「いやぁ、まさか負けるとはね。そら、これが戦利品だ」

ダンバーテンの頭部パーツを渡すセイさん。

おれはアンミッパーに渡すように言う。

「こいつがいなかったら負けてましたよ。こいつにやって下さい」

「で、でもマスターはパーツに興味がありません。サキジさんどうぞ」

パーツを持ったアンミッパーは困ったようで、そのままサキジに手渡した。

「おれに?くれるってんなら、もらっとくぜ!」

「おまえがもらうくらいならおれが・・・」

「はい。そこまで」

セイさんがいち早くおれとサキジを引き止めた。

仕方なく大人しくなるおれたち。

「へへーん」

「ちぇ・・・」

「ヤレヤレ。ほどほどにね」

セイさんが困ったように笑いながら北を指差した。

おれたちは目を向ける。

「おめでとう。次はあっちの道だよ」

「ありがとうございましたー!」

「さようならー!」

おれたちは手を振って広場エリアを後にする。

道なりに歩いていると風が吹いてきた。すずしい。

「ドームの中なのに風が吹いてるぞ?」

おれは不思議に思った。ここは室内なのに。

隣を歩いてるサキジが言った。

「風を吹かせる機械なんて、いくらでもあるだろ」

「そうか。そーだな」

言われてみればそうだ。ほとんどの家には、そういう機械が置いてある。

当たり前すぎて気にしたことがなかったなと思いながら歩いていく。

やがて目の前に黄緑の草が広がった。

「草原エリアですね」

アンミッパーがジロウを背中に乗せながら呟いた。

湖と風車小屋。天井のスクリーンには青空が映し出されている。

広場エリアよりひと回り広く、走り回れそうな場所だ。

つまり走り回れってことだ。

「ヤッホウ!」

おれたちは走る。校庭よりもずっと広いんだ。

理由なんか考えられない。走らなきゃ。


何分走ったのか。おれとサキジはジロウと一緒に仰向けに倒れた。

「は、走りすぎた・・・」

「町ん中じゃこんなに走れないからなー」

ゴミゴミとした外のことを思い出す。

たくさんの人。車。昔はそんなことなかったらしい。

生まれてからずっとこの町で暮らしてきたおれたちには想像できないことだ。

「ジロウがずっと寝てるのも、わかるな」

「そうだな。帰りたくなくなってきた」

現実逃避だ。おれたちは現実逃避している。

それをわかりながらも、ゴロゴロと寝転がっていたかった。

汗をふいて目を閉じる。すずしい。このままおれも寝てしまおうか。

すると急に暗くなった。雨雲?おれは目を開く。

目の前にある青い目にはおれの顔が映っていた。

「うわっ!」

飛び上がる。誰だと言う前にそいつが。

いや、そいつらが話し始めた。

「ようこそサバイバルドームへ!」

「おいでまし草原エリア!」

男女が両手を広げながら笑顔で言った。

「お兄さんたち・・・」

口を開きかけたおれを無視して話しまくる。

「俺はノトリー・シープランド!」

「私はノウコ・シープランド!」

「兄さんは俺!こいつが妹!」

「妹は私!この人が兄さん!」

「彼はポップシープ!俺のパートナーさ!」

「彼女はファンシープ!私のパートナーよ!」

メダロットが2体、兄妹と一緒に踊っている。

どちらも羊型のメダロットだ。

「あの・・・」

今度はサキジが口を開きかける。しかし、それは意味がなかった。

「わかっている、わかっているぞ!」

「わかっているわ!あなたが言いたいことが!」

「そうとも!君たちはこう言いたいはず!」

「あなたたちはこう言おうとしたはず!」

「俺たちと!ロボトルがしたい!」

「私たちと!ロボトルがしたい!」

びしっと2人と2体そろってこっちを指差した。

面食らったおれたちは言葉にならない声を出す。

「え・・・うあ・・・・」

「そう・・・です・・・」

かろうじてサキジが意味のある言葉を呟いた。

ありがとうと、ここまで言いたくなったのは生まれて初めてかもしれない。

「いくぜ!メダロット転送!」

「いくわ!メダロット転送!」

ふたりが手首に装着したメダロッチを構える。

が、何も起こらない。

「あっはっは!もう転送してあったな!」

「あはは!もう転送してあったね!」

頭がやっと回り始めたおれは目の前で起こっていることを考えた。

ひとりはおれたちより年上のお兄さん。髪が金パツ。

もうひとりはやっぱりおれたちより年上のお姉さん。目が青い。

外国の人なんだとようやくわかった。

「サキジ、準備したか?」

「あ、あぁ。ちょっと待って。パーツ転送!」

思い出したようにサキジがパーツを転送する。

ランチャービートの頭部パーツがダンバーテンの頭部パーツに変化した。

「さっそく使うのか」

「おうよ。こっちは準備できました」

まだ動き回ってるお兄さんたちにサキジが言った。

するとピタリと止まってくれた。やっと落ち着いてロボトルができそうだ。

「いつでもかかって来なさい!」

「私たちは逃げません!」

太陽みたいなまぶしい笑顔。とても楽しそうだ。

おれたちは少しだけ気が楽になった。会話ができる。

たったそれだけのことで嬉しくなれた。

「合意と見てよろしいですね!?」

「オーケー!始めて!」

レフェリーの人が来た。助かった。ロボトルなら負けない!

手を上げるレフェリーの人。

「ポップシーフチーム対アンミッパーチームの試合を始めます。

用意はよろしいですね?ロボトルーファイト!」

手を振り下ろす。ここからはあのふたりの好きにはさせない!

おれたちは必死に戦うことを決意した。

 

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