「いってきます」

「車に気を付けてね」

「わかってまーす」

今日は曇り空。

肌寒さに耐えながらわたしとフサシは家を出た。

公衆電話へ向かうために。


トゥルルル トゥルルル

ガチャ

「ご利用ありがとうございます」

「フサシです」

はやる気持ちを抑え切れずに名前を口走ってしまう。

電話先の女の人は嫌な声を出さず対応してくれた。

「フサシ様ですね。では第三の課題を出させていただきます。少々お待ち下さい」

「最後だね・・・」

横にいるフサシに目を向ける。

兜で表情は見えないけどわたしと同じ気持ちなのだろう。

そわそわと落ち着かない様子で見守ってくれている。

「お待たせ致しました。第三の課題は昨日より開かれている遺跡展覧会へ言っていただくことです」

「遺跡・・・」

「メダルをお忘れなきよう。それでは」

ガチャ

ツーツーツー

「遺跡だって」

「今朝の新聞にも載っていました。隣町のようです」

すぐに場所を教えてくれるフサシ。

いつも新聞を読んでるからなのか、今みたいに妙にうわさに詳しいことが多々ある。

それは置いといて。

「隣町なら電車かな」

「電車ですか」

声のトーンを落とすフサシ。彼は電車が苦手だったのを思い出す。

それでも、今日くらいは我慢してもらおう。

「駅へ出発!」

「はい・・・」

手を引いてやや離れた場所にある駅へと向かう。

町中にあるだけあって人ごみが多い。流されてしまいそう。

「切符なくさないでね」

「わかりました」

ホームに到着して電車を待つ。

ものの数分で隣町行きの電車が停車した。

ガタタン ガタタン

発車する電車。

「見てフサシ。あそこ、風船が上がってるよ」

「うう・・・」

窓から景色を見ていて気づかなかったけど、フサシは私の足にぴったりくっついている。

すっかり忘れてた。

「車両脚部だから滑るよね」

「わかってるなら動かないで下さい」

「はいはい」

しっかり手すりを掴んでおく。

珍しく頼りない騎士くんと一緒に揺られながら。


「着いた!」

「やっと・・・」

着いた。大きなアーチをくぐって受付を済ませる。

「・・・でありまして、当遺跡は多数の壁画を・・・」

「わかりました。どうも」

案内の人に心の中で謝罪しながら中へ入った。

壁に彫られているのは絵ばかり。古代の人が彫ったんだろうか。

「メダルは・・・」

「何もないようです」

持ってきた矢印メダルを壁に近づけてみる。

反応なし。回してみても、押し付けてみても。

「他の絵でも同じだね」

「そのようで」

場所を間違ったという訳ではないはずだけど・・・。

やみくもに歩いているうちに行き止まりに当たってしまった。

壁にはやっぱり壁画が描かれている。

「行き止まりみたい。引き返そう?」

「待って下さい。これを」

フサシに言われるまま壁画をよく見てみる。

一カ所だけ小さなくぼみがあった。六角形の。

「これってもしかして・・・」

持っているメダルと似た大きさ。わたしは迷わずはめ込んでみた。

カチッ

小気味のいい音。

ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「あれっ?」

「これは・・・」

後ろの壁がせり上がって天井まで伸びる。

わたしたちは閉じ込められてしまった。

ブォン

さらに目の前の壁画もその様子を変え始めていた。

「何、何、何なの?」

「わ、私にも何がなんだか」

うろたえているわたしたちを知ってから知らずか、壁画の動きが止まった。

電子画面のようなスクリーンが目の前に現れる。

流れている映像は荒く、わかりづらいものの。

人のような形をしているのが見て取れた。

そしてわたしは何の疑問もなく『それ』に話しかける。

「あなたは誰?」

「ワタシは・・・だ・・・」

うまく聞き取れない。電波状況が悪いラジオみたいだ。

その人物は話を続ける。

「死んだ・・・ニンゲン・・・ひとりだけ・・・コトバ・・・伝える・・・」

とても聞きづらいものの、いくつか意味がわかるものを聞き取れた。

『死んだ人間』『ひとりだけ』『言葉を伝える』

死んだ人間・・・。

わたしには、ひとりしか思い浮かばなかった。

「お父さんと話せるの!?」

わたしは叫ぶ。

「ジュンカ、落ち着いて。そんなはずありません」

「そ、そうよね・・・」

なだめてくれるフサシ。そうだ、お父さんは事故で・・・。

画面の人はなおも言葉を紡ぐ。

「お前ノ・・・父カラ・・・言葉・・・預かった・・・」

「お父さんから・・・?」

「父上から?」

食い入るように画面を見つめるわたしたち。

「交換・・・これで・・・セイリツ・・・」

「待って、あなたは・・・」

ビカッ!

光が、わたしたちを包み込む。

強い光。強すぎる光が、目を閉じていてもわたしの脳に焼き付いた。

「フサシ・・・」

「ジュンカ、何ともありませんか?」

視界が戻る。

目の前にはこんな時に冷静な騎士型メダロット。

それと、見覚えのない薄い石盤。

後ろにせり上がってた壁は跡形もなく消えていた。

正面の壁画にはめ込んであったメダルも。画面も。

「これ、何だろう」

「石盤ですね。ジュンカ、何が描かれているんです?」

「待って。これ、文字みたい」

しかも、わたしに読める文字。

「どう書いてあるんです?」

「ええと。えっ・・・?」

「ジュンカ?」

内容を見たわたしは危うく石盤を落としそうになった。

だってこれは・・・。

「どうしたんですか。ジュンカ」

「お父さんからだ・・・」

お父さんからわたしたちへ向けて。

来るはずのない、死者からの重い手紙だった。

 

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