ザッザッザッ

険しい山道を乗り越えて頂上に辿り着いた。
小さな町並み。青い空。白い雲。
今日は遠足。クラスのみんなと一緒に山登り。

「おにぎりがおいしい!」

具なしの塩おにぎり、ツナ、昆布。どれもこれもおいしい。
水筒に入ったお茶を飲んで一息つく。
ニシンにも見せてあげたかったなぁ・・・。


「ただいまー」

「トーゴおかえり。ジクが手紙と荷物を置いていったよ」

手紙には色んな会社のお知らせや勧誘。
それと父さんからの手紙があった。

「今年もやっぱり帰れないみたい」

仕事が忙しくて帰れないから、誕生日プレゼントを同封するって書いてある。
またよくわからない置物が増えちゃった。
手紙を分けていくと最後に見慣れない手紙があった。
宛先は、メダロット研究所?
必要な内容だけ抜き出すとこう。
『ジクさんの報告ではデータ不足ですので、研究員をそちらに派遣します。
もしよろしければ長期間でのデータ採取にご協力下さい』
研究員の人が来るらしい。

「そういえば、ジクが知り合いの研究員が来ると思うって言ってた」

「ジク兄ちゃんの知り合い・・・」

変な人かな?
来る日にちは、5日後。いつも通り学校がある日。
その日は授業参観だけど、父さんは帰れない。

「ニシン、お客さんが来たら待っててもらって」

「はぁーい」

それまでにニシンのボディを点検しておかなくっちゃ。


「では授業を終わります。
来て下さった保護者の方々、ありがとうございました」

最後の授業が授業参観だったから、そのまま下校になる。
みんな、母さんか父さんと一緒に帰っていった。
誰もいない教室を後にして僕もランドセルを背負う。


玄関のドアを開けると知らない靴。
手紙の人が来てるんだと、少し考えてから気がついた。

「ただいま」

「おかえりー」

「お邪魔しています」

女の人だ。靴でわかってはいたけど。
何か小さな箱を机の上に置いて座ってる。
僕はじっと見つめられてランドセルを降ろすのも忘れて突っ立っていた。

「ええっと、あの、こんばんわ」

「ごめんなさい、ジクさんには『男のメダロッターだ!』
と伺っていたもので大人の方かと・・・。おひとりでお住まい?」

「はい。父さんは仕事で忙しいから、僕とニシンだけです」

僕が子供だと伝わってなかったみたいだ。ジク兄ちゃんらしいや。
ランドセルを置いて僕もイスに座った。

「申し遅れました。わたしは研究員のヤギウラです。
研究所の方からスリマードッグのデータ採取に来ました。
もしよろしければ半年ほどの長期間でのサンプリングにご協力をお願いしたく」

難しい言葉が耳を突き抜けていく。
また僕は体の動きが止まってしまった。

「う