「今日はここまで。本番は一生で一度きり。
在校生や保護者の方々に見送られる場面でもあります。
皆さんの立派な姿を見てもらえるよう最後までがんばりましょう」

体育館から6年生がゾロゾロと出て行く。
来月に控えた卒業式の練習も残り回数は片手で数えるほどしかない。

「練習で泣く奴って本番でどうなるんだろうな」

「さあ。やっぱり泣くんじゃない?」

男子にも女子にも泣いている人がいた。
僕も友達も練習で泣くことはなく、いまいち卒業の実感が持てずにいる。

「6年間続いた腐れ縁もここで終わりか・・・」

友達がぼやく。僕とは小学校1年生からずっと同じクラスだった。
でも、中学校は違う。僕が選んだ中学校とは違う学校に行くらしい。

「中学に行ってもたまには遊ぼうぜ。家近いんだし」

「当たり前だよ」

お互いに笑い合って下校した。
もう2月。次に学校に行くのは卒業式だ。


ガチャ

「おかえり、トーゴ」

「ただいま」

ニシンが珍しく新聞を読んでる。
何を読んでいるのか気になって覗いてみると四コママンガだった。

「四コママンガ見てただけかぁ」

「面白いよ。トーゴも見てみる?」

メダロットたちの他愛もない日常を描いた四コマらしい。
今日の話に出てくるメダロットが犬型だったからか、ニシンはなぜか満足げ。

トゥルルル トゥルルル

電話が鳴った。ニシンはマンガを切り抜くのに夢中で気づいてない。
仕方なく電話から遠くにいた僕が受話器を取った。

「もしもし。ウロガミですが」

「トーゴくん?よかった!学校から帰って来てたのね!」

「は、はい。そうですけど・・・」

電話の向こうから聞こえるヤギウラさんの声は、何か焦ってるように聞こえた。
僕が聞き返す前にヤギウラさんは言葉を続ける。

「お願い、助けに来て!他の人にも・・・」

プツッ ツーツーツー

電話の途中で切れちゃった。
何があったのかわからないけどただ事じゃない。
僕とニシンはすぐに支度をして家を出る。


バシャッ ボオオオ

「私のメダロットを持っていかないで!返して!」

「どけ、ガキ!」

「きゃあっ!」

男の人に突き飛ばされた女の子は、それでもなお足にまとわりつく。
肩にはぐったりとしたメダロットが担がれているのが見えた。

「やめろ!」

「あぁん?ガキじゃねえか。ガキのくせに邪魔するんじゃねえ!」

ブンッ

掴まれていた足を振り上げて女の子を吹き飛ばす男。
ニシンが辛うじて受け止めて地面に降ろす。

「私の、私のメダロット!」

「待ってて。すぐに取り返してあげるから」

僕とニシンが2体のメダロットと戦い始める。
だけど戦いが始まってすぐ、セレクト隊員を連れたヤギウラさんが駆けつけた。

「悪党め!そこまでであります!」

「チッ、セレクト隊か!」

男はメダロットを捨ててそこから逃げ、セレクト隊員はそれを追いかけていく。

「うっ・・・うっ・・・」

女の子は動かないメダロットを抱きしめたままずっと泣いていた。


それから1、2時間ずっと戦い続けて、町から悲鳴が消えるのを感じ取る。
満身創痍のニシンとフサシ。それに僕とヤギウラさんはその場に座り込んだ。

「いったい、何が、あったんですか」

途切れ途切れに息を吐き、何とか言葉をひねり出す。
ぐったりしているヤギウラさんに変わってフサシがそれに答えた。

「急にこの町一帯のあらゆるメダロットが停止しました。
つい半日ほど前のことです。セレクト隊のメダロットまで停止してしまって。
それを聞きつけた者どもが我先にとメダロットを誘拐に・・・。
ジュンカは手当たり次第に知人のメダロッターへ救援を頼んだというわけです」

「そんなことが・・・」

あまりにも急で信じられない事件にフサシたちは巻き込まれたらしい。
それに、僕らも・・・。でも、いったいなぜ?どうしてこんなことに?

「例の・・・電波が・・・」

「ジュンカ。まだ喋らない方が」

「大丈夫。落ち着いてきたから・・・」

ヤギウラさんの息が整うのを待って、僕らは話の続きを聞く。
それは信じたくない話でもあった。

「例のメダロットの暴走を誘発させる電波。
あれが波長を変えていきなり広範囲に発生したの・・・。
どうやら新しい電波はメダロットを強制停止させるらしくて。
定期的に数カ所から発信されているみたいで出所はわからない。
でも、このまま放っておけば確実に・・・」

確実に・・・どうなるのか。その先はまた、フサシが話した。

「確実に被害は広がり、暴走するメダロットと停止するメダロット。
他の町もその両方で溢れ返るのは時間の問題です。
セレクト隊も、ジュンカら研究者も、誰も止める手立てを持っていない。
また2年前のような・・・最悪の事態に発展する可能性が高い」

「ハバタキ町だけじゃない。被害はこれから急増する・・・。
確実に、際限なく・・・止められない・・・・」

ヤギウラさんは話をしめくくり顔を覆った。
フサシに抱きとめられながら肩を震わせている。
その姿を見て、僕は、ニシンは・・・。

「ジク兄ちゃんも来てるんだよね?」

「はい。他にも何人か集まっていますが、
この町だけならまだしも範囲が広がっていくとなると・・・。
セレクト隊の増援が早く来てくれると良いのですが」

フサシが言いかけてハッと気づく。
止める言葉を聞く前に僕たちは叫んで走り出していた。

「ボクらも戦う!そのための新しいボディだ!」

「リンヨウたちと約束したんだ!もう自分たちみたいな人を生ませないって!」

行く先はミジュウ博士のいるベッコー研究所。
一刻も早く行きたい。ジク兄ちゃんの協力が必要だった。
兵器型メダロットのパーツを使い、町を守る!
僕らは言葉もなく誓い合った。

 

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