トゥルル トゥルルル

ガチャ

「フサシです」

「第三の課題達成、おめでとうございますフサシ様。

お使いの電話番号は以後使用不能となりますのでご了承下さい。

当サービスをご利用いただきまことにありがとうございました」

ガチャ

ツーツーツー

電話ボックスから出るわたしを見るフサシ。

「帰りましょうか」

「うん」

全ての課題を終わらせた。でも、今はその感慨に浸ってる場合じゃない。

わたしたちは気持ちを抑えたまま電車に乗った。

ガタン ガタン ガタン


「ただいま」

「おかえり。早かったのね」

「うん。あのねお母さん、これを見てほしいの」

フサシが器用に石盤を持ってお母さんが見やすいようにする。

「まあ、何かしら」

「お父さんから」

「えっ?」

驚きながらも石盤をまじまじと見つめるお母さん。

フサシが静かにゆっくりと、その文字を読み上げる。

「ジュンカが元気に育って良かった。母さんに俺は最後まで幸せだったと伝えてほしい。

フサシ、ふたりをどうか頼む」

たったこれだけの短い文章。

それでもわたしとお母さんは、フサシが読み終えたと同時に泣き出してしまった。

「お父さん、こんなこと一度も言ったことなかったのに」

「最後まで不器用なんだから。あの人ったら」

それから夜までずっと泣いた。

いっぱい、フサシが心配してもずっと泣いていた。


翌朝。

支度を整えて出かけるわたしたち。

「お母さん、これ持ってっていいかな?」

「ロウソク?いいんじゃないかしら」

「香りが墓石に染みつかないといいのですが」

電車に乗って墓地に向かう。

フサシがお母さんにぴったりくっついてたけど、何も言わなかった。

少し遠い駅。

何回か乗り換えして到着した。

寒い。もう冬が近づいているんだろう。

それでも墓石が並ぶ墓地は整然と並んでいる。

季節が変わっても同じように。

「さ、お父さんにご挨拶しましょうね」

「うん」

お父さんのお墓の前に並ぶ。

わたしはバラのキャンドルをひとつだけ。

お母さんはお水をかけている。そして手を合わせた。

「父上」

黙祷が終わるとフサシが口を開いた。

「おふたりは私が守ります。安心してお眠り下さい」

盾を掲げるフサシ。心なしか墓石が輝いて見えた。

「ありがとうフサシ」

「無理しちゃダメよ」

「もちろん」

つられて寒空を見上げる。雲一つない青空だ。

きっとお父さんはこの空の向こうからわたしたちを見守ってくれているんだろう。

そう思ったら不思議と元気になれた。

「朝ご飯まだ食べてなかったわね」

「どっか食べにいこっか!」

「墓前で食欲を剥き出しとは・・・父上に申し訳ない」

「細かいことはいーからいーから」

わたしたちはお腹がすく。生きているから。

フサシをメンテナンスをしてあげなきゃ動けなくなるのと同じ。

残り少ない学生生活を楽しもう。家族と一緒に。

わたしたちの人生はこれからも続く。

この一瞬を忘れられないものにしたい。

枯れ葉が、風で舞い上がった。

 

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