「それで、どれから手をつけます?」

「『自然なもの。不自然なもの。大切なもの』ね」

わたしとフサシは冬の気配が近づいているのを枯れ葉を落とす紅葉樹に感じながら歩いている。

考えているのは唐突に出された不思議な課題のこと。

テレフォンなんとかって言ってたっけ。

そんな名前、聞いた事がない。

「ジュンカ、考え事ですか」

「あ、ゴメンゴメン。まず『不自然なもの』から探してみない?」

考え事をすると無口になってしまう。これも、わたしの悪い癖だ。

「不自然なもの、ですか」

「きっと自然にはないものってことだよね」

道路に沿った道を見回してみる。

ガードレール。標識。自動車。小型犬。ペットボトル。

不自然なものなんて現代社会にはいくらでも転がってる。

ぼんっ

その内のひとつを蹴ってしまった。

フサシはそれを拾い上げる。

「ペットボトルですね」

「これって『不自然』だよね。人が作ったモノだし」

「木に生ることはないでしょうね」

「木かぁ」

ペットボトルを受け取って、近くの公園に入る。

中では子供たちがメダロット同士を戦わせてる真っ最中。

ロボトルというらしい。わたしは一度もしたことがないけど。

「フサシはロボトルしたことある?」

「ありますよ、たくさん。父上と一緒に」

フサシは両手に持つ大きな盾を見つめている。

父はよくメダロットの話をしてくれた。ロボトルの話もそれに含まれていた。

父とフサシは息の合ういいパートナー。わたしは、それを羨ましく思っていた。

交通事故が起きるまでは。

「ジュンカ」

「あ、ごめん。って大丈夫?」

顔を上げてフサシを見ると、兜の上に落ち葉が次々に落ちてきてた。

「すみません。手が届かなくて」

「盾、置いたら?」

「嫌です」

「ガンコなんだから」

手で払ってあげる。その中の一枚をつまみ上げた。

「『自然なもの』って、これじゃないかな」

「なるほど。植物は自然そのものですからね」

土と一緒にペットボトルに入れてみた。

これで『自然なもの』と『不自然なもの』がとりあえず揃った。

あとは『大切なもの』だけ。

「そんなの、考えなくてもわかる」

「ジュンカの大切なものとは何ですか?」

「あなたしかいないじゃない」

「はぁ。私ですか」

リアクション無し。こいつめ。

「父上の形見だからですか?」

「それもあるけど・・・わたしたちトモダチでしょ?」

「わかってますよ。照れ隠しです」

「こいつー」

「ははは」

公園近くにも公衆電話がある。

わたしたちは電話ボックスに向かった。


「これでよしと」

「あの・・・」

「何?」

「どうやって電話するんですか?」

「あ」

電話ボックスにフサシとペットボトルを入れてみたのはいいものの。

これじゃわたしが入れない。

「ちょっと出てフサシ」

「ちゃんと考えてますか?」

「しっけいな!考えてますよ」

「ならいいんですがね」

「ちょっといい?」

おもむろにフサシの右腕パーツを外す。

「一体どうするんです?」

「こうする。パーツ転送!」

腕時計型のメダロット転送装置、メダロッチから光が伸びる。

素体剥き出しの右腕が形を変えた。

「私の腕が・・・」

「すぐ返すから」

メモを見ながら番号を入力。電話をかける。

トゥルルルル トゥルルル

ガチャ

「ご利用まことにありがとうございます。こちらTRS。あなた様のお名前をどうぞ」

「フサシです」

「フサシ様ですね。お待ちしておりました。少々お待ち下さい」

バシュン!

公衆電話から放たれた光がペットボトルとフサシのパーツを包み込む。

ペットボトルとその中身は小さな光に変わり、パーツが持つ盾の裏側へと入り込んだ。

「第一の課題達成、おめでとうございます」

ぽかんと口を開けているわたしの耳に女の人の声が聞こえている。

「続いて第二の課題を出させていただきますので、一週間後、この公衆電話からおかけ直し下さい。

本日はご利用ありがとうございました」

ガチャン

「フサシ・・・」

「私の腕が・・・」

呆然としているわたしたちをよそに、受話器は単調な電子音を繰り返し続けていた。

 

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