電車をいくつも乗り継いで遠いところまでやってきた。
ニシンは電車に乗るのが初めてで、落ち着かないみたい。

「降りる駅、間違えたかな・・・」

改札口を出ても誰も人がいない。
お店は少なくないのに休業中ばかりでどこも開いてない。
僕たちはとりあえず、地図の通りに進んでみることにした。


そこは寂れた町だった。
大きな建物は軒並み壊れて、住宅街にもヒビ割れ、焦げ跡が目立つ。
道行く人は僕らを見ると目線をそらして見なかったふりをする。
消防署やセレクト署なんかは人が多くて活気がある。
でも歩いてる人とは正反対に殺気立ってるような感じ。
道を尋ねられる状態じゃなく、僕らは自力で探し続けることにした。

「あった。トーゴ、きっとここだよ」

ニシンに言われて地図と場所を照らし合わせてみる。
ここ以外にそれらしい場所がなかった。
なかなか見つけられなかったのは、きっと場所に見合わない雰囲気だったから。

「閉園してるのかな。この遊園地」

ジェットコースターのレールがところどころ壊れてる。
観覧車は止まっていて、乗り込める丸い座席はどこにもない。
門が少しだけ開いてるのは関係者の人たちが出入りしてるから?

「とにかく入ってみようよ」

「怒られないといいけど・・・」

門をくぐって入園チケットの販売所らしい場所を見てみる。
やっぱり人はいない。待っても誰も来ないみたい。中に入ってみよう。

「あっちに人がいるよ!」

アトラクションの前に誰かが立ってる。
話かけようとして近づく前に、その人はどこかに行っちゃった。

「今の人、どっちに行ったっけ」

追いかけようと分かれ道を確認する。
そのとき、急に寒気がした。

「誰?」

低い声がした。僕より少し低いくらいの、大人になりきれてない声。
振り向くと、目に黒いクマがある男の子がこっちを見てる。
僕はなんとか声を出した。

「人に言われてここに来たんだけど、きみは・・・」

「メダロット・・・」

男の子の視線がニシンに向けられる。
目が大きく見開かれて、それからじっとニシンを見続けた。

「メダロット転送」

ジジジジジ

黒くて顔がヤギみたいなメダロットが転送される。
頭にはツノが生えているのに肩には飾りが何もない。
大きな手足と短い尻尾。バランスが取れてないような、そんな印象。
そのメダロットは現れるなり自分の頭を抱えるようにしてちぢこまっていた。

「やめてよリンヨウ!もう、戦いたくない・・・」

「戦え。クイスターガード」

「嫌だよ!」

「メダロットがいる。皆を守れ」

様子がおかしい。ロボトルしたいっていうのとは何かが違う。
ニシンもそれに気づいて黒いメダロットに近づいた。

「ボクたちはロボトルしに来たわけじゃなくて、話をしに・・・」

「あ、あああ、アアアアアアアアアアアアア!!!!」

ブンッ

いきなり黒いメダロットが攻撃してくる。
当たらなかったのに恐くなる。腕を振ったのが見えなかった。
もし当たったら・・・。

グシャッ

「うわあああ!」

『右腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。
機能障害が発生しました。修復不可能です』

「ニシン!?」

右腕が動かなくなった。何が起きたのかわからないまま、追撃がくる。

ガシャン

『左腕パーツ、ダメージ99%。機能停止。修復不可能』
『脚部パーツ、ダメージ99%。機能停止。修復が行えません』
今度は真正面からもらった。ニシンが、危ない。

ズザザザザ

「つかまって!ニシン!」

ニシンの片腕をかついで引きずる。
重い。追われにくくなるよう、入り組んだ道に曲がる。
気配がなくなるまで夢中で逃げた。
逃げて、逃げ続けて、気がついたころには遊園地から遠く離れた場所。
誰もいない空き地にニシンと一緒に横向きに倒れてた。


