ブオオーとうるさい音で扇風機が回る。

 

吹き出した風が顔面を直撃して赤みがかった茶髪がゆらゆら揺れた。

 

「クーラーはまだつけねぇぞ・・・」

 

ムチャクチャな色のシャツをはためかせながら誰に言うでもなく呟く。

 

「ウチ、クーラーないじゃん」

 

痛いトコロを平然と突くコイツはウル。メダロットだ。ロボットだ。

 

ティンペットっつう骨に頭手足パーツをくっつけて脳みそ代わりのメダルをはめ込む。

 

そうするとコイツは動く。形と細かいトコ以外は人間と変わりゃしない。

 

だから俺たちはずっと前からトモダチだ。

 

「コンビニでアイス買ってこいよ」

 

「やだ。ジクが買ってきてよ」

 

「トモダチだろ?」

 

「おカネないもん」

 

「ちくしょう」

 

「オレも行くよ。ジク」

 

ジク。俺の名前。コンビニは俺がバイトしてる店。

 

俺がいない時は先輩がレジ打ってる、小さい店。

 

そこにはアイス、ジュース、お菓子、メダロットのパーツが売ってて・・・

 

「そうだ、ティンペット買うか」

 

「ホント!?」

 

俺が立ち上がる前に玄関を開けてこっちを見るウル。DOG型らしく犬っぽい仕草だ。

 

尻尾の位置が脚部装甲なのがむしろ不自然。

 

「早く!早くパーツ買いに行こう!」

 

「ティンペットだっての。そろそろ替え時だろ」

 

「パーツも買うんでしょ!?」

 

「どうかな」

 

「えェー」

 

他愛もない会話をしているとコンビニに着いた。近すぎる。

 

ガー

 

自動ドアが開く。いかにも『いらっしゃいませ』な雰囲気。

 

「いらっしゃいませーってジク君じゃない。今日は・・・」

 

「買い物っすよ、買い物。先輩はオシゴト続けて下さい」

 

先輩だ。肩よりちょっと短い髪。ベテラン。そんなヒト。

 

「ええ。何を買いにきたの?」

 

「ティンペット買い換えようと。男型を。」

 

「はいはい。年代物だもんね、ウル君」

 

「それ!右腕パーツも!」

 

ウルは無視しよう。

 

ティンペットは人間でいうところの骨格だ。

 

こいつがないとメダロットは動くこともできない。

 

メダロットが一般販売されてからもう10年近く経つ。

 

最初期モデルのDOG型メダロットに一目惚れした俺は迷わず予約した。

 

あれから長い間ずっとムチャしっぱなしだ。

 

ウルが今もがいてる動きも、ティンペットを痛めつけているんだろう。

 

「はい。XX型の新品よ。お代はねぇ」

 

「後輩割引で」

 

「ないから。そんなの」

 

「ヒドい世の中」

 

結局、きっちり1円たりとも違わない定価で買った俺は、グズってるウルの手をひいて店を出た

 

デカい箱だ。ウチの扇風機の箱よりもデカいんじゃないだろうか。

 

「またねー」

 

先輩のニヤニヤ顔は腹が立つので見なかった。

 

「リボルバー欲しいー!」

 

「犬メダルだろうが、お前は。KBT型なんか買ってどうする」

 

「でも・・・」

 

「大体、カブト型なんて古くてありきたりで・・・」

 

あ。

 

しまった。ウルが震えてる。

 

2時間ずっとその場を動かなかった前回が頭の中にフラッシュバックする。

 

「あぁーその。バカにするつもりじゃなくてな」

 

「・・・じゃ買うの?」

 

「それは・・・」

 

わかってくれ相棒。近所のヤツらとロボトルして得たパーツを売って食いつないでるこの生活。

 

『ナイソデハフレナイ』って言葉があるだろ?先輩から聞いたコトバだから、意味はよく知らないが。

 

「ティンペット買っただろ?だから、カネがさ」

 

「あっ」

 

「わかったか?いつもパーツ調整してるのは・・・」

 

「ドロボー!」


「え?」

 

「ロボ?」

 

振り返ると、全身黒タイツと目が合った。

 

一人じゃない。数人揃ってグラサン。ツノ。

 

ボーゼンとしてると俺のティンペットを持ってるヤツが叫んだ。

 

「ヤローども撤収ロボ!」

 

ダダダダダ

 

「え?」

 

「ドロボーだよ!」

 

「あ、あぁ。ドロボーか・・・」

 

体はもう走り出していた。

 

「俺のティンペット返せえええええええええええ!!!!」

 

叫び声を上げながら。

 

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