「新型機の性能は機密事項で・・・」

「緊急事態なんです!お願いします!」

研究所で僕らはミジュウ博士に事情を話して頼み込む。
セレクト隊の増員が行われるのはまだ何日も先のことらしい。
遅くなれば遅くなるだけハバタキ町のメダロットは全滅してしまう。
それにセレクト隊のメダロットも止まったり、暴走するかもしれない。
猶予は1秒もない。僕らが何とかしないと。

「わかったわ・・・。ただし、研究所から監視員を同行させます。
なるべくムチャはしないで。それと、姿を隠しながら戦ってほしい。
マントなんて気の利いたものはないけれど・・・」

白い、研究員の人が着る服がニシンに着せられた。
僕らがすぐに離れようとすると博士に肩を掴まれ、振り向かされる。
じっと僕らを見つめる博士の目は不安でいっぱいのように見えた。

「約束して。危ない時は大人を頼るって。
あなたたちのような子供が、たったふたりでどうこうできる問題じゃないの。
それだけは忘れないで・・・」

真剣なまなざしに僕らは胸をわしづかみにされたように硬直する。
人からこんなに心配されるのは生まれて初めてのことのように思えた。

「約束します。だから、行かせて下さい!」

「戦わないで見ているだけなんて絶対にできない!」

僕らは制止を振り切って走り出す。
絶対に、好きにさせるもんか。
その気持ちだけを胸に。

「・・・わたしも、黙って見ている訳にはいかない」

博士が別れ際に呟いた言葉も聞き取れないまま。
そして、長い戦いが始まった・・・。


僕らは戦った。戦い続けた。
ときには何十時間も。ときにパーツを変え、大人を頼り。
それでもわずかしか休むことなく、ただ、戦い続けた。

「もう、何日目だろう・・・」

「月は、変わってる・・・みたい」

尋常じゃない数のメダロットと、それに引けを劣らない数の人間。
それらを倒し、捕まえ、追い返し、ときにはティンペットごと破壊して。
ボロボロになった体を引きずって町を守り続けた。
戦いが始まる前にもらった白衣も今や破れ、ほつれ。
そこらじゅうに黒ずんだ染みがこびりついているのに気づく。

「トーゴくん。トーゴくん!」

ヤギウラさんに揺さぶられて遠ざかりかけた意識が戻った。
ずっと必死だったからか、何年かぶりに会うような懐かしさを覚える。

「原因の場所がやっとわかったの!近くの町の研究所と協力して・・・。
とにかく来て!もう他の人も集まってるから!」

「原因・・・?」

いつまでも続くと思っていた戦いの何かを掴めたらしい。
町の広場に集まったのはメダロット。そしてメダロッター。
どちらもボロボロで疲れ果てているように見えた。
僕もこう見えているんだろうか。

「つまり、にわかには信じられないことですが、
誰も探知できない場所から怪電波を送っていたということになります。
恐らく地下のどこか。発信源を度々変えていた為に捜索は困難を極めました。
ですが、いくつかの発信パターンから『発信元』に通じる位置を予想。
範囲は広いですがどこかの場所から『発信元』に繋がる可能性があります。
これを利用して簡易ながら『転送装置』を完成させました。
メダロットだけではなく、人間をも転送させる装置です」

「そんなことができるのか・・・?」

集まったメダロッターたちの間にざわめきが走る。
説明している研究者の男の人は倒れそうになりながらも話を続けた。

「可能です。ただし大きさは限られますから、大人の方は難しい。
出来るのは小学生か、成長期がきていない中学生程度まででしょう。
『発信元』は明らかにわが国のテクノロジーの遥か先をいっている。
発見した方は、まず私どもの研究所の研究員に知らせていただき・・・」

「トーゴくん?」

フラフラと地図を受け取ってその場から離れる。
他のメダロッターも似たようなものだった。
僕らはもう何が原因だろうと、相手が誰だろうと、行くしかない。
足がもつれて転んだ。痛みの感覚もマヒしていた。

