トントントン

台所からまな板を叩く音がする。

それとトーストが焼ける香ばしい匂いも。

「おはよ・・・」

「おはよう。今日は早いのね」

振り向いて微笑んでいるのはわたしのお母さんだ。

いつもわたしより早起きして朝ごはんを作ってくれる。

「ジュンカ、おはようございます」

「おはよフサシ」

寝ぼけ眼をこすりながら新聞を広げるメダロットとすれ違う。

お母さんが台所、フサシが食卓で新聞。

これが我が家お決まりの朝の光景だ。

「お昼ご飯いらないの?」

「えー?うん。そうそう。そうだった」

「しっかりして下さいよ」

顔をタオルで拭きながら食卓に着く。

今日はあれからちょうど1週間が経つ日。

わたしは身支度を整え、フサシと一緒に家を出た。

「っと。いってきまーす」

「いってらっしゃい」

玄関でちょっとつまづいた。


「もしもし」

「ご利用ありがとうございます。こちらTRSです。お名前をどうぞ」

家の近くにある公衆電話から例の課題提供サービスに電話をかける。

次はどんな課題なんだろう。

「フサシです」

「フサシ様ですね。お待ちしておりました。では第二の課題を出させていただきます」

「はい・・・」

フサシが右手の盾の裏側を見てため息をついている。このごろずっとそうだ。

やたらと光るせいで落ち着かないらしい。

「石を探して下さい」

「石?」

「はい。道ばたに転がる石ではいけません。それでは」

ガチャ

ツーツーツー

とても手短かで、それでいてわかりづらい課題を出されてしまった。

『石を探す』

それが次の課題らしい。

「聞いてた?」

「もちろん。貴重な鉱石を探せということですかね」

受話器を置くとフサシも考え込んでいる。

「しかしこのあたりには採掘場も、鉱石研究家もいません」

「困ったね・・・」

心当たりがない。こうなったらしらみつぶしに。

「河川敷に行ってみよう」

「はい」

動き出すわたしたち。ほどなく、近くに流れる川が見えてきた。

土手を降りる。フサシが転げ落ちないように、手を繋ぐ。

「珍しい石かぁ」

「普通ではないことだけは確かです」

ジャリジャリ

小石が散乱する地面を歩く。ひとつ持ち上げてみた。

「これは?」

「ありふれてます」

ジャリジャリ

「これは?」

「さっきより地味です」

ジャリ

「・・・これは?」

「割れてるじゃないですか」

「もう!珍しい石の基準って何なの?」

「見たことがない石です」

なかなか見つからないまま小一時間が過ぎた。

「フサシー」

「どうしました?」

「珍しいってことは普通の探し方じゃ見つからないってことだよね」

「そうかもしれません」

「じゃあさ、手伝ってよ」

「と言うと?」

「考えがあるの」

メダロッチを構えるわたし。

「パーツ転送!」

腕時計から伸びた光線はフサシの左腕に命中。

騎士が持つずっしりした盾は消え、巨大な万年筆のようなパーツに変化した。

「なるほど。索敵パーツですか」

「当たり」

索敵パーツ。メダロットが扱うパーツの一種。

本来はレーダーの精度を上げて命中率を高める為のロボトル用パーツなんだけど。

「メダロットに関わるものなら見つけることができるって先生が言ってた」

「ではさっそく・・・」

ピッ ピッ ピッ

「どう?」

「もう少し待って下さい」

フサシが動きを止めて周辺をサーチしている。

何かあればすぐにわかるはず。

「ありました」

「ホント!?どこ?」

「橋のふもとです」

慌てて橋のほうに走るわたし。手を引きながら急ぐ。

「ジュンカ。そんなに慌てなくても」

「誰かが先に見つけちゃうかもしれないでしょ!」

フサシは変な時に冷静だから調子が狂ってしまう。

とにかく急ごう。


ピピピピピ

「このあたりです」

「どれどれ・・・」

橋のふもとを手当たり次第に掘り返してみる。

こんなこともあろうかとスコップは準備してきた。

ザクッザクッ

ピピピピピピピピピーーーーーーーーー

ボン!

「うわっ」

「壊れましたね」

「ひー、高かったのに・・・」

パーツを転送して元の腕に戻してあげる。

寿命だったのかな。気を取り直して。

「これかな?」

「これは・・・」

地面の中に埋まっていたもの。

それは正六角形の見覚えがある鉱石だった。

「六角貨幣石じゃない」

「なぜ、こんな所に・・・」

六角貨幣石。

メダロット工学に携わる人間なら聞き覚えのある言葉だ。

今でこそメダルという言葉が使われているけど、昔はこの名前で呼ばれていたらしい。

学術的には『化石化しているメダル』を指す言葉としてよく用いられている。

つまり、これは人工知能の化石ってこと。

「これ、マークがない」

メダルには必ず動物や物といった絵が浮き上がっている。

それなのにこのメダルには何も描かれていない。まっさらな状態。

「これってどういう・・・」

「ジュ、ジュンカ」

珍しくフサシが動揺した声を聞いた。

「えっ?」

振り向くと、フサシの右腕が一際大きく輝いていた。

そしてその光はメダルへとゆっくり伸びていく。

キィィィィィィィン

甲高い音が耳を突き刺す。光がよりいっそう強くなる。

目を開けていられない。耳を塞がずにはいられない。

どれだけの間そうしていただろう。

目を開け手を降ろした。

地面に落ちているのは、円を描く矢印のマークが浮き上がった『メダル』だった。

ついさっきまで化石化していたとは思えない輝きを反射している。

「何だったのでしょう」

「わからない・・・」

自転車に乗った男の人が上の道を通る。

何も気づいていないみたいだ。

この光景を見たのはわたしたちだけなのかもしれない。

「とにかく、珍しい石は手に入りましたね」

「うん。まあ・・・」

石というかメダルだけど。

半信半疑のまま、わたしたちは電話ボックスに向かった。


トゥルルル トゥルルル

「はい。こちらTRSでございます。お名前をどうぞ」

「フサシです」

「フサシ様、石を置いて下さい」

チャリン

公衆電話の上にあのメダルを置く。

沈黙が続く。そして数秒後。

「第二の課題達成、おめでとうございます。

最後の課題を出させていただきますので、2日後にこの公衆電話からおかけ直し下さい。

本日はご利用ありがとうございました」

ガチャン

「やった!」

「やりましたね」

手と盾でハイタッチするわたしたち。

「次で最後かぁ」

「このメダルはどうします?」

「うーん。調べたいけど次まで時間もないし、しまっておこう」

拾ったメダルをかばんにしまって。

秋の涼しい気候の中をふたりして歩いていくことにした。

出校日はもうほとんどない。

明後日も行こう。あの電話を鳴らしに。

 

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