「やられた!ははは強いねぇ君たち!」

「もうお昼でしょう?一緒にお昼ゴハン食べない!?」

グー

腹の虫が鳴いた。夢中でここまで来たけど、もうそんな時間だったのか。

「それじゃお言葉に甘えて・・・」

おれたちの返事を聞き終わる前に、ふたりはシートを敷いていた。

上にバスケットとクーラーボックスを置いてニッコリしている。

セイさんもそうだけど、一体どこから出したのか・・・。

おれもいつかできるようになるのかな?

「お邪魔しまーす」

「失礼します」

「おはよう」

おれ以外のやつらはもうお邪魔していた。

珍しくジロウが起きたらしい。アンミッパーが自由に動いてる。

ジロウが背中に乗ってないアンミッパー、久しぶりに見たな。

なんてことを考えながらおれも靴を脱いでシートの上に乗った。

大きめのバスケットからサンドイッチを出して並べるふたり。

「うんと、シープランドさん?」

「俺はノトリー!父さんがアメリカ人なのさ!」

「私はノウコ!母さんが日本人なの!」

「へええー」

生まれた国が違う人でも結婚できるんだ。

だからこんなに日本語が上手なのか。

「さあ!遠慮せずに食べてくれよ!」

ノトリーさんが2種類のサンドイッチを手渡してくれる。

片方はハムやレタス、トマトにゴボウなどの野菜がたっぷり入っていて。

ふわふわのパンに挟まれている。

お腹が空いていたおれたちは一気にかじりついた。

「うまい!」

「フフーン。俺が作ったんだぜ!」

思わず声を出すおれ。サキジがガツガツとおかわりしている。

ジロウはもうひとつのサンドイッチに手を伸ばしていた。

「それは私が作った卵サンドだよ!」

ノウコさんも一緒に作ってたらしい。

卵が大好きなおれはかぶりつく!

「うっ!あ、甘い・・・」

未だかつて味わったことのないような甘みが口中に広がる。

それはじわじわとおれの体を蝕んでいた。

涙が自然と出てくる。これは一体何なんだ。

口いっぱいに濃い味の砂糖を詰め込んだような・・・。

「それはねぇ。卵と、レタスと、お砂糖と、マーガリンと、バターと、

ぶどうジャムと、いちごジャムと、黒糖と、メープルシロップと・・・」

次々に味の秘密を読み上げていくノウコさん。

おれは必死に飲み込んでシートの上にはいつくばる。

「な、何でそんなに・・・」

「水、水を・・・」

隣で同じようにサキジが苦しんでいる。

いけない。このままじゃ全滅してしまう。

だがジロウとノトリーさんはモグモグと食べていた。

「おいしい」

「腕を上げたなぁーノウコ!」

「兄さんったら!」

嬉しそうなノウコさん。

一体、何がどうなってるんだ。

「サキジ、おれたちは間違ってるのか・・・?」

「わからん・・・」

強烈な甘さに苦しみながら生きてきた10と少しの人生を振り返る。

信じてきたものが揺らいでしまったような気がした。

おれたちの様子を見たノウコさんが口元を覆う。

「いけない。飲み物を忘れていたわ!」

「安心するんだ!こんな時のために飲み水を持ってきているぞ!」

「ありがとう兄さん!さあ、これを飲んで!」

紙コップを素早く用意するノトリーさんとペットボトルでなみなみと注ぐノウコさん。

違う。おれが知っている水はもっと透明で、清々しい。

目の前のコップに入っているものは黄金に輝いていて底が見えない。

しかも卵サンド以上の甘ったるい匂いがする。

ノウコさんが笑顔で話し始めた。

「このお水はねぇ。ハチミツと・・・」

「サキジ・・・」

「言うな・・・」

おれとサキジはコップを手に取った。


「うっ・・・」

「マスター、しっかり」

エイムシザースにおぶられて道を進むおれ。

ランチャービートにはサキジが。

アンミッパーにはジロウが乗っていた。

「皆さん。見えてきましたよ」

アンミッパーが言う。

天井のスクリーンに映し出された空が暗くなってきたあたりでおれもわかっていた。

ここは『湿原エリア』だ。

足をとられたエイムシザースが揺れる。

泥だ。浅いようで、映画なんかによく出てくる『底なし沼』とは違う。

泥の中からは短い草が生えていた。

バババババ

ランチャービートが泥をかき出しているが、ほとんど進んでいない。

「ランチャービート、無理しなくていい。自分で歩く」

「スマン」

サキジがランチャービートから降りてメダロッチにメダルをはめ込む。

車両型の脚部じゃまともに進むことさえできない。

アンミッパーとエイムシザースは二脚型だから、かろうじて歩くことができた。

ザブッザブッ

「長グツを持ってくるの忘れてたぜ」

歩きながら青い顔で言うサキジ。

さっきの昼ご飯がまだ効いているようだ。おれもまだ、口の中が甘ったるい。

「もう食べられない」

ジロウだけが、まだ残りのサンドイッチを食べていた。

ふたりと別れる時に小さなバスケットに入れてもらったんだ。

食べ終わるとジロウはまた寝てしまった。おれがバスケットを持ってやる。

「ありがとうございます」

「泥に落とすのは悪いしね」

受け取っておれも降りる。さっきよりは気分が良くなった。

バシャッ

「ん?」

前から誰かが歩いてくる。

バシャバシャ

女の子がおれたちの前で立ち止まる。黒い長グツを履いているようだ。

背はおれたちより高いけど、年ごろはあまり変わらないように見えた。

「・・・・・」

女の子はこっちを見ても何も言わない。

隣にはメダロットがいた。泥から少し上をただよっている。

「あれっ。6年生の烏帽子良子(エボシリョウコ)先輩じゃん」

「サキジ、知ってるのか?」

後ろにいるサキジが言った。やけに詳しい。

「知ってるも何も、うちのクラスと運動会の合同練習しただろ」

「そうだっけか?」

よく見てみる。薄手のワンピースに腕に巻いた黒いメダロッチ。長い髪。

言われてみれば踊りの練習の時に見かけたような・・・。

「・・・・・」

「あなたはハヤノスケさんですね?」

リョウコさんのメダロットがおれに話しかけてきた。

「そうですけど、何でおれの名前を?」

「マスターはあなたと1対1のロボトルをするために今回のゲームに参加しました」

たんたんと言う雲型のメダロット。おれとロボトルするため?

サキジがおれの肩を掴んで言う。

「ハヤノスケ、おまえ何かやったんじゃないか」

「な、何だよ。そりゃロボトルの話くらいはしたかもしれないけど・・・」

「おまえが誰にでもロボトルの自慢話するから、根に持たれてるんじゃないのか?」

「そんな・・・」

そんなの、とばっちりだ。おれは悪気があって話すことなんかない。

少しくらいは、得意になって話したかもしれないけど・・・。

「受けてくれますか?」

「は、はい。いいよなエイム」

「いいですよ」

とにかく、先に進むにはこのエリアを通らなきゃいけない。

それにロボトルから逃げるなんておれにはできなかった。

「決まりですね。私はイーブンテンキといいます。お相手よろしくお願いします」

薄暗い湿原の中で、エボシさんとイーブンテンキの影が揺れた。

 

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