ブオオオオオ

高速道路をバスが走る。
窓から見える景色が転々と流れて変わり続けていく。
僕らは奥のほうの席でマグネット式のボードゲームで遊んでいた。

「俺の勝ちー!」

「逆転された・・・」

途中までは勝ってたのに・・・。
盤上を片付けてもう一戦しようと意気込む。
するとバスガイドのお姉さんがマイクを持った。

「間もなく到着となります。皆さん準備をお願いします。
大きな荷物は運んでおきますので、手荷物だけを持って降りて下さい」

リベンジする時間がなくなってしまった。
仕方なく盤を片付けて下車する。
引率の先生の話を聞いてから自由行動。
古い建物が並ぶ町並みを見て回ることになった。


「迷いすぎた・・・」

ホテルに着くなりベッドに向かって倒れ込む。
途中、一緒に行動していた友達とはぐれて大変だった。
時計を見ればもう夕食の時間。疲れた体を引きずって廊下を歩く。
メガネをかけた大人たちが廊下の反対側にいるのが見えた。

「貸し切りじゃなかったんだ・・・」

階段はその集団の向こう側。僕は気にせず横切ることにした。
最後尾を抜けようとしたとき、集団の中にいる女の人と目が合った。
男の人が多いからなのか少し目立つ。
女の人というよりも女の子にも見えた。僕よりは年上のようだけど。

「きみ。もしかしてウロガミトーゴくん?」

「ど、どうして僕の名前を?」

急に知らない人から本名で呼び止められた。
メガネごしに冷静なまなざしで見つめる女の子。
混乱する僕を見て何か気がついたように名前を名乗った。

「わたしはミジュウ。メダロット研究所で働いています。
事前に名刺を渡されなかったかしら?」

修学旅行に行く前の日を思い出す。
ヤギウラさんに渡された名刺にミジュウ博士って書いてあった。

「そういえば。博士っていうから、もっと年上だと・・・」

「それって、子供っぽいってこと?」

むっとするミジュウ博士。気にしてることを言ってしまったらしい。

「ごめんなさい。そういうつもりじゃ」

「いいのよ、事実だもの。今日はちょうど所員旅行でね。
きみと話せそうな機会だったから、このホテルにしてもらったの」

博士は気にしてないようで、夕食後に部屋に来るよう言われた。
何でも外部には漏らしたくない話らしい。


夕食を済ませて博士の部屋を訪れる。
3、4人で寝る僕らの部屋より小さい部屋だ。

「座って。資料に目を通しておいて」

長い机の上に置いてあった紙の束を1枚ずつめくる。
書いてあるのは難しい内容だけどなんとかわかる。
まず、ニシンのテスト運用に関しての謝礼文。
直接お金はもらえないけど、電車のフリーパスが入った封筒が届くらしい。
ノストとリンヨウたちがいる遠い町までも簡単に往復できそうだ。
次に、新しいメダロットのテスト運用に関すること。
一般販売はされないタイプのもので、なんだか物騒な内容。
最後に、同意書と契約書。未成年の僕には書けない。
父さんのハンコが必要だった。

「親はいつもいないので、連絡が取れるまで時間かかると思いますけど・・・」

「それまで待つわ。すぐにサインをもらえるとは考えてないから。
それに・・・わたしはこの研究にあまり乗り気じゃない。
子供のあなたが引き受ける必要はないの。それだけは、覚えておいて」

博士の顔がくもる。研究してる人にも色々な悩みがあるみたいだ。

「父からよい返事が帰ってきたら協力します。
だから博士、そんなに悩まないで下さい。」

僕がそう言うと博士はちょっと驚いたみたいだった。
書類を置いていくよう言って席を立つ。

「聞いていた通りの子ね。ご忠告ありがとう。
きみも、この件に関しては周りの大人の意見を聞くといいわ」

ガチャ

部屋から出て廊下を歩く。
書類は同室の友達に見られないよう帰り際に渡されることになった。

「修学旅行で誰かと知り合うなんて思わなかったな」

僕は旅先の楽しい気分のまま部屋に戻る。
別れ際にもくもっていた博士の顔が、少しだけ気になった。

 

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