「そこまで!」

ミジュウ博士の合図に気づくのが遅れる。
僕は汗をぬぐってニシンにロボトルを中止するよう言った。

「う、うあああああああああ!!!」

「ニシン?どうしたの!?」

動きを止めた途端に叫び出すニシン。
ミジュウ博士は驚く僕の手を取り、メダロッチの強制停止ボタンを押させた。

チャリン

メダルがステージの床に転がり落ちる。

「は、博士!ニシンはどうしたんですか!?」

僕は突然の出来事に気が動転した。
博士は長く息をついてから振り返って言う。

「仕様書に書いてあったでしょう。このメダロットは普通のものとは違う。
体に馴染むまでは負担に耐え切れず、戦闘中に倒れてしまうでしょうね」

「そんなに・・・」

動かすのが大変だなんて。
僕はショックを隠ないままその日の起動実験は終わりになった。


「へっくしょ!」

「大丈夫?トーゴ」

終業式から帰ってくるとコタツが出ていた。
ニシンが物置から引っ張り出したらしい。
古い型で、暖かくなるまでかなり時間がかかる。

「お茶飲む?」

湯気がたつコップを運んできてくれるニシン。
コタツが暖まるまでこれでしのぐことにしよう。

「ありがとうニシン・・・あ、熱い!」

冷まし忘れて飲もうとして、舌の先がびりびり熱くなる。
慌ててコップを机に置いて冷えるのを待とうとすると、
ニシンがお盆を持ったまま立ち止まっていた。

「どうしたの?」

「ご、ごめん!」

ニシンが急に庭へと飛び出す。
僕は謎の行動に頭がついていかず呆気にとられた。

「寒いけど・・・行くしかないかな」

僕も庭に出てニシンを追う。
見たところどこにもいない。残るは物置だけ。

ガラガラ

「やっぱり」

「う・・・」

ニシンは物置の隅っこで小さくなっていた。
手を差し伸べてもびくりとするだけ。

「・・・どうしたの?」

僕はもう一度聞いてみる。
ニシンは震えながら少しずつ答えた。

「ボクがまたあの体になったらトーゴを傷つけるかもしれない・・・。
うまく言えないけど、体の動きがセーブできなくなるんだ。
今でさえ、間違えたらトーゴが痛い目をみるのに・・・」

「ニシン・・・」

実験が始まってからずっとひとりで悩んでたのか・・・。
僕は手を差し伸べてニシンの目の前に持ってくる。
いつものボディのニシンは、その手をじっと見つめた。

「この手を握りしめたら、壊れてしまうかもしれない・・・」

「ニシンはずっと、僕の手を恐る恐る握ってたの?」

ニシンは首を横に振る。

「ロボトルのとき、ニシンは僕に流れ弾を当てないように考えて戦ってた?」

ニシンはまた首を横に振る。
僕はニシンの手を掴んで引っ張った。

「ニシンが無茶しても平気な位置くらい僕はわかってるよ。
メダロットは寒くないかもしれないけど、寂しくはなるよね?」

「・・・うん」

頷いたニシンと僕は家の中に戻っていった。


ズバッザシュッ バシュン

「オオオオオオ!!!」

今日も、実験途中でニシンに限界がきた。
KWG型メダロットが押さえ込んでいる間にメダルを強制排出する。

チャリン

「まだダメね。来る頻度を上げてみない?明日にでも」

「それはできません。僕もニシンも、これが精一杯なんです。
それに明日はクリスマスで・・・」

「そういえばそうだったわね。これ、どうぞ」

博士は思い出したように包みをふたつ、僕に手渡す。
ひとつは僕へ。もうひとつはニシンへのプレゼントだと書いてあった。

「ありがとうございます。でも、僕らはプレゼント用意してなくて」

「いいの、気にしないで。大したものじゃないから」

強引に渡されてニシンともども追い出されてしまった。
寒空に放り出された僕は気を失っているニシンが回復するのを待つ。
その間にプレゼントを開けてみることにした。

「あ・・・手袋」

僕の手にぴったり合う紺色の手袋。手にはめると、とても暖かい。
もうひとつの包みは大きくて、包みの上から触ってみるとふわふわしている。
これは、マフラー?ニシンも冷やさない方がいいのかな。

「ありがとう。博士」

研究所を見上げながら呟く。
雪はまだ降らないし、新しいボディもまだうまく動かせないけど。
とても暖かいクリスマスになりそうだと思った。

 

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