キーンコーンカーンコーン

「校長先生の話はなっげーんだよなぁ」

「手短にするって言ってたのに」

始業式を終えて、久しぶりに集まった友達と一緒に下校する。
集団下校は6年生なってから回数が少なくなってた。
それなのに今学期からは週に1、2回は行われるらしい。

「ちびっ子の世話も楽じゃねーや」

同じ方向に帰る同学年の人たちは、1年生や2年生の面倒を見ていた。
僕も今しがた道をそれた子たちを連れ戻して来たところ。

「帰りにロボトルしようと思ってたんだけどなー」

そうぼやくと、友達は驚いたような顔を見せた。

「いっ、いや、それはやめとけよ・・・」

「え?いつも帰りはロボトルしてたじゃない」

お互いロボトルが好きなのに。今日の友達の様子は何か変。
友達はそれを否定するように首を振って道を分かれた。

「担任も言ってたろ?そういうことだから。また今度な」

何のこと・・・?
ちゃんとまじめに話を聞いておけばよかった。
僕は通学路から外れて家の鍵を開けた。


「あ、トーゴくん。お邪魔してるね」

ヤギウラさんだ。こんな時間に来てるのは珍しい。
それどころか家に来るのも久しぶり。

「すぐお昼ごはん、作るから」

「いいよいいよ。もう作ってあるから一緒に食べよ」

ほかほかの中華飯がふたつ、机の上に並んでる。
僕は手を洗ってから食卓についた。

「うーん・・・おかえりトーゴ」

「ただいま。ニシン」

フサシとボードゲームをして遊んでるニシンが僕に気がついた。
ちょっと遅い。

「いただきまーす」

昼ごはんを食べる。おいしい。
食べ終わったあとお茶を飲みながらヤギウラさんと話した。

「久しぶり。研究は落ち着いたの?」

「ええ。ニシンくんのデータ採取も今月いっぱいまでって決定されたから、
トーゴくんたちにも伝えてきたくて」

今月いっぱい。ヤギウラさんとこうしてお昼ごはんを食べるのもこれで最後かな。
少し落ち込んでる僕とは裏腹にヤギウラさんは明るい。

「研究が終わってもフサシと一緒に遊びに来ていいかな?」

「えっ?」

きょとんとする僕にフサシが補足した。

「ジュンカはふたりを気に入ったのです。
それに彼女には、男友達がほとんどいないもので。
もしトーゴとニシンがよろしければですが」

「ボクは歓迎だよ!」

ニシンが喜ぶ。僕だって嬉しい。
ちょっと照れながら改めて挨拶した。

「うん。もちろんだよ。これからもよろしくヤギウラさん」

「こちらこそ。年末年始あたりにはウチにおいでよ。
お母さんのおせち、美味しいけど多いから食べきれなくって」

ヤギウラさんち・・・。
嬉しいけど、少しドキっとした。
女の人の家には行ったことがないから。

「トーゴ。どうしたの?顔が・・・」

「う、ううん。なんでもない」

慌ててテレビをつける。いつものようにニュースが流れていた。
新聞を見ても面白そうな番組は何もやってない。時間が時間だから仕方ないかな。
そうして新聞を眺めてるとある記事に目がいった。

「メダロット誤作動。小学生がケガ。場所は・・・カタン町!?」

この町だ!
僕が住んでる町で、メダロットが暴走した?

