ザァァァァァァァ・・・

波が船着き場を小さく揺らした。

月は細くなり淡く輝いている。

今夜はよく冷える。薄手のコートでは寒さから身を守り切れない。

だが、それはどうでもいいことだ。

ザァァァァァァァァ・・・

潮が引く。緩やかに、海中へ何かを引きずり込む。

ザッザッザッ

その音に混じって人の足音が聞こえる。

俺にとって、また俺のメダロットにとって、こちらの方が遥かに大事なことだ。

「あんたがノストか」

ザパーーン

波が防波堤を濡らした。

俺たちは顔を声の主へと向ける。

「ルールはお互いパーツ4つ全賭け」

「わかっている。さあ、始めようじゃないか」

「それはこっちのセリフだ」

こちらの準備は整っていた。

俺のメダロット、カメ型のシュウは既に待機済みだ。

安っぽい帽子を被った男はへらへら笑いながら言った。

「用意がいいこって。そんじゃま、メダロット転送」

海に向けて腕時計型転送装置、メダロッチを構える男。

海面に現れたのはサメ型メダロットのユイチイタンだった。

えらく旧式だ。一式揃えようとすれば一体いくらかかるのか。

「お前は潜水。俺は車両。このままでは勝負がつかない」

「そうか?俺は陸でもあんたを叩きのめせるがね」

帽子の男は軽い調子でそう言う。俺はその言葉を無視した。

「パーツをひとつ転送させてほしい。それも賭けに上乗せする」

「いいぜ」

メダロッチをシュウの右腕に向けてパーツを換装する。

ほどなく対水ライフルが装着された。

「ロボトルだ」

「遅いぜ。いけユイチイタン!」

バシュッ!

『左腕パーツ、ダメージ8%』

海中から重力弾が発射される。防御するシュウ。

「撃て」

「はいマスター」

シュウが指定した場所に対水ライフルを撃ち込む。

ガンガンガンガンガンガンガン

『頭部パーツ、ダメージ16%、32%、50%・・・』

「う、撃ち返せ!」

慌てる帽子の男。しかし、指示が遅すぎた。

ガン

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

男の前にメダルが吐き出された。敗北の合図だ。

「くそおおおー!」

それを拾うことなく男は逃げ去る。

たまにこういう奴がいる。メダルを何のためらいもなく捨てる奴が。

俺はメダルを拾い上げポケットにしまった。

これで何枚目だったか。毎度セレクト防衛隊の近くまで行って落としてやるのは気が気ではない。

違法ロボトルを行っていることがバレたらただでは済まないからだ。

「帰るぞ」

「マスター、誰かいます」

数ある倉庫の中のひとつ。その入り口に見知らぬ少年がいた。

こんな夜中に何をしているのか。気づかれないよう顔を隠す。

今までこんな失敗はなかった。子供とはいえ、誰かに言われでもしたら厄介だ。

さっさとこの場を後にするとしよう。

背を向ける俺たち。少年は背後から、どデカい声で言い放つ。

「あんたは最低のメダロッターだ!」

間髪入れずに全力で走り去っていく少年。

どういうことだ。

少年の言葉も。その行動も。

俺たちがそれを見逃してしまうほど呆気にとられている理由も。

唐突すぎて理解できない。

その場で立ち尽くす俺とシュウ。

言い表せない奇妙さを感じた夜だった。

 

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