「じゃあな」

「待って下さい、こんな額・・・」

「いらないなら警察にでも届けておいてくれ」

施設を後にする。ここで最後だ。

「これでいいのか?」

「はい。全額です」

「ただの紙切れになってしまった」

シュウが持っている預金通帳を確認する。

残高ゼロ。預金なしだ。

「今夜の相手はMMT型だそうです」

「マンモス型か。最後に手応えのある相手と当たったな」

「持てる力を全てぶつけましょう」

アイカメラがこちらをじっと見つめた。

言われるまでもない。もう後戻りはできないのだ。

「ああ」

倉庫へ向かうためにタクシーを拾った。

財布の中に入っている金を使い切るためだ。

「お客さん、どこまで?」

「ミズワリ港まで」

「はいよ」

ブロロロロ

車は海沿いの道を走った。


ザァァァァァ・・・

三日月が海面を照らす。

時刻は午前1時。この港は元々警備が手薄だ。

加えて警備会社にも手を回してある。抜かりはない。

このロボトルは誰にも邪魔される訳にはいかない。

ドゴッ!

ガラガラガラ

深夜とは思えないうるさい音。

どうやら倉庫のシャッターが撃ち抜かれたらしい。軍隊でも来たのか?

キュラキュラキュラキュラキュラ

ガシャンガシャンガシャン

ガラガラガラガラガラ

「ノスト!この世界から抜けるんだって?」

「バカが!どこにも顔を出さず辞められるとでも?」

「動くな!われわれは恨みの代行者!正義の使者だ!」

マンモス型のメダロットが3体。メダロッターも大柄なのが3人いる。

ここまでデカくてうるさいのが並ぶと一種の威厳すら感じられた。

「ルール違反だ」

「貴様が言うな!問答無用!」

なるほど。これは一本取られた。

俺を見て慌てているシュウ。

「マ、マスター。逃げましょう」

「それはできない」

「こんな奴らでなくても、日を改めて・・・」

「俺に言っても仕方がない」

メダロッチを構える俺。それよりも速く奴らが動いた。

ドォォォォォォォォォォォォン

「この人たち無理やり・・・」

「やるぞ」

『左腕パーツ、ダメージ20%』

直撃はしなかったもののダメージは受けてしまった。

シュウは防御力が高い分、重量がある。奇襲には弱い。

俺たちの弱点を調べられているのか。

「準備、できてるな」

「はいマスター」

ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイ

頭部と胸部が開き、チャージする。

バシュウウウウウウウウウウウウウウウウ

放たれた2本の光は途中で合流し、1本の短く鋭いレーザーとなった。

「おおっと!」

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。左腕パーツ、ダメージ49%』

「これが噂に聞くレーザー攻撃。しかし、われわれには通用しない!」

しっかりパーツを破壊されているのには触れないでおいてやろう。

割り込んできたMMT型は防御機体のようだ。

もう1体は格闘機。残りは見たことがない機体だ。

「外国のメダロットか」

「そのとーり!まだ日本では発売されてないだろ!ハァーッハッハ!」

「ELF型ギガファント!プレス攻撃で貴様をコナゴナにしてやる!ハーッハッハ!」

「ハーッハッハッハ!」

鼻先に小鳥が止まっている長い鼻。

親切にも頭部でプレス攻撃をしかけてくることを教えてくれた。

最新機体がリーダーなのだろう。残る2体は傍を離れようとしない。

こちらにとっては都合がいい。

ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ

バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ

シュウの頭部からレーザーが放たれた。

すかさずリーダー機をかばうMMT型。

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

「マンマンモス!」

「おのれぇ!許さん!ゆけマンムートタスク!」

ガッ

『右腕パーツ、ダメージ62%』

もう1体のMMT型の攻撃をシールドで受け止める。

格闘機体だ。すぐに後退して距離を取る。

装甲が厚いとはいえあんな破壊力の攻撃を受け続けてはいられない。

視界が暗くなる。

重力弾だ。避け切れない。

バシュン!

