンバンバンバンバンバン・・・


チャリン

「機能停止!勝者ハヤノスケ!」

「よっし!」

おれはグッと手を握りしめて喜ぶ。

後ろでサキジがため息をついたのが聞こえた。

「ムチャクチャな戦い方しやがって・・・」

泥んこのエイムシザースを見る。

今回はこいつがはげましてくれたおかげで最後まで戦えたんだ。

「ありがとなエイム」

「お互い様だよ」

頭パーツの泥を手でぬぐいながらお礼を言う。

チャプ

泥の中からメダルを拾ってぬぐってメダロッチにはめ込むエボシさん。

「・・・・・」

「何?どうかしました?」

手でチョイチョイと手まねきするエボシさん。

口を動かしたように見えたおれは泥の中に入って近づいていく。

「・・・・・」

ガシッ

「あれ?」

肩を掴まれた。長い髪がおれの耳にかかる。

目を細めて顔を近づけるエボシさん。ま、まさか・・・。

恥ずかしさで目を閉じるおれ。耳元で声がした。

「月曜日、練習がんばろうね」

「はっ!はい!?」

チャプチャプ

真っ赤な顔のおれを横切ってエボシさんは行ってしまった。

「この先にシャワールームがありますので、泥を洗い流して下さいー」

イーブンテンキがメダロッチから声を残して。

ニヤつきながらおれをヒジでつつくサキジ。

「おーおー。耳まで真っ赤ですぜソラノスケくん」

「うっせ!」

「ふふふ」

ゲンコツを振り回すおれと笑うサキジ。

アンミッパーがそれを見て微笑んで。

おれたちはシャワールームを探すのだった。


ザバッ

「ドロドロ。ここには誰もいねぇのか」

「ンー!ンー!」

ソラノスケたちが去った湿原エリアにふたりの人物が入ってくる。

ひとりは少年。もうひとりはロボトルレフェリー。

レフェリーは手足と言葉の自由を奪われ、メダロットに運ばれている。

「つまんねぇの」

ジャラ

少年が歩く度に鎖の音が鳴った。

静まりかえったエリアの空気を切り裂くように。

 

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