広がる何もない空間の中で、あまりのことに立ちすくむ僕とニシン。

「何だって?」

「ようこそ、私の星へ。正しくは船と呼ぶべきかな」

短い柱に丸い球体が乗った姿をしたソレは再びそう言った。
頭が追いつかない僕たちに構わず話を続けてくる。

「惑星をくり抜いて大きな船にしたということだ。
様々な施設を内包している。メダロット製造施設もある」

「ここはどこ?」

自然に口が開く。
もちろん地球がそんな状態になっているはずはない。
それなら僕らが立っているこの場所は一体、どこなんだろう。

ドサドサッ

「おわっと」

「フサシ、シュウ!」

騎士型メダロットと亀型メダロットがそれぞれ着地する。
ふたりも転送がうまくいったみたいだ。

「ウルは?」

「オレとフサシが入る直前にメダロット狙いの盗人どもが襲ってきた。
恐らく今は戦いの真っ最中だろう」

シュウが言う。ウルは来られないのか・・・。
小さな柱はふたりが来たのを確認して何か合図をしたらしい。
2体のメダロットらしきロボットが地面からせり上がってきた。

「メダロット・・・?」

「そうだ。君たちとは少しだけ仕組みが違うがね。
私はこれらを量産して地球を侵略する計画を進めている」

「地球を侵略するだって?」

頭の中がぐるぐるする。現実感がまるでない。
そもそも、たったひとりだけでそんなことができるはずが・・・。

「私だけではできないが、彼らがいればできる。
人類を廃し、メダロットを廃し、私たちが地球を支配する計画だ」

絵に描いたような悪人が言う言葉に僕たちは驚く。
計画だか何だか知らないけど、それを実現させるわけにはいかない。

「そんなことさせない!」

「では、戦ってみるか?このメダロットたちに勝てるなら、
あるいは君たちに阻止されるかもしれない」

「・・・・・」

ガシャッ

2体のメダロットは黙ったまま動き始める。
生命を感じさせない動き。メダロットはこんなに機械的には動かない。
小さな柱はメダロットたちから離れ始めた。

「テイルビースト、ビーネスビートル。目標3体を排除せよ」

「リョウカイ」

くぐもった音を出して答えるメダロットたち。
僕らは身の危険を感じた。

「ニシン、フサシ、シュウ!戦うよ!」

「うん!」

「はい!」

「任せろ!」

三者三様に力強く返事をする。
5体のメダロットが向かい合い、それぞれ動き始めた。


バシュウウウウウウウウ

テイルビーストと呼ばれていたメダロットがミサイルを発射する。
身の丈ほどもありそうな大きなミサイルがニシンたちの方に飛んできていた。
いけない。フサシは攻撃パーツをつけていないしニシンの攻撃はまだ弱い!

「シュウ!ミサイルを!」

「オウ!」

キュイイン ピィーッ

ドゴオオオオオオオオオオオン

「うわあ!」

吹き飛ばされるニシンたち。ダメージこそないものの、すごい爆風だ。
加えて体がいつもより軽いからか吹き飛ばされやすくなってるらしい。
爆風を飛び越えて、もう1体。ビーネスビートルと呼ばれたメダロットが迫る。
筒のような尻尾がたくさん生えた不気味な形のテイルビーストとは対称的に、
半透明のソードと固そうなハンマーパーツ。大きな角。
シンプルなパーツ構成であまり強そうに見えない。

「フサシ、そっちのメダロットをお願い!」

「わかりました!」

ブンッ ビビビビッ

目にも止まらないハンマー攻撃をたくみにかわし続けるフサシ。
逆に手に持った盾で反撃している。

ガンッ

盾で突き飛ばされたビーネスビートルが大きく後ずさった。
『ダメージ、0.7%』
機械的な声を出すビーネスビートル。
声というより内蔵された機械音声のようなものが発しているように聞こえる。

「装甲が厚い。私の盾で殴っても、大したダメージは期待できません」

フサシが言った。確かに、ぜんぜん効いているようには見えない。
さっきのミサイル攻撃といい、フサシと同じような兵器型か・・・。
もしくはもっと危険なメダロットに思えた。

「ニシン、パーツの解放率は?」

「確かめてみる!」

バシュン

『ダメージ、13%』
光線がテイルビーストに命中する。
ある程度は攻撃力が高くなってきたみたいだ。これなら戦える!

