ピンポーン

「明けましておめでとうございます」

「あら。あなたがトーゴくん?ジュンカに話は聞いてますよ。
どうぞ遠慮なく上がってちょうだい」

「はい。お邪魔します」

広い玄関。時代を感じさせる古びた家。
入る前に気づいてたけどかなり大きくて広い。
僕の家の3倍以上はあるように思えた。

「いらっしゃい。トーゴくん、ニシンくん」

「お邪魔しますヤギウラさん」

「明けましておめでとー」

ヤギウラさんはこたつに入ってテレビを見ながら僕らを出迎えた。
こたつの上には、溢れそうなくらいのおせち料理が並んでいる。

「人が来るって言ったらお母さんはりきっちゃって。
ニシンくんはフサシに制御装置の改良をしておいてもらってね」

「わあい!」

パーツを取り外すニシン。ついでにパーツメンテナンスもしてくれるらしい。
おせちを食べながら僕とヤギウラさんはゆるゆる話した。

「この昆布巻き、とってもおいしい!」

「本当?うれしい。それはわたしが作ったの」

「ヤギウラさんが?」

「自分だけじゃ数が間に合わないって言われて・・・」

「ジュンカー。ちょっとご近所に行ってくるから後よろしくね」

ヤギウラさんのお母さんは外に出かけていったらしい。
おせちを食べても食べてもなかなか減らない。かなりの量がある。
僕もヤギウラさんもお腹を落ち着けるために熱いお茶を飲んだ。

ズズー

「あ、そうだ。ニシンの色を変えようと思ったんだけど、
なかなか決まらなくて。ヤギウラさんたちに相談していいかな?」

「もちろん。パーツがちょうど取り外してあるから、やっちゃおう!」

ニシンの意見では、僕の肌に合わせた茶色っぽいボディにしたいとのこと。
僕は黄色がいいと言い、フサシは白はどうかと提案。
ヤギウラさんがみんなの意見をまとめて色のモデルを紙に書いた。

「それにしよう!外で塗装して乾かしておこう」

ヤギウラさんと協力してひとつひとつ色を塗りたくる。
こげ茶色をベースに白い波線に挟まれた黄色い斜線が走る。
それを各パーツにあしらって完成。あとは乾くのを待つだけ。

ブロロロロ

「あ、ジク兄ちゃん!」

「博士に連れてくるよう言われたんだが・・・。
楽しそうなことやってんじゃねーか!俺も混ぜてくれ!」

塀の向こう側からジク兄ちゃんがぬっと銀色の頭を出して言った。
今日はロペの姿が見えない。

「もう終わっちゃったよ。おせちはまだ残ってるけど」

「なに!おせち食ってたのか!?俺も食いたいぞ!」

「まだたくさんあるから。ジクさん、玄関から入ってきて下さいよ」

そのままよじ登りかねない兄ちゃんをヤギウラさんがいさめる。
乗り込んできた兄ちゃんの側には見慣れない水色のメダロットがいた。

「あれ、ロペじゃない?」

「お?コイツ連れて来たことなかったっけか?」

そのメダロットは綺麗に補修されてはいるけど、
ボディのところどころに修理の跡があるのを見て取れた。

「オレはウル。よろしく!いつもジクがお世話になってます」

「ど、どうもご丁寧に・・・」

兄ちゃんのメダロットというより、兄ちゃんの保護者っていう方がしっくりくる。
それでいて雰囲気はジク兄ちゃんそのものだった。

「あー、食った食った」

「はやっ!兄ちゃんもう食べたの?」

よそ見をしている間に残っていたおせちが全部なくなっていた。

「今年もトーゴくんとニシンくんは研究所に行くのね」

「うん。新しいボディを動かすのが難しいんだ」

去年の終わりから始まった動作テストはうまくいっていない。
それについては僕らだけじゃなく博士も頭を抱えていた。

「で、オレたちと気晴らしにロボトルしてみようってコトになったワケか」

「それじゃあ行こう、行こう!」

ジク兄ちゃんのスクーターに乗せてもらって出発。
兄ちゃんと僕、それからウルにニシンまで乗って重量オーバー。
ふたりには脚部を車両パーツに換えてがんばってもらうことになった。


