「俺の負けだ。ティンペットごと持っていけ」

「そんなにいらないよ。
それに、僕たちはノストとロボトルしに来たわけじゃなくって」

メダルを拾い上げて静かになるノスト。
耐えかねて僕は話を続けた。

「リンヨウって人を止めにきたんだ」

「わかってる。ここらの人間にあいつを止められる奴はいない。
俺もそうだ・・・。あいつの右目を見たか?」

「ボクは見た。ガーゼをしてたよ」

ニシンが答える。
あのときは逃げるのに必死で、僕はほとんど覚えてない。
ノストは言葉を詰まらせてややうつむく。
表情は変わらないのにとても辛そうに見えた。

「大丈夫?」

「俺のシュウがリンヨウの目を焼いた。1年前のことだ」

メダロットが人間を攻撃する。
ジク兄ちゃんが言っていた事件が起きた時期とぴったり当てはまった。

「メダロット暴走事件・・・」

「ああ・・・。長い間、この町は戦場のようだった。
メダロットの責任はそのままメダロッターの責任でもある。
リンヨウの片目を奪ったのは、俺が迂闊だったせいだ」

メダルを見つめるノストはその日のことを思い出してるようだった。
録画しておいた映像を流すように、ただ淡々と話す。

「まず遊園地が大惨事になった。客も係員もメダロットが軒並み暴れ出す。
続いてセレクト隊、公共施設を守っていた警備メダロットたちが。
それでも少数のメダロットは何とか正常なままでいた。シュウもそうだった」

全てのメダロットが暴走したわけじゃない。
それも聞き覚えがあったような。

「制御装置が組み込まれたメダロットは無事だったって・・・」

「そうだ。事前に、恐らく研究機関の人間が暴走制御装置を配ったらしい。
だが当時の制御装置の効果は一時的なものだった。
長期間に渡る暴走を抑えるのを想定された作りじゃなかった」

声が暗くなる。話したくないことなのかもしれない。
それなのに僕とニシンは真剣に話すノストを止めることはできなかった。

「俺と制御装置を持った何人かはすぐに遊園地のメダロットを鎮圧した。
リンヨウのクイスターガードも暴走していて、俺とシュウは抑えようとした。
結果はあの通りだ。効果が切れたときに目の前にいるのがリンヨウだったから。
右目を失ってからのあいつは毎日、暴走メダロットと戦うようになった」

それであのメダロットはニシンをあんなに恐がってたのか・・・。
口をつぐむノストを置いて僕たちは立ち上がる。

「話してくれてありがとう。おかげで心が決まったよ」

お礼を言って歩き出したとき、ノストが僕たちを呼び止めた。

「あのメダロットのパーツは市販品じゃない。兵器として作られた。
こんなこと、会ったばかりのお前たちに頼むつもりはなかったが・・・。
リンヨウを止めてくれないか。俺は、行けない・・・」

ノストは僕たちとは違う恐さを感じているのがわかる。
だからこそ、僕らは行かなきゃならないと思った。

「ボクらはリンヨウを止める。だから、キミがリンヨウを助けてほしい」

「僕たちは話せるようにしてくるだけだよ」

ニシンと僕はそう言ってまた歩き始めた。


大急ぎでニシンを修理してもらって三たび遊園地へ。
園内に入ってウロついていると係員らしき人がぎょっとしてこっちを見た。

「メ、メダロット!」

「リンヨウはどこですか?僕たちはリンヨウたちを止めに来たんです!」

事情を話すと係員のお兄さんは観念したように道を教えてくれた。

「俺たちにはメダロットがいない。彼をどう止めればいいのか・・・。
君たちが止められるとは思えないが・・・」

メリーゴーランドのほうにリンヨウはいるらしい。
僕とニシンはお礼を言って先を急ぐ。


メリーゴーランドからは乗り物が外されていた。
あるのは傘に似た形をした穴だらけの柱だけ。

「パーツ転送!」

ジジジジジ

ニシンの頭と右腕パーツを変更する。
その音に気づいたのか、リンヨウがひょっこり現れた。

「メダロット転送」

ジジジジジジ

黒い羊のようなメダロット、クイスターガードが転送される。
また戦いに怯えてるようだった。

「やめて・・・」

人間だったら涙を流しそうなくらいに追い込まれてるのがわかる。
僕はメダロッチを構え、ニシンは右腕パーツを構えた。
恐ろしさは今も消えない。
でも僕らの体は、もっと大きな何かに突き動かされていた。

「ロボトル開始だ!」

バシュッ

『右腕パーツ、ダメージ10%。命中率低下』
ニシンのよる攻撃をクイスターガードが防ぐ。
使い慣れてない格闘パーツだけどぜいたくは言っていられない。

「撃ちながら下がって!」

ドドドドド

『右腕パーツ、ダメージ40%。左腕パーツ、ダメージ20%』

ブンブンッ

攻撃を気にせず猛進してくるクイスターガード。
大きな腕から繰り出される格闘攻撃は空振り。

「距離を取って!」

ガッ バシュッ

『脚部パーツ、ダメージ2%。左腕パーツ、ダメージ35%。命中力低下』
クイスターガードを足払いをしてから突き飛ばす。
ニシンはさらに距離を取った。

「ストレートマシンガン発射!」

ドドドドドド

『左腕パーツ、ダメージ70%。脚部パーツ、ダメージ16%』
前より攻撃に手ごたえがある!
ニシンもそれを感じ取ってるらしく、動きがしっかりしてる。

「トーゴ!このまま畳みかけよう!」

「うん!また右腕パーツを!」

念を入れるために格闘パーツで命中力をさらに下げにかかる。
これが当たればあとは蜂の巣だ!