「ヤギウラさん、これ・・・」

ピンポーン

「はーい。今出ます」

ニシンが玄関のドアを開ける。
ロペとジク兄ちゃんがぬっと顔を出してきた。
今回は灰色の髪にしたらしい。

「よお。俺の分の昼メシある?」

「兄ちゃんとロペまで。久しぶり!」

今日はよく人が来る。ヤギウラさんが’手を挙げて歓迎した。

「ジクさん、遅かったね。いつものことだけど」

「そうか?ここいらで暴走するメダロットが多くてよ。人手不足だぜ・・・」

ヤギウラさんが呼んだらしい。遅いのはいつものこととして。
気になることがあった。

「この町で暴走メダロットが?」

「そのことについて話しに来たの」

ジク兄ちゃんが床に座り、手招きした。

「ままま、座れよ。
取り調べじゃねーんだから、机の上で話さなくったっていいだろ」

言われるままに僕らも座って話を聞く。
一体どうなってるんだろう?
ヤギウラさんが重々しく口を開いた。

「学校で聞いてると思うけど、先月の終わりごろから
カタン町を含むいくつかの町でメダロット暴走事件が増加傾向にあるの。
原因は不明。妨害電波を使った悪意のある行動かもしれない。
そう当たりをつけてセレクト隊がわたしたち研究者に協力を求めてる段階ね」

う・・・。聞いてなかった。
校長先生ならまだしも担任の先生の話を聞き逃すなんて。
久しぶりの学校ではしゃぎすぎてたかもしれない。
反省しながら話の続きを聞いた。

「それで、メダロットに悪影響を及ぼす電波がまれに発生してるのがわかったの。
今言ったように原因、つまり出所は不明。
高性能の感知装置を使っても誰が起こしているかは想像もつかなくて・・・」

「とにかくだ。ニシンもこのままだと危ないかもしれないから。
近々、追加の暴走制御装置を組み込まなきゃならないってことだ」

そっか。ニシンにはあらかじめ制御装置が組み込まれているらしいけど。
それだけじゃ電波を完全に防げるかどうかわからない・・・。

「うん。お願いします」

「それと、この事件とは別のことなんだけど。
あなたにはわたしの勤めてる研究所と交流のある別の研究所からの要請で、
あるプロジェクトのテスターになってもらいたいという誘いがあります」

ヤギウラさんの口調がこわばる。テスターって何のことだろう。
フサシがヤギウラさんを補うように話を繋いだ。

「危険なプロジェクトです。未成年が引き受ける場合は通常、
保護者の承認が必要なのですが・・・。あなたは特例です。
この人物から近いうちにあなたへ招待状が届くでしょう。覚えておいて下さい」

そう言って名刺を渡される。ずいぶん遠くにある研究所らしい。
何のことかはさっぱりわからないまま、僕は名刺をしまう。

「うん・・・。覚えておくよ」

「話はここまで!ロボトルするために呼んだんだろ?
ロペもはりきってるんだぜ!」

「それはジクじゃろう」

ロペが呆れてる。いつもの光景だった。
僕らは少し安心して、庭に出ようとする。

「待って。今日は最終テスト。フサシとロペのタッグで相手をさせて」

「えええ!?」

2体を相手にするなんて初めての経験だ。
ロペはともかく、フサシが一緒となると・・・。

「3体で動き回るには庭じゃ狭いかも」

ニシンが言う。確かに、激しいロボトルになるのは簡単に想像できる。
もっと広い場所に移動しないと。

「それじゃ、公園に行こう」

「久しぶりにやったろーじゃねぇの!」

「フサシから先に出てね」

気合いの入った兄ちゃんをよそに、フサシがよろめきながら外に出た。


公園には人がひとりもいなかった。
始業式だからみんなも下校が早かったはずなのに。

「気にせず始めよーぜ」

「わたしたちはもう準備できてるよ!」

ジク兄ちゃんもヤギウラさんもやる気満々。
僕らだってこれまでたくさんロボトルしてきたんだ。
今までのロボトルの成果を見せるときが来た!