ピンポーン

ピーンポーン

ピンポンピンポンピンポン

ガチャ

「ジク兄ちゃん・・・」

「ほい。直ったってよ」

修理されたニシンを連れて兄ちゃんが家の中に入る。
慎重な検査を受けてたらしく、終わるまで何日もかかった。
僕はといえば、それまでこもりきりで宿題をこなしてた。

「ただいま」

「おかえりニシン」

傷ひとつないニシンの顔を見ると安心できる。
ここ何日かの落ち着かなさが嘘みたいだった。

「リンヨウに会ったんだな」

兄ちゃんが言う。
僕とニシンの肩がびくっと震えた。
兄ちゃんは僕たちをイスに座らせてから話す。

「遊園地の奴らに聞いた話だと、去年からずっとあの調子なんだと。
メダロットが暴れ回った事件は知ってるよな?」

僕は頷く。ニシンは首を横に振った。
ニシンが来る前の話だからってだけじゃない。
その話をしたがる人がいないから知らなかったんだと僕は思った。

「1年前の話だ。かなりの数のメダロットが一斉にイカレた。
トーゴも話くらいは聞いてるだろ」

学校の友達から聞いた話。テレビで流れたニュース。新聞に書かれてたこと。
どれもちぐはぐで、好き勝手で、何が本当かわからない。
ただはっきりしてるのは、メダロットが人間に危害を加えたこと。
それだけはどの情報にも含まれてたのを覚えてる。

「たくさんの人間が傷ついて、手遅れになっちまった奴もいた・・・。
メダロットが手当たり次第にブッ壊していったんだ。
建物も、生き物も、道路も、電柱も。乗り物も。全部な」

周りの人たちもそんなことは言ってなかった。
僕も、そんな光景は見たことがない。

「いくつかの町には緊急で急ごしらえの制御装置が配られたんだ。
それを取り付けたメダロットは暴走しない。
でもな、リンヨウのいる町はソレが届くのが間に合わなかった」

それであんなにどこもかしこもところどころ壊れてたんだ。
少しずつ町の様子を思い出す。道も、家も、どこかが必ず壊れてた。

「それからずっと暴れ続けてるメダロットもまだいる。
事件をマネて暴走装置をバラまく奴らも・・・。
リンヨウはそういう奴らと戦ってきたんだろ。
今はあの町も安全になったもんだ」

「じゃ、じゃあどうして僕たちに行かせたの?
強すぎるメダロットがいたんだ。僕じゃなくて、兄ちゃんなら。
それがだめならヤギウラさんなら。フサシなら負けなかったかもしれないのに」

僕は泣きそうになりながら話す。
あんなにメダロットを恐いと思ったのは初めてだった。
大人に任せればちゃんと話ができたかもしれない。

「俺たちじゃダメなんだ。お前が行く前に何回も行ったんだよ。
あいつ、リンヨウな。うずくまって動かねーんだ。
どれだけ話しかけても・・・。歩いてる子供がいるときだけは顔を上げた。
だから、もしかしたらってな」

話はわかる。言いたいことはわかる。
それでも、体が怖がって震える。僕が行ったところで、同じだった。
もうニシンを危ない目に遭わせたくない。
次はメダルごとやられるかもしれない。もしそうなったら・・・。

「トーゴ。また行こう。あの遊園地に」

「ニシン・・・」

ずっと静かだったニシンがしゃべった。
ゆっくり、でも確かに言葉を続ける。

「ボクだって恐いよ。またトーゴを恐がらせるかもしれない。
でもさ、ボクたちってけっこう強くなったと思うよ。
ボクたちにしかできないなら、もしボクたちが諦めたら。
あの子はずっとあのままなの?トーゴは本当にそれでいい?」

「・・・・・」

ニシンが言ったことは、僕の思ってることでもある。
それでも恐かった。恐くて、恐くて、思い出すだけで汗が出てくる。
ジク兄ちゃんは席を立って玄関のドアに手をかけた。

「俺たちが無理やり捕まえて話し続けるって手もある。
あんましやりたくねーけど、お前らだけでガンバるコトじゃねーんだ。
覚えといてくれ。また来るぜ」

ブロロロロ

兄ちゃんはスクーターに乗って行ってしまった。
その日は眠れなくて、深夜までずっとニシンと話し続けた。

 

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