ブロロロロロ

「よーし着いたぞ」

陽が傾き始めたころに研究所に到着。
早速、ロボトルステージのある実験室まで足を運ぶ。

「遅かったわね」

「ごめんなさい。兄ちゃんが道を間違えて・・・」

「わー!ロボトルだろ?早くやろうぜ!」

ミジュウ博士に手伝ってもらってニシンのボディを兵器型に換える。
ステージに上がった兄ちゃんとウルはパーツ変更するそぶりがない。

「ジク兄ちゃんは回避力を上げるパーツは使わないの?」

「わたしも散々言ったんだけれど・・・。
彼は普通のロボトルをしたいって言って聞かないの」

ため息をつきながら博士が言う。
今のニシンの攻撃に当たると大きすぎるダメージを受ける。
ジク兄ちゃんがそれをわかっているのか不安になった。

「兄ちゃん・・・」

「逃げ続けるだけじゃ面白くないだろ?さっ、始めようぜ!」

半ばムリヤリにウルとニシンとのロボトルが始まった。


「ニシン、ロングハンドル!」

バシュン

『左腕パーツ、ダメージ30%』
手回し式のハンドルがついた右腕の銃口から細い光線が発射される。
ウルの左腕に命中するも機能停止まではいかない。

「確かに強いケド、他のメダロットと変わらないんじゃない?」

傷の様子を確かめながらウルは反撃してきた。

ドンドンドン

『脚部パーツ、ダメージ6%』
「装甲はゼンゼン違うな・・・」
ニシンは弾丸を難なく弾き返す。
ジク兄ちゃんがそう呟いた。ニシンは銃口を向ける。

バシュン

『右腕パーツ、ダメージ70%』

「い!?」

今度は大きなダメージ。ウルも兄ちゃんも驚く。

「ニシンの攻撃は時間が経つにつれて強力になっていくみたいなんだ」

際限なく高くなる攻撃性能。
それを扱い切れなくなったときニシンは体を動かすことができなくなってしまう。

「だから兵器型ってワケか」

「次、当たったらやられるよ。ジク」

腕の傷を確かめながらウルがジク兄ちゃんに言った。
博士はその様子を見て呼びかける。

「やめるなら今のうちよ。当たれば深刻なダメージになる」

「ジク兄ちゃん、気持ちは嬉しいけど危ないから・・・」

博士のメダロットじゃないと危ない。そう思った。
でも、兄ちゃんは楽しそうに笑って腕に巻いたメダロッチを構える。

「バカヤローまだやれる!俺もウルも、こんな日を待ってたんだぜ!」

「楽しいロボトルにしよう!」

ドウンッドウンッ

『右腕パーツ、ダメージ3%。脚部パーツ、ダメージ10%』
ウルがライフル攻撃でロボトル続行の意思表示をする。
仕方ない。脚部パーツのひとつでも機能停止させればふたりとも諦めてくれる。
そう判断した僕とニシンは無言で頷き合った。

「ニシン、ショートハンドル!」

「ウル、アサルトライフル3!」

ドドドドッ バシュン

『左腕パーツ、ダメージ4%。脚部パーツ、ダメージ20%』

「くっ・・・」

撃とうとした左腕が弾丸で弾かれる。
左がダメなら・・・。

「右腕パーツで攻撃!」

「こっちもだ!」

ドウンッ バシュン

『右腕パーツ、ダメージ9%』
また、攻撃を放つ直前に狙いをそらされた。
何がなんでもロボトルを続けるつもりらしい。そっちがその気なら!

「接近して撃つんだ!」

走るニシン。ステージの上はそれほど広くないから、すぐに近づける。
走りながら撃てば簡単には妨害されない。

「ウル!右だ!」

「わかってる!」

ドドドドッ ドドドドッ バシュン

『脚部パーツ、ダメージ40%』

「うわっ!」

足を狙われたニシンが左側の足を払われて転ぶ。
その隙を兄ちゃんとウルは見逃さなかった。

「リニアカノン1、撃ち込め!」

「でやあ!」

ドゴムッ!

『脚部パーツ、ダメージ70%』

「おまけ!」

ドウンッドウンッドウンッ

『脚部パーツ、ダメージ80%』

「う・・・トーゴ・・・」

ニシンがこっちを見る。大きく吹き飛ばされてまた距離を取られてしまった。
何だ。何だっていうんだ。僕たちも弱くはないはずなのに。
戦法が全く通じない。こんな相手は初めて。

「博士。燃料積んでますよね?」

「一応、入れてあるけど・・・何をするつもり?」

僕の目にも、ニシンの目にも、博士は映っていない。
目の前にはただ、倒すべき相手がいるだけ。

「ニシン!両足点火!」

「うおおおっ!!」

ボウ ボボボボボボボボ

両足から火が噴射される。長くは保たないけど、ニシンは飛べるんだ!

