「またね、トーゴ」

「うん。これからはいつでも来れるからね。また来るよ」

病院の入り口でクイスターガードと別れる。
前に戦ったときの姿じゃなくて本来の姿。
遊園地のマスコットキャラクターのようなことをしていたらしい。
リンヨウはまだ入院中。一時的に精神的な病気にかかってるって聞いた。
それでも今では病院の外に出るくらい回復したそうだ。
ノストとも会ったらしい。無事に仲直りしたって聞いた。

「もう切符を買うのはこれで最後かな」

修学旅行から帰ったあと父さんに同意書を送ってみた。
返事は、ぜひやってみなさいという簡単な内容。
サインつきで戻ってきた書類を見て、ちょっと拍子が抜けた。
できれば相談したかったんだけど・・・。

ガタンガタン

他に用事もないから電車に揺られて家までまっすぐ帰る。
家の前には何も止まっていない。今日は誰も来てないのかな。
玄関のドアを開けた。そろそろ夕ごはんの時間。


ガチャ

パァン パパパパパ

バタバタッ バタン

「おめでとう!」

「へ?」

家に入った途端にクラッカーの一斉放火を浴びて固まる僕。
慌てたのかジク兄ちゃんとニシンは転んでるし。

パパパパパパパパ

ロペとフサシは残ったクラッカーを連射してくる。
動いてないのはヤギウラさんだけってありさま。

「いってー!アレだよ、ホラ。誕生日だろ?」

「あ・・・忘れてた・・・」

橙色の頭をしたジク兄ちゃんが立ち上がりながら言った。
そういえば、今日は僕の12歳の誕生日だった。
忘れたころに友達に言われて思い出すのは毎年のこと。
案の定忘れていたけど、当日に思い出せたのは初めてかもしれない。

「コレ、プレゼントな。パーツペイントセット!」

兄ちゃんからスプレーと筆、塗料なんかが詰め込まれたバケツを手渡される。
メダロットを好きな色に塗装できる道具らしい。

「わたしからはこれ。遅くなってごめんなさい」

電子回路に組み込むような小さなチップをヤギウラさんは渡す。
何に使うんだろう、これ。

「暴走制御装置の追加分。ティンペットに取り付けて。
まだ試作段階だからこれから改良していくけど。
何も手を打たないのは危険だものね」

事件が起きてから2ヶ月くらい経ったけど、メダロット暴走のニュースはなくならない。
セレクト隊が町中を巡回してくれているものの安心はできてなかった。
この装置がたくさん作れたら暴走事件が解決できるかもしれない。

「ありがとう。ふたりとも」

「どういたしまして。ケーキもあるから皆で食べましょう」

大きなタルトケーキに12本のかぼちゃおばけロウソク。
僕の名前が書いてあるお菓子のネームプレートにはコウモリの翼がついていた。

「誕生日ってこういうもの?」

「ついでにハロウィンパーティもやろうぜ!」

よく見れば兄ちゃんは幽霊っぽい服装をしている。
ヤギウラさんは魔女が被るような帽子を机の上に乗せていて。
ニシンたちはゾンビや吸血鬼の格好だ。

「ロペ、それは?」

「ケルベロスじゃ」

ロペの頭が3つある。同じ頭パーツをくっつけたらしい。
ジク兄ちゃんも芸が細かいな・・・。

「ハロウィンって先月だったような・・・」

「細かいことは気にするな!」

ジク兄ちゃんの考えはいつもよくわからない。
でも、楽しい誕生日になりそう。

「明かりを消すぞー!」

「もう消してるじゃないですか」

ロウソクが灯り、僕は急かされるまま一気に吹き消した。


騒ぎが落ち着いてきて、僕はヤギウラさんに話を切り出した。

「明日、研究所に行くつもりなんだ。父さんから返事が来たから」

「そう・・・。わたしは断ってもいいと思う。
あなたが断っても他の誰かが代わりを務めてくれるはず。
話したのはわたしだけど、危険に見合った報酬ではないの。
断りを入れるのは今からでも遅くない」

「うん・・・。僕もそう思ってた」

ヤギウラさんが心配してくれてるのがわかる。
僕はジク兄ちゃんにも聞いてみることにした。

「兄ちゃん。実は明日・・・」

「おお、話は聞いてる。迷ってるのか?でも、行くんだろ?なら、行け!
ニシンともちゃんと話すんだぞ」

片付けが終わってみんな帰っていく。
寝る前。ニシンには一応、話したんだけど。
もう一度聞いてみようと思った。

「研究所のこと、ニシンはどう思う?
ヤギウラさんは断ってもいいって。ジク兄ちゃんは行ってもいいって言ってた。
僕はニシンを危ない目には遭わせたくないけど・・・」

「ボクは行くつもりでいるよ。何だか、行かないといけない気がするんだ。
トーゴもそうなんじゃない?」

「・・・うん」

この話を聞いてから、ずっと胸騒ぎがしてる。
勘違いかもしれない。でも、それが勘違いかどうかを確かめたい。
まどろみながら、僕はニシンと手を繋いでいた。


「ここかな?」

田舎町といった風情の中に、研究所はひっそりと紛れていた。
取り次いでもらいって中に入る。
室内は広く、地下深くに実験室があるらしい。

コンコン

「どうぞ」

「失礼します」

実験室に入ると誰も座ってないデスクが僕らを出迎えた。
ミジュウ博士はメダロットのパーツを点検している。
博士は手を止めて手招きした。

「早速、始めましょう。ニシンくん。こっちに来て」

「はい」

歩いていくニシン。逆巻きの尻尾を揺らしながら博士のもとへ。

カチャカチャ

パーツが取り外されてティンペットが剥き出しになる。
整備済みのパーツが取り付けられ、ニシンは新たな姿となった。

「これが新しいボディ・・・」

「SRDの新型、スラッシュドッグ。販売されることのない兵器型メダロットよ」

兵器型メダロット。その意味を博士は説明し始める。

「暴走事件のことは知ってるわね?
あのようにメダロットでも人を傷つけてしまう危険性があるの。
兵器型メダロットというのはそういった不慮の事態を想定して、
流通している既存のメダロットよりも遥かにスペックの高い・・・。
いわば、拳銃や刀の代わりに作られた機体なの」

「つまり・・・使い方を間違えれば、ただじゃ済まないってことですか?」

「・・・そういうことね」

クイスターガードが使わされていたあの黒いメダロットのような。
大変な事態を起こしかねない危険なメダロット。そういうことらしい。

「でも、この国でそんなメダロットを作るなんて・・・」

「だから極秘なのよ。通常ではありえない。
今はそれほどの非常事態だということ。では、実験を始めましょう」

大きめのステージの上に登ったのは2本のツノの生えたメダロット。
このシルエットには見覚えがある。

「あっ。もしかしてスタジアムで発表されたメダロット?」

「KWG型の最新機。でも安心して。これはデータ採取のためのロボトル。
お互い、機能停止まで戦うことはないから」

メダロッチを構える博士。博士もメダロッターだったのか。

「ニシン、始めるよ」

「いつでもいける」

王冠を乗せた新しいボディ。
円形のパーツが増えたニシンがKWG型に銃口を向けた。

 

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