翌朝。

おれたちはサバイバルドームの入り口で登録手続きをしていた。

「それではルールのご説明をさせていただきますね」

受付のお姉さんが丁寧に説明を始めた。

「ご利用人数は最大8人。

お客様はお2人ですので、事前予約していた方が追加参加することとなります。

よろしいですか?」

「はい!」

「もちろんです!」

きれいな人だ。おれもサキジもでれでれしながら聞いている。

男の子として当然の反応だ。おれたちに罪はない。

お姉さんは言葉を続ける。

「参加者は別々の場所からスタートとなります。ご利用時間は最長で6時間。

途中退場には最寄りの非常口をご利用下さい。

現在、予約しているのはこの方々です。ご確認下さい」

机の上にメダロッター名簿が置かれた。

おれもサキジもそう背が高くないので、おれが台になって見てもらった。

「6人ちょうどいるぞ、大人の人もいるみたいだ」

「大人かぁー。勝てるかな?」

「いいシュギョーになるんじゃねーか?」

「それも、そうかもな」

「じゃあサインするぜ」

サキジがサインする。これで登録完了だ。

「それでは30分後にスタートとなりますので準備のほうお願いします」

「よっしゃ!」

「メダロット転送!」

おれたちはそれぞれメダロットの点検を始めた。


「ゲーム開始です」

「広いなぁーここ」

サキジと分かれて入り口に入る。

中は木々が生い茂り、地面には土。

外国のどこかにある『アマゾン地帯』とかいうのとそっくりだ。

「ラッキーだな、エイム」

「そうですな」

エイムシザースは二脚型メダロットだ。こういう地形は得意。

そうして油断していると何かが茂みから飛び出してきた。

ガサッ

「・・・なんだサキジか」

「おれで悪かったな!」

サキジとランチャービートだ。つくずく、おれたちは腐れ縁らしい。

車両型だからこの地形じゃ動きにくそうだ。

「どうする?ロボトルするか?」

「おまえとはいつもロボトルしてるしなぁ。他の人を探してみようぜ」

「そうすっか」

せっかく来たんだ。知らない人とロボトルがしたい。

おれとサキジはジャングルの中をどんどん進んでいった。

すると、前のほうに誰かが倒れているのが見えてきた。

男の子だ。おれたちと同じくらいの歳ごろで背はおれたちより小さい。

横には帽子をかぶったメダロットが立っていた。

「お、おい、どうしたんだそいつ?」

「何かあったのか?」

「あぁ、いえ。マスターは昼寝しておられまして」

ずるっと足下をすくわれた気がした。危うく転ぶとこだ。

まだ始まって数分も経ってないのに、のん気なやつだ。

「きみとロボトルしたいんだけど・・・」

「いいですよ。マスターを起こさないようお願いしますね」

どうやらロボトルはできるらしい。マスターがいなくて大丈夫なのか?

おれとサキジは顔を見合わせた。しかし。

「合意と見てよろしいですね!」

いつものようにレフェリーの人がすっ飛んできた。おれは前に出る。

「おれにやらせてもらうぜ。まだ戦い慣れてないから」

「いいぜ、がんばれよ!」

サキジたちは後ろで見ているようだ。

レフェリーの人がおれたちの名前を確認する。

「それでは!ハヤノスケ選手のエイムシザース対

寺鳩二郎(テラバトジロウ)選手のアンミッパー。試合を始めます。

ロボトルーファイトぉ!」

寝てるやつはジロウ。メダロットはアンミッパーというらしい。

アンミッパーは右腕に装備しているまくらのようなものを投げつけてきた。

ポーン

それはエイムシザースに命中する。

『右腕パーツ、機能停止』

「ウソぉ!?」

1発だけで機能停止なんて、すごい攻撃力だ。

こんな強いメダロットだってなんて。

「おい、ハヤノスケ」

「わかってる!」

サキジが何か言いかけていたがそれどころじゃない。

油断したら負ける!気を抜かず戦おう。

「エイム、キリサキバサミだ!」

「はいマスター」

ガキン

大きなはさみが開く。昨日は攻撃方法を知らなかった。

でも今はわかる。説明書を隅から隅までちゃんと読んだから。

「エイム、はさめ!」

ガチッ

エイムシザースがアンミッパーの左腕に食らいついた。

キリサキバサミは相手に取り付いて使う格闘パーツだったんだ。

『左腕パーツ、ダメージ20%、29%、36%。なおも上昇中』

「うっ・・・」

アンミッパーが腕を振ってエイムシザースを振り払おうとする。無駄なことだ。

一度、食らいついたキリサキバサミは相手のパーツを破壊するまで決して離さない!

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

「どうだ!」
後ろに飛び下がるエイムシザース。得意げになるおれ。

次の攻撃の構えを取った。しかし・・・。

「降参です」

「試合放棄!勝者、ハヤノスケ!」

左腕パーツを取り外しておれに渡すアンミッパー。

「あれ?」

「だーから、アンミッパーは戦闘が得意なメダロットじゃないんだっての」

サキジがあきれた声でおれに言う。どういうことだ?

アンミッパーは頷いて言葉を続けた。

「私は相手のパーツを『一時休止』させる攻撃しかできないのです」

「一時休止・・・?」

聞いたことのない攻撃だ。サキジが言う。

「一時休止はパーツのメンテナンスに便利なんだよ。

勝手にパーツを点検して回復させてくれる。見てみろ」

エイムシザースを見てみる。停止していた右腕が動くようになっていた。

「今までより動かしやすいです」

「な?」

どうやらアンミッパーはロボトルに向かないメダロットだったようだ。

頭に手をやる俺の後ろでジロウが目覚めた。

「ふぁー、どうしたのアンミッパー?」

「ロボトルで負けてしまいました」

「あーそう。パーツ転送」

アンミッパーの左腕が元に戻る。

やけに手慣れている。いつもこうなのか、こいつは。

やることをやったらまた寝始めてしまった。

「なんだか気が抜けた・・・」

へたり込むおれ。アンミッパーが声をかけた。

「よろしければ私たちもあなたがたについていきたいのですが、よろしいでしょうか?

マスターが寝ているまま他の方にロボトルを挑まれても困りますので・・・」

「あぁ・・・いいよ。大変だな、おまえも」

「いえ、いつものことですから」

おれたちとジロウたちは一緒に行動することになった。

サイバイバルドームでのロボトルは始まったばかり。

これから先、こんなのばかり出てくるんだろうか。

「不安だな・・・」

「不安だ・・・」

おれとサキジはとてつもなく大きな不安を抱えたまま先へ進んだ。

 

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