「照準は無視していいから飛び回って撃ちまくるんだ!」

「当たれー!」

バシュシュ バシュン バシュシュシュシュ

天井スレスレから、光の雨がウルに向かって降り注ぐ。
今や始めの何倍にも威力の高くなった光線がステージを焼き尽くした。
『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

ガシャン

地面に落ちたのはニシンのほうだった。
煙の向こうに見えるメダロットの銃口は正確に狙いをつけている。
僕とニシンは絶望感と恐怖の中で思ったことを言葉にしてぶつけていた。

「まだ、やれる!」

バシュン ドドドドドッ

『右腕パーツ、ダメージ20%。頭部パーツ、ダメージ10%』
必死の反撃も封じられてしまう。
それでも僕らの中には次の手しか思い浮かばなかった。

「頭部パーツ使用!集中して!」

ピピピピピ

高性能なレーダーでニシンの姿を感知する。
意識を集中させて動けなくなるかわりに、確実に狙いをつけるパーツ。
ただし1発でも攻撃すれば緊張が解けてしまう。
足が動かない今となっては、動けないのは問題にならなかった。

「しつこいな、お前ら」

兄ちゃんの憎まれ口も今の僕らには耳に入らない。
無言の僕たちを見た兄ちゃんが笑う。とても楽しそうに。

「くくく・・・ははははは!おい、楽しいなぁ!ウル!」

「こら!笑ってないで指示出せってば!」

ドウンッドウンッ ドドドドドッ

『右腕パーツ、ダメージ70%。頭部パーツ、ダメージ40%』

ドドドドドッ ドドドドッ ドウンッドウンッドウンッ

『頭部パーツ、ダメージ60%。左腕パーツ、ダメージ30%』
嵐のような攻撃がニシンに吹きすさぶ。
豆鉄砲みたいな攻撃でも数を重ねられるとダメージは致命的になる。
ウルはまさに手数で攻めるタイプのメダロット。相性が悪いのかもしれない。
あの連射攻撃を封じることができれば・・・。

「準備できたよ!」

「ニシン!左腕!」

バシュン バシューン

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

「ううっ!」

ニシンの攻撃がとうとうウルを捉えた。
相手は特殊機能をもつパーツがないかわりに全身が武器。
ウルの残り武装は右腕と頭。2回の命中が必要になる。
対してこっちの武器は左右の2つ。1回でも外したら負け。

「頭パーツを!」

再び、レーダーでウルの姿をロックするニシン。

「やらせるな!ウル!」

ドウンッドウンッ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』

「発射!外さないで!」

バシュン

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
残る攻撃パーツはお互い1つずつ。
もう、意地のぶつかり合いのようなもの。
ニシンが頭パーツで狙い、ウルも頭パーツの砲門で狙いをつける。
同時に撃つと思われたときジク兄ちゃんが急に叫んだ。

「ウル!右に避けろっ!」

「ニシン!とどめ!!」

バシュン

『頭部パーツ、ダメージ98%。ティンペットに異常が見られました。
安全のため直ちにメダルを外して下さい』

「あっ・・・」

ニシンの撃った光線はウルの左脇腹を深く貫く。
むき出しのティンペットはえぐれていた。


「ふたりとも何を考えているの!」

「いやぁ、危なかったな。ははは」

ロボトル終了後にミジュウ博士にこっぴどく怒られてしまった。
もちろんジク兄ちゃんやニシン、ウルも。
ウルのメダルは無事でティンペットもパーツも直せば問題ないらしい。
ムチャした罰として修理費は自腹になった。

「ニシン。そのボディのまま動いてて大丈夫?」

「あ、あれ?」

ウルに言われるまで気がつかなかった。新しいボディのまま動いてる。
ニシン自身も気づいていなかったようで混乱している様子だ。

「ロボトルに夢中で気づかなかった・・・」

「そんな、非科学的な・・・」

博士はそのありさまを見てむしろがっかりしたようだった。
ニシンがこの日から新しいボディになじんだのは、言うまでもないこと。

 

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