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。左腕パーツ、ダメージ58%』

「ムダだ!貴様の手の内は知り尽くしている。もう頭パーツも使い切っただろう!」

やはり俺たちの情報は知られているようだ。

ツラヌキレーザーが2発撃ったのも見られている。しかし。

「チャージは?」

「できています」

ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ

バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

あと1体。

「な、なぜだ。なぜ撃てる!」

ギュイイイイイイイイイイイイイイイイ

バシュウウウウウウウウウウウウウ

『左腕パーツ、ダメージ99%。右腕パーツ、ダメージ43%』

「見せてやれ」

「はいマスター」

シュウの左腕から頭部へエネルギーが送られる。

「充電完了しました」

「補給パーツか!ヒキョウな!」

まさかこの男からその言葉を聞くとは。意外だ。

「やれギガファント!」

バシュン!

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。

頭部、ダメージ14%』

「ワハッハッハハハハ!どうだ!これでもうチャージできまい!」

両腕が破壊されてしまった。

頭部もダメージを受けている。俺はシュウを見た。

シュウは俺を見返した。まっすぐに。

いらぬ世話だったようだ。

「撃て、シュウ」

「はい」

ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイ

「なっ、なにい!?させるか!先に撃て!」

ギガファントは防御の構えをとっているようだ。

叫びまくるデカ男。

「チャージしていただろ。見なかったのか?」

「見てませんでしたああああああああああっ!!!」

バシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

メダルが落ちた。逃げようとするデカ男たち。

「待て」

「ひいっ!」

全員を引き止めた。すごい力で振りほどこうとする。逃げられる前に言っておこう。

「メダロットとメダルを持っていけ。なるべく早く」

「へっ?は、はい!わかりましたとも!」

ダダダダダダダダダ

一目散に行ってしまった。去り際まで騒がしい奴らだ。


さて。

「出てきていいぞ」

「バレてたのか」

少年が破られたシャッターをまたいで入ってくる。

最初からチラチラと見えていた。

「今日は楽しそうだった」

「わかるか?」

「わかる」

もじもじしながらこちらを見ている。

まともに話すのはこれが初めてだったな。

俺はメダロッチを腕から取り少年に押しやった。

「シュウを受け取ってもらいたい」

「オ、オレに!?」

「そうだ」

シュウとはもう話をつけてある。

俺はかがんで少年と目線を合わせた。

「俺はこれからセレクト隊に自首する。そうなったら、誰もこいつを見てやれない。

お前しかいないんだ」

「でも・・・」

戸惑っているようだ。無理もない。

怪しい男からメダロットを渡されてハイそうですかと受け取る奴はいないだろう。

俺は息をついて少年の目を見た。曇りないまっすぐな瞳だ。

やはり、彼にしか託せない。

「男の頼みだ。シュウを大切にしてやってくれ。この通りだ」

頭を垂れる。シュウと少年が驚くのが感じられた。

「・・・わかった」

「では行く。シュウ、今まで世話になったな」

シャッターを越える。もうここには戻ってこられない。

「マスター!」

背に声がぶつかった。

「私は待ちます。何年でも、何十年でも。だから帰ってきて下さい」

「オレもシュウと一緒に待つから!絶対帰ってこいよオッサン!」

ふたりの声が倉庫内に木霊する。

俺を待っていてくれるのか。こんな、何もない男の帰りを。

ずっとシュウを休ませずに戦わせ続けたこの俺を。

目頭が燃えるように熱い。

だから振り向くことはできなかった。

「またな」

片手を上げてその場を後にする。

見上げれば三日月と星が輝いて港全体を照らしていた。


「シュウ、学校行ってくるから留守番よろしく!」

「はい。いってらっしゃい」

あの人がいなくなったのが遠い昔のようだ。

まだ一晩しか経っていないというのに、私はこの家に居着いてしまった。

せめて、もう一目会いたい。

そう願いながらテレビの電源を入れる。

私の気持ちを察したのか、ニュースは彼のことを読み上げていた。

『・・・であり、セレクト防衛隊は自首した男の供述を手がかりに、

かつてない数の違法ロボトル常習犯を検挙すると発表しています。

またミズワリ港倉庫の被害については・・・』

 

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