ガパッ ギュイイイイイイイイイイイイ

のけぞったテイルビーストの頭パーツにエネルギーが集まるのが見える。
僕はその『タメ』に言いようがない悪寒を感じた。

「全員離れて!」

「ふたりとも、私の後ろに!」

フサシがふたりの前に出て攻撃に備える。
次の瞬間、空間が紫色の小さな重力弾で覆い尽くされた。

ボガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『左腕パーツ、ダメージ98%。活動限界です』
『脚部パーツ、ダメージ86%。頭部パーツ、ダメージ82%』

「フサシ!」

「すみません。ニシンとシュウが・・・」

『左腕パーツ、ダメージ40%』
『右腕パーツ、ダメージ20%』
フサシの後ろには隠れきれなかったのか全員が攻撃を受けてしまった。
それでもフサシが受け持ってくれたお陰でダメージはほとんどない。

「フサシ、下がって。ふたりとも反撃だ!」

「わかった!」

「やられっぱなしでいられるか!」

ピィー バシュン

『ダメージ、70%』
攻撃直後のテイルビーストにニシンとシュウが集中攻撃を浴びせる。
大きなダメージを与えられた。その勢いでビーネスビートルにも射撃をしかける。

ピー

『ダメージ、21%』

ギギギギギ

シュウのレーザーが当たって、ニシンが次の攻撃を放とうと銃口を向けた。
ビーネスビートルが体を大きくひねったまま停止する。

「トーゴ近寄るな!また来るぞ!」

シュウが急にニシンの頭を押さえて身を屈ませる。フサシも身を伏せた。
近寄りかけた僕もとっさに飛び込むかたちで身を低くする。

ズバアアアアアアアアアアアアアアアアア

「く・・・おおおおおおおお!!!」

『右腕パーツ、ダメージ99%。ティンペットが破損しています。
持ち主は速やかにメダルを取り外して下さい』

「シュウ!」

切り落とされたシュウの右腕からむきだしのケーブルが飛び出る。
僕が後退の指示を出す前にシュウとニシンは攻撃を撃った。

ピー バシュン

『ダメージ、90%』
『ダメージ、66%』

「オレたちに構うな!」

「それより次の指示を出して!」

シュウとニシンは戦いを続ける。
フサシも体をきしませながらテイルビーストを引きつけている。

「みんな・・・」

改めて気づかされた。この戦いは何がなんでも負けられない戦いなんだと。
身を起こして戦いの場から離れる。みんなに気を遣われないように。
フサシとシュウにも聞こえるよう大声で指示を出す。

「フサシ下がって!ニシン、シュウ。トドメだ!」

バシュン ピー

『ダメージ・・・』

ガシャン

テイルビーストが倒れる。メダルは粉々になって背中から吐き出された。

バシュシュシュシュシュシュシュ

「ミサイルだ!ふたりとも迎撃して!」

それに気を取られる暇もなく、ビーネスビートルがミサイルを連射する。
大きなツノからは大きなミサイルを。
頭の後ろに生えている小さな2本のツノからは小さなミサイルを3発ずつ。

ピー バシュン

ババババババ

辛うじて3発ずつのミサイルを撃ち落とすニシンとシュウ。
でも残る1発の大きなミサイルが3発の小さなミサイルに分裂。
それぞれのミサイルが全員に襲いかかる。

「動かないで下さい!」

フサシが離れようとするニシンとシュウを一喝して引き止めた。
ふたりの前でフサシが左手の盾を構える。
攻撃を受け続けたあの体じゃ、どう考えても持ちこたえられない。

「ダメだフサシ!」

「メダルを頼みます・・・」

ボガガガァン

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

フサシの盾が砕ける。
同時にメダルが飛んだ。僕はそれをすかさず拾う。

「すぐに終わらせてボディに入れるから、待ってて」

右のポケットにフサシのメダルをしまってその場から離れる。

ギギギギ

ビーネスビートルがあの構えを取るのが見える。
でも、遅い。ニシンとシュウはすでに狙いを定めていた。

「撃って!」

バシュ ピー

『ダメージ、100%・・・・』

ガチャッ

3体目のメダロットが機能を停止した。

 

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