バチッ ジジジ

「地球のメダロットが彼らを倒してしまうとは」

柱は抑揚のない声で話しながらまた姿を現す。
フサシのボディは機能停止。
シュウもティンペットが壊れるほどの深い傷を負っている。
早く帰って修理しないと・・・。

「これで地球を侵略するなんてことできないってわかった?
僕らは早いとこ帰らないといけないんだ」

「さあ、それはどうかな。君の名前は?」

「トーゴだけど・・・」

今さら名前を名乗る。何だというんだろう。
まだ諦めていないような雰囲気を感じる。

「トーゴ。もし私が侵略をしないとしても、
他にも同じことを考える者は幾度となく現れてきた。
この先その者たちに支配され、私が行うよりも残酷な目あったら君は。
君たちは、それでもこの計画を拒むのか?」

「そんなの・・・そうなってみないとわからないよ」

少なくとも今は誰かに世界制服されるような状態にはなっていない。
僕たちにとってその事実が全てで、もしもの時を考えることはまずない。

「それに人もメダロットも全滅するなんて、受け入れられるはずないよ」

死んでしまったら終わりだ。そんな選択肢なんて誰も選ばない。
柱は少しの間だけ何も言わず、それからまた話し始める。

「もうひとつ問おう。
メダロットを含む、人類を傷つける兵器を破壊する計画がある。
これは私の本意ではないが同時に進行させているものだ。
人類にとっても、地球のあらゆる生命にとっても、
この計画を行えば大きな前進になるのではないか?」

「メ、メダロットは兵器じゃない!そんなの、さっきの計画と同じだ!」

「ではそれは何だね?」

振り返ってニシンを見る。フサシの今のボディは確かに、兵器として作られた。
でもこれは必要なもの。このボディがなければ町はとても守れない。

「これは必要だから。いつもは違うボディを・・・」

「他の兵器も同じ理由で造られた。攻撃されない為には攻撃する装備が必要。
人類はそう判断し今日まで暮らしてきた。だが、結果はどうか?
兵器を使って殺傷を繰り返す。あるいは他者を脅し、
あるいは他の生命を無為に奪い、憎しみや怒り、悲しみ、怨みを生み出す。
既に地球は人類が作り出したモノに苛まれつつある。それを防ぎ止める計画だ」

「それは・・・」

人が繰り返してきたことを、僕は知らないわけじゃない。
武器や兵器を使った争いの罪深さも・・・。
でも、でもそれは・・・。

「メダロットはただの兵器なんかじゃない・・・」

ニシンがいる。シュウがいる。
ポケットの中にいるフサシをそっと確かめる。

「僕たちの友達なんだ。いなくなるなんて、イヤだ」

「メダロットが残れば争いも残る。人びとはこれからも憎み合い、争い合い、
メダロットもまた、それに巻き込まれていくだろう。
トーゴ。君はメダロットを友達だと呼ぶが、その大切な友人が傷つき、
君たち人間の問題に関わらせるのを許すというのか?」

そうだ。今だって僕たち人間が起こす問題にニシンたちを付き合わせてる。
それはこれからも続くのかもしれない。
メダロットにとって、ニシンたちにとって辛いことなのかもしれない。

「ボクは、それでもいいよ」

「オレはマスターの為なら命など惜しくない」

ニシンとシュウはそう言った。
フサシも、いつもヤギウラさんと一緒にいることを悔いたりしない。
ウルとロペはいつもジク兄ちゃんと一緒に楽しそうにしてる。
クイスターガードも、ミジュウ博士のKWG型メダロットも。
メダロット誘拐犯の側にいるメダロットさえ、メダロッターと一緒にいる。

「それは、君たちがそう考えるようプログラムされているからだ」

柱は言う。ニシンは首を横に振った。

「違うよ。今のボクはそういう装置がいつもより緩くなってるけど・・・。
それでもトーゴたちと一緒にいたい。そのためならいくらだって戦える」

「君たちの考えはわかった。それでは・・・戦いを始めよう。
私の計画の産物を止められなければ、君たちの望む未来は訪れない」

床からまたメダロットがせり上がってくる。
そのメダロットは人間に形がよく似ていた。
話す柱と似たような六角形の一つ目。
左右の腕は指が5本ずつに分かれていて、足の部分には1本ずつの両腕。
その後ろには人間とは反対の関節をした導線が集まった足が1本ずつ生えている。

