1週間後・・・。
僕とニシンはちょっと離れた町の夏祭りに足を運んだ。
学校の友達に誘われてたから。
綿菓子を買って、焼きそばも水あめも買って。
花火を眺めながら夕ごはんがわりに食べたり飲んだり。
射的は狙うのが難しくて、何も景品が取れないまま終わっちゃった。

ヒュー パーン

「もう花火やってる!」

色も形も、数も違う大きな花火。
人ごみにまぎれながら僕たちは空を見上げた。

ヒュー パーン

ヒュー パパパパパパ


お祭りが終わり僕たちは会話もなく夜道を歩く。

「楽しかったね。ニシン」

「うん。でもジクに乗せてってもらえば交通費が浮いたのに」

ぽつりぽつり、呟くように話し始める。

「ああ見えても兄ちゃんは忙しいんだよ」

「フサシたちも大事な研究の手伝いとかでずっと来てないし」

「大人は夏の予定がいっぱいあるみたい」

会話が止まった。ときどき通りすぎる人たちの話し声と、
街灯が点滅する音。昆虫たちの鳴き声がよく聞こえた。

「明日、また行こう」

「うん」

それだけ言ってまっすぐ家に帰った。


駅を出て、遊園地の入り口前までやってきた。
あと一歩で園内に入れる。
あと一歩。

「入れない・・・」

足が震える。動かそうとすればするほど震えが大きくなる。
脂汗が地面に落ちた。

「トーゴ・・・」

「ごめん。僕にはやっぱり・・・」

悔しさで涙がにじむ。ここまで来て入れないなんて。
そんな僕の気持ちを汲むようにニシンは背中を軽く叩いてくれた。

「散歩してみよう。せっかく遠くまで来たんだからさ」

無言のまま僕らは遊園地から離れる。
あてもなく道を歩いてみても、殺風景な景色はほとんど変わらない。

ガー

「いらっしゃいませー」

コンビニに入って涼む。喉がカラカラで、ペットボトルのお茶を手に取った。
会計を済ませて外に出て日陰を探す。
裏道をいくらか進んだところで腰を降ろした。

「暑い・・・」

太陽の光がなくっても十分すぎるほどに暑い。
お茶がぬるくなる前に半分くらい飲んで持ってきたカバンにしまう。
これからどうしよう。帰っちゃおうかな・・・。

ガシャン

そんな風に考えてると小さな物音がした。

「何だろ?」

音のするほうに歩いていく。
角を曲がろうとして、できなかった。
目の前にメダロットが転がっていたから。

「ま、負けた・・・」

男の人がそのメダロットに近づいてがっくり肩を落とす。
影が男の人を覆い隠した。

「約束通りメダル以外は全てもらう」

今度は男の子の声。聞き覚えがないのに背筋が寒くなる。
その声はリンヨウという名前の男の子と似た年ごろに聞こえた。

カチャ

メダルを外した男の人は何も言わないままどこかに行ってしまう。
男の子もまた歩き出した。

ザッ

僕らは踏み出す。男の子が背中を見せたまま止まった。
この背中、どこかで見たような・・・。

「あっ!もしかして、スタジアムにいた人?」

暗がりで顔はわからなかったけど体格はあのときの人に近い。
あのときはメダルが落ちるような音がしたのを思い出す。

「ロボトルしてたの?どうしてこんな暗いところで・・・」

「お前、そのメダロットはどこで買った?」

振り返った男の子にニシンが指差される。
まだ発表してないメダロットだってヤギウラさんは言ってたっけ。

「ニシンはもうすぐ発売するメダロットだって聞いてるけど・・・」

「ロボトルしろ。お前が負けたらそのメダロットをもらう」

「えっ!?ちょっと待って!」

「メダロット転送!」

ジジジジジジ

額に星形のマークがある大きなメダロットが転送される。
この町に来る度にトラブルに巻き込まれることに、
行き場のない怒りがこみ上げてきた。

「リンヨウといい、この町はどうかしてる!僕たちが何したっていうんだ!」

男の子が持ち上げかかった腕を止める。
やりきれない思いが伝わったのかもしれない。

「俺はノスト。こいつはシュウ。お前たちは?」

話し合う気になってくれたらしい。僕たちは望みにかけて名乗った。

「ウロガミトーゴだよ」

「ボクはニシン」

「トーゴ、ニシン。俺は始めたロボトルは最後までやると決めてる。
悪いが続けさせてもらう。話はその後だ」

話が通じてるようで通じてないような感覚に陥ってしまう。
わかるのは、ロボトルするのだけは避けられそうにないってこと。

「もうやけだ!やるよ、ニシン!」

「ト、トーゴ。落ち着いて・・・」

ニシンになだめられながらロボトルが始まった。


「ウェーブマシンガンを撃って!」