「僕らだって!始めるよ!」

「負けないぞぉ!」

ヤギウラさんが手を大きく上げる。

「ロボトル、始め!」

手を下ろした途端に3体のメダロットが動き出した。

ピューン

最初に攻撃したのはロペ。外れたビームが公園の地面を焼く。
それを気にすることなく放熱を始めた。

ギュン

フサシが突進してきた。近づかれるとこっちが不利になる。

「ニシン、近づかせないで!」

「足元を狙えばいいんだね」

ババババババ

『脚部パーツ、ダメージ15%』
フサシが方向を急転換。迂回して迫ろうとする。
ニシンは足元を狙い、後ろに下がりながら距離を取り続け撃ち続ける。

ドドドドドド

『脚部パーツ、ダメージ40%』

「やりますね。ロペ、援護をお願いします」

「当たってもわしゃあ知らんぞ」

ピューンピューン

「おわっ!」

『右腕パーツ、ダメージ70%』
フサシに気を取られてニシンにビームが当たってしまう。
慌てて反撃するニシン。

バババババババババ

『脚部パーツ、ダメージ52%。右腕パーツ、ダメージ10%』

「ハッ!」

ガキンガキンバキッ

「左腕パーツ、ダメージ30%。頭部パーツ、ダメージ20%」

フサシに殴られたニシンが突き飛ばされる。
隙を突かれた!僕はさらに後ろに下がるよう、ニシンに指示を出そうとする。
そこで気づく。後ろはもうすぐフェンス。逃げ場がない。

「ぬかるなよ、ロペ!」

ジク兄ちゃんが言う。ロペもフサシの後を追って近づいてきていた。
この近距離ならいくらロペの攻撃でも当たってしまう。

「覚悟はいいですね?」

ギューン

フサシがまっすぐニシンに向かって突撃していく。
その斜め後ろではロペが射撃攻撃を放とうとしている。
状況は最悪。どうすれば・・・。

「そうだ!ニシン、引きつけて防御したら取り付くんだ!」

「う、うん!」

攻撃を受ける指示で動揺しかかるニシン。
だけどそれはすぐに確信に変わることになる。

ガガガッ ガキン

『頭部パーツ、ダメージ50%。右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
右腕がやられた。ウェーブマシンガンが使えなくなる。
ニシンはフサシの頭に向かって跳びかかった。

「今だぁ!」

「うわ!?」

視界が覆われたフサシがもがく。そこにロペのビームが飛んできた。
ピューン ピューン

「お、おいロペ!まだ早い!」

『頭部パーツ、ダメージ88%』
兄ちゃんの叫びも虚しく、フサシの頭パーツにビームが直撃する。
撃ち出される前に降りたニシンがフサシの頭に狙いをつけた。

ドドドドドドド

『頭部パーツ、ダメージ62%。左腕パーツ、ダメージ32%』
『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』
跳弾も構わず打ち続け、機能を停止させた。

チャリン

「ああっ。フサシ・・・」

ヤギウラさんが肩を落とす。残るはロペひとり。
ロペに負けたのは片手で数えるほどしかない。

「ローペー・・・」

「と、年寄りをいたわらんかい!」

あとは一方的なロボトルになった。


チャリン

ロペが機能停止してメダルが飛び出す。
ジク兄ちゃんががっくりと地面に手をついた。

「ま、また負けちまった・・・」

「成長しましたね。ふたりとも・・・」

メダルをセットしてもらったフサシがジクの背をぽんと叩く。
春ごろとは全然違う。僕も自分が強くなってる実感が持てた。
ニシンもロボトル後なのに余裕がある。

「ボクらにかかればこんなもんさぁー」

「あんまり調子に乗らないの」

「えへへ・・・」

僕も思わずニヤけてしまいニシンともどもいさめられた。
ヤギウラさんは走り書きを取ってから僕たちに改めて向き直る。

「これでデータ採取は終わり。ふたりとも、約半年間お疲れさま。
予定より早く切り上げられたのも十分にデータが取れたからです。
今日はお祝いしよっ。夕飯は好きなものを頼んでいいってジクさんが」

「俺か!?」

さりげなく財布番を任された兄ちゃんが驚く。
今度はロペが兄ちゃんの肩をぽんと叩いた。

「ま、わしらどう見てもビリっけつだからの・・・」

「あーあー。わかったよ。祝いの席だ!出し惜しみはしねえ!」

「やったぁ!」

太陽が照りつける。暑さは薄れてきた。もうすぐ、秋が来る。
僕らは新しい予感に胸を高鳴らせていた。

 

戻る

inserted by FC2 system