「それは、メダロット?」

「メダルを動力とするという点は一致している。
ただしこれはメダルの持つエネルギーを注入したもの。
いわば体そのものが意思を持ったロボットだ」

「そ、それじゃあまるで・・・」

「そう、頭脳の取り外しなどできない。より人間に近い構造をもつメダロット。
私の計画を止めるにはそのメダロット、ハンドマムナを倒し、
永久に動かないよう完全に破壊するしか方法はない」

つまり、メダルを破壊するのと同じことをしなきゃ止められない。
さっきの2体もメダルが粉々になってしまっていた。
本当にこれでいいのだろうか・・・?

「ウ、オオオオオオオオオオ!!!!!」

シュウが叫び苦しみ出す。
いきなりの叫び声に悩むのを強制的に止められてしまう。

「シュウ?どうしたの!?」

「オオオオオオオオ!!!!」

ピィーッ バリバリバリ

いきなりレーザーを向けるシュウ。
でも攻撃は見えない壁に阻まれるように消滅してしまった。
防御パーツかもしれない。それも攻撃を無効化する特殊パーツ。

「ウオオオオオオオオオオオオ!!!!」

ピー ピィー

怒り狂うように絶叫しながら攻撃を繰り返すシュウ。
ニシンも様子がおかしくなっていた。

「ウウ・・・」

「ふたりともどうしたの!?」

「あのメダロットが憎くなって・・・攻撃しなきゃいけないような・・・」

何とかニシンとは話せる。それでも必死に何かをこらえているように見える。
とても戦えるような状態じゃない。

ピー ビュン

『脚部パーツ、ダメージ40%』

「反射パーツまで!」

ハンドマムナが手で払うような動きをする。
シュウの攻撃はことごとく消えてしまうか、丸ごとハネ返されていた。

「トーゴ!攻撃させて!」

「まだダメだ!」

ニシンの攻撃は破壊力がありすぎる。ただ反射されるならまだしも、
もしシュウに向かってハネ返されたら同士討ちさせられてしまう。
攻撃を封じられたまま、なすすべなくやられるしかないのか・・・。


『頭部パーツ、ダメージ80%』
『右腕パーツ、ダメージ40%。左腕パーツ、ダメージ60%』

「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」

ひたすら攻撃するシュウと時折ハネ返される攻撃を受け続けるニシン。
このままじゃジリジリとやられていくだけ。
僕は頭を抱え込む。何でもいい。反撃の手を考えなきゃ。
何もできないままやられるなんて、そんなのイヤだ。

「トーゴ・・・ボクも、もう限界だ!攻撃する!」

「ニシン、ダメだ!」

バシュン ビュン

『右腕パーツ、ダメージ99%。ティンペットが破損しました』

「うわあああああああああ!!」

右肩から下が反射による自らの攻撃で吹き飛ぶ。
もう考えている時間は残されていない。やるしかない!

「ニシン、もっと右に回り込んで!」

「イタタ・・・わかった!」

右肩をかばいながら走るニシン。
ハンドマムナを中心として左側にシュウ、右側にニシン。
ちょうど挟み撃ちのかたちになる。

「グオオオオオオオオオオ!!!!!!」

ピィーッ

突撃しながらレーザーを放つシュウ。
反撃のチャンスはここしかない!

「ニシン!ショートハンドル発射後に足パーツ全開!」

バシュン

ビュン バリバリバリバリ

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
シュウの左腕パーツにレーザーがハネ返され、シュウの光線は消滅する。
直後に水平姿勢になったニシンの足パーツが点火した。

ボボボボボボボボボボボ

最大火力で地面スレスレを飛ぶニシン。
攻撃パーツが通じないならもう、これしかない。
ハンドマムナとニシンの距離が一気に縮まる。
残り3分の1を切ったとき、ハンドマムナは上半身の両手と脚部にある両手両足。
その全部を使ってシュウの背に回り込んで取り付いた。