「それっ!」

バババババババババ

『右腕パーツ、ダメージ13%。脚部パーツ、ダメージ6%』
牽制で弾丸をバラまく。シュウはほとんど動かずに攻撃を受け止めた。

「シュウ、左右反撃」

「はい。マスター」

ピーッ ピーッ

黄色く光る2本の光線が宙を走り抜ける。
1初目はなんとか狙いから外れることができたけど、2発目は違った。
『脚部パーツ、ダメージ70%』

「ニシン!」

直撃したニシンが転んで、僕は思わず声を出す。

「平気、平気。いつもはもっと痛いのをもらってる」

ジク兄ちゃんのロペを思い出す。
レーザー攻撃は確かに威力が高い。でも、それはロペのビームも同じ。
戦い方は体がわかってる。

「ニシン、この隙にストレートマシンガン連射!」

ドドドドドドド

『脚部パーツ、ダメージ45%。頭部パーツ、ダメージ30%』
レーザーやビーム系は威力が高いかわりに、命中率が低くて装填時間が長い。
それに見たところ、あのメダロットは足が遅いタイプ。
すばやく走り回りながら戦えば簡単にはやられない!

「次はウェーブ!」

バババババババババ

『左腕パーツ、ダメージ10%。頭部パーツ、ダメージ40%』
動き回りながら撃ってるせいで当たりにくい。
あとちょっと接近すれば・・・。

「もうちょっと近づいて、ニシン」

「近づけばいいんだね?」

メダロッチでニシンにこっそり指示を出す。
その途端に、ノストが指示を出した。

「シュウ、バッテリーオン」

バチチッ

パーツ全てのエネルギーが増えるのがわかる。
シュウは急接近して、その勢いでニシンを突き飛ばした。
『脚部パーツ、ダメージ94%。歩行機能に障害が発生しました。』

「しまった!」

飛ばされるニシン。攻め手はなおも緩まない。

「レーザー照射」

ピィー ピィーッ

『頭部パーツ、ダメージ86%。左腕パーツ、ダメージ97%。発射口損傷』

ガシャン

「う・・・く・・・」

完全に逆転された。ニシンはもう動けない。

「ス・・・ストレートマシンガン!」

ドドドドドドドド

『左腕パーツ、ダメージ20%』
次はあっちが動き回って弾を避けてる。
絶望的だ。もう打つ手がない。

「負ける・・・」

反射的に口にする。ニシンが、メダロッチを介さずに声を出した。

「トーゴ!相手から目を離さないで!ボクはまだ戦える!」

振り返らないままそう叫ぶ。
メダロッターの僕が諦めちゃ、ニシンが思い切り戦えなくなる。
ここで諦めちゃいけない!

「サークルアイを使って!」

ピッピッピッ

頭にある大きな両目。そこに内蔵されたレーダーが作動する。
動きが速くなったなら目を鋭くして見切ればいい。

「ウェーブマシンガン!」

バババババババババ

『頭部パーツ、ダメージ70%。右腕パーツ、ダメージ60%。
左腕パーツ、ダメージ30%。脚部パーツ、ダメージ51%』
発射口が傷ついた左腕は使えない。
つまり今ニシンが使える攻撃パーツは右腕のウェーブマシンガンのみ。
足を動かせないのがかえって弾丸の命中率を上げる結果になってる。

「冷却急いで!」

「させるな!」

ギュイン ガッ
『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
突き飛ばしにかかったシュウの左腕にニシンがまとわりつく。
これだけ近づけば集中攻撃を浴びせられる!

「何をしてる。右腕のレーザーを・・・」

振りほどこうともがいてたシュウが止まってニシンに銃口を向ける。
頭パーツがレーザーの光に照らされた。

「ま、待て!シュウ!」

ピーッ

間一髪、ニシンがレーザーの向きを地面に変えさせた。
最後のチャンスが来た。これを逃す手はない!

「発射数を最小設定に!」

ババババ

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止』
『頭部パーツ、ダメージ90%。右腕パーツ、ダメージ11%、17%、24%』
間近の銃撃を右腕で防ぐシュウ。跳弾がニシンを襲う。
でも、左腕はニシンが抑えてて使えない。頭パーツは攻撃機能がない。
装填が終わった。今度こそ最後。

「ニシン!」

「とどめ!」

ババババババババババババ

『頭部パーツ、ダメージ99%。機能停止』

チャリン

動かなくなったシュウの腕からニシンが転がり落ちた。

 

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