「休んでトーゴくん。ニシンも。
わたしが安全な場所に連れていっておくから・・・」

ヤギウラさんの声が遠く聞こえる。
意識が、途切れた。


視界がぼやける。
目を覚ましたのは誰の声も聞こえない夜遅くだった。

「起きましたか。ふたりとも」

フサシがハバタキ町の地図を僕らに渡す。
ぼんやり思い出してきた。どこかに転送される場所を割り出したとか言ってた。

「あ・・・ボクのパーツ」

「寝ているうちにミジュウ博士が来たので修理しておきました。
急ぎましょう。予想されている時刻は間もなくです」

バツ印だらけの地図を手に夜道を歩く僕ら。
ヤギウラさんは安全な場所にいるからフサシが離れていても安心だという。
僕が行動するときは研究所の人も同行することになっている。
今回もその例に漏れず男の人が黙ってついてきていた。

「ここは・・・」

電話ボックスの前でフサシが立ち止まった。
地図と照らし合わせている。指定されている場所らしい。

「ここ?」

「はい。因果なものです」

時刻が来るのを待つ僕ら。
刻一刻と迫る予定時間。その2分前になって、僕ら以外の気配がした。

ガサガサ

「誰!?」

「おい、俺たちだ!わかるか?」

ぬっと現れたのはジク兄ちゃんとノスト。
ふたりも地図をくれた人たちの話を聞いていたらしい。

「ノストまで・・・」

「俺が住む町の近くにも電波の影響が近づいてきている・・・。
お前たちには恩がある。見て見ぬフリはできない」

シュウとウルもいる。4人と4体のメダロットは、その時をじっと待った。


予想されていた時間が過ぎる。1分、2分、3分、4分・・・。

「眉ツバもんだったってコトか?」

ジク兄ちゃんが頭を掻く。暗がりで気づかなかったけど、今日は頭が真っ黒だ。
ノストもウルもフサシもニシンもシュウも、同行していた研究員の人も。
誰もがその場から離れようと考え始めているのがわかった。
それから、5分、6分、7分、8分・・・。

「帰りましょうか・・・」

フサシがぽつりと呟く。僕らも期待はしていなかった。
でも、小さな可能性にすらすがりたい・・・。
僕を含め誰もがそんな気持ちだったんだと思った。

バチッ

予定の時間から9分が過ぎた時だった。
電話ボックスの中が光り始めたのは。

「光ってる!スゲー光ってる!」

ウルがはしゃぐ。僕らはどうすればいいのかわからずに慌てた。
フサシが動揺するみんなを止めるように話し始める。

「話によれば、中学生程度までの身長の人間、
もしくはメダロットが転送できるそうです。
この条件を満たすのは人間の中ではトーゴのみ。
そして電話ボックスには詰め込んでも一度にふたり程度しか入らない」

ガシッ

引き止めようとする研究員の人をジク兄ちゃんとウルが押さえつける。
僕とニシンは入る前に一度だけ振り向いた。

「行けよ、トーゴ。ウルたちもすぐに追いかけるからよ!」

ジク兄ちゃんがいつものように笑いかける。
もがく研究員の人。

「いけません!あなたがたに何かあったら博士に申し訳が・・・」

「ごめんなさい。行ってきます」

「博士にはボクらから謝っておきますから」

バチチチチ

多少の罪悪感を覚えながらも、僕とニシンは光の中に入っていった。


視界が反転する。
ゆっくり落ちていく感覚。
先に着地していたニシンが受け止めてくれなかったらきっと頭から落ちていた。

「ここは・・・」

見覚えのない場所。身を包む感覚にも違和感がある。
地面に降り立った僕の違和感はよりいっそう加速していく。
体が、軽い。
まるで水の中にいるような。

「この場所に尋ね人とは珍しい」

僕らの目の前にいるモノ。
目の前にいる何か。
それは言葉を話すのに人間でもなく、メダロットでもない。
短い柱のようなその姿は機械なのか生き物なのかも判断できなかった。

「ようこそ。私の星へ」

ソレは確かにそう言った。

 

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