ガシュッ

『頭部パーツ、ダメージ20%。命中率低下』
『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
間一髪、カウンターを見切ったニシンが合間をぬって攻撃した。
クイスターガードの攻撃はギリギリで回避しただけじゃ当たる。
機能停止した右腕をぶらりと垂らしながらニシンは後ろに下がった。

「やっぱりキツい攻撃だよ、コレ・・・」

「撃ちまくって追撃される前に機能停止させるしかない!」

ドドドドドド

『脚部パーツ、ダメージ50%。右腕パーツ、ダメージ42%』
攻撃力だけじゃなく防御力も高い。しかも素早い。
こっちは1発当てられれば致命傷なのに。

ブンッ

「ニシン、アレを!」

「頭パーツ作動!」

ボフッ

クイスターガードの攻撃を換装した頭パーツで弾き返す。
ダメージは与えられないけど、攻撃を防ぐパーツに前もって変更してある。
使えるのはあと1回。できるならもっと温存しておきたかったけど・・・。

「とにかく撃って!」

「やああ!」

ドドドドドドドドドド

『頭部パーツ、ダメージ60%。右腕パーツ、ダメージ51%』

ブンッ ボフッ

ドドドドドドドドドドド

『右腕パーツ、ダメージ70%。左腕パーツ、ダメージ99%』

「あれ・・・?」

リンヨウのメダロッチはパーツのダメージ限界値を知らせている。
それなのにクイスターガードの動きは全く変わらない。

「も、もう一度!」

ドドドドドドドドド

『右腕パーツ、ダメージ99%。脚部パーツ、ダメージ65%』

「ギ・・・ギギィ・・・」

ブンッブンッ

クイスターガードはノイズを発しながらも攻撃の手を緩めない。
ずっと静かだったリンヨウが口を開いた。

「戦え。クイスターガード」

「ガガガ・・・ザザッ・・・」

バキィッ

『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止。
頭部パーツ、ダメージ98%。活動限界です』

「うわぁー!」

ザザーッ

ニシンがとうとう攻撃をモロに受けて大きく吹き飛ばされる。
クイスターガードは動けないニシンに向かってゆっくり近寄っていく。

「う、うわー!来ないで!来るなぁ!」

ドドドドドドドドドド

『頭部パーツ、ダメージ99%。脚部パーツ、ダメージ99%』

「ガ・・・ギィ・・・」

どれだけの弾丸を全身に受けてもクイスターガードの勢いは止まらない。
まるでゾンビか幽霊のように・・・。

「リンヨウ!クイスターガードを止めて!」

「戦え、クイスターガード」

「リンヨウ!!」

「倒れることは許されない。皆を守れ」

ダメだ。リンヨウもクイスターガードも言うことを聞かない。
またやられる。あの光景が頭の中に蘇った。
汗がにじむ。うまく呼吸ができない。
そして、クイスターガードが飛びかかってきた。

「ガガ・・・ガァー!!」

「トーゴー!!」

ニシンが叫ぶ。僕は、はっと我に返った。

「ボディに!」

ドドドドドドドドドド

『頭部パーツ、ダメージ、99%・・・・・・・』

チャリン

クイスターガードの背中からメダルが強制排除される。

ガシャン

「あ・・・」

動かないクイスターガードを見たリンヨウもまた、同じように倒れてしまった。

「や・・・やった・・・」

僕とニシンは、その場にへたれこんだ。


カチャ

「う・・・うぅ・・・」

クイスターガードがニシンの体で目を覚ます。
こっちもボロボロだけど、クイスターガードの体よりはいくらか動く。

「気がついた?」

「ボクは・・・?」

呆然と首だけを動かすクイスターガード。
倒れたリンヨウを見るやいなや歩けない体で這い寄ろうとする。

「リンヨウ!リンヨウ!しっかりして!」

「お、落ち着いて!さっき係員の人呼んだから!」

メダロッチからニシンがなだめる。
クイスターガードは気が落ち着いたのか、声の大きさを落とした。

「キミたちが止めてくれたの?ありがとう・・・」

「リンヨウの目が覚めたら、ノストに会わせてあげてよ」

クイスターガードにニシンがお願いをする。
僕たちがやるべきことはとりあえず終わった。

「兄ちゃんは僕にしかできないって言ったけど・・・。
僕たちよりノストが先に話すべきだよ。色んなことをね」

ノストたちだけで話し合わないといけないことがある。
僕たちが話すのはそれからでも遅くない。

「うん、わかった・・・。体を貸してくれてありがとう。
ボクもメダロッチの中で少し休みたいな。
本当にありがとう。ふたりとも・・・」

クイスターガードのメダルを外してリンヨウのメダロッチにセットする。
血の気がないのは、ずっと無理をして戦ってたからかもしれない。

「おやすみ。リンヨウ」

僕らはリンヨウを見つかりやすい位置に移動させてから、その場を後にした。

 

戻る

inserted by FC2 system