「シュウ!」

このままだとシュウに激突してしまう。
あの音だ。声は絶対に届かない。メダロッチの指示も、音にかき消されてしまう。
それでも叫ばずにはいられなかった。

「頭パーツを使うんだ!」


ピピピピピピ

ボクは飛びながら頭パーツのレーダー機能を使う。
このスピードだ。どの道モニターに映し出される映像は役に立たない。
シュウに取り付くハンドマムナの位置を正確に割り出す。
接触まで残り0.6秒。
方向転換すればシュウに正面から激突するのは避けられるかもしれない。
でも、もしここで避けたらハンドマムナからも離れることになる・・・。

「オレ・・・ゴト、ヤレ・・・ニシン・・・」

ぶつかる寸前に、シュウがそう呟いたのが聞こえた。


バキャアアアアアアアアアアアアアア

『ダメージ、99%・・・・・・』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止。ティンペットが損傷しました』

チャリン

舞い上がるシュウのメダル。
勢いよく地面に転がるニシン。
それでもまだ、ハンドマムナは動いていた。

「モクヒョウサイホソク・・・・セントウゾッコウ・・・・・」

ギギギ ギギギギギ

『頭部パーツ、ダメージ90%。脚部パーツ、ダメージ96%。歩行不能』
互いに這いつくばりながらにらみ合うニシンとハンドマムナ。
左腕の銃口を向けるニシン。
脚部の導線の束で形づくられた足で地面を踏み砕くハンドマムナ。

「トーゴ・・・指示を出して・・・」

ノイズが混じった声で言うニシン。
ニシンに撃てと言えないまま2体のメダロットは距離を縮めていく。
ボロボロになったハンドマムナの姿と同じくらい傷ついたニシンの姿。
そのどちらも、僕は止められない。

「コウゲキ・・・・カイシ・・・」

ギ ギ ギ ギ ギ

ニシンを踏みつけようと足を上げるハンドマムナ。
僕は攻撃の指示を出せないまま走り始めた。


「攻撃中止。現在の命令内容を破棄せよ」

「コウゲキチュウシ・・・・・」

ガシャン

横向きに倒れるハンドマムナ。
柱はニシンの前に立ちふさがる僕の前までやってくる。

「君はなぜ悲しんでいる?」

「・・・わからない」

言われて気がつく。いつの間にか両頬には涙が伝っていた。
戦いに割って入ってしまった。
当然、僕も攻撃の対象になることを覚悟していたのに、攻撃は止まったまま。

「それが君たちの考え方か」

動かないハンドマムナと動けないニシンを見下ろす柱。
少しの間だけ動かない。やがて、話を再開した。

「ハンドマムナはもう君たちに手を出さない。
先ほどの2体にもそう命令しておく。友人を連れて帰ってくれ」

「え・・・でも、さっきの2体はメダルが・・・」

急に敵意を向けられなくなって僕もニシンも戸惑う。
それにはお構いなしに柱は話し続けた。

「あのメダルに知能は封じられていない。むろん意思も存在しない。
ただの鉱石だ。思考をつかさどる部分は別にある。ハンドマムナと同じだな。
メダルの代用として搭載してみたが、やはり何の意味もなかったようだ」

ブウウウン

動かなくなったフサシのボディとシュウのボディ。
それにシュウのメダル、ニシンと僕まで浮き上がって光に包まれ始めた。

「ぼ、僕たちをどうする!?」

「話を聞いていなかったのかね?帰ってもらう。
もう君たちと語り合う必要性は感じられない」

ブウウウウウウウウウウン

輝きが強くなる。帰るって、でも、計画がどうのって言ってたはず。
急にそれを諦めたとは思えない。

「これからも計画を進めるつもりなの!?」

「わからない。君の答えと同じだ。だがこれだけは伝えおく。
当面は両計画を凍結する。地球に電波を送ることも中止する。
凍結する期間は人類の行動次第で変化するだろう。
このまま悪化の一途を辿るならば凍結を解除して計画を再開する。
だが君たちのような考えの人間やメダロットが増え続けるならば、
計画はいつまでも実行するつもりはない。では、さらばだ」

ニシンたちの姿が消える。
僕の体も光に包まれて目を開けていられなくなる。
目を閉じても遮れない、まばゆい光の中で僕は叫んだ。

「君の名前は・・・君はいったい・・・・」

「私に名前など・・・ない。
私は・・・かつて地球で生まれた者だよ・・・・」

そして僕は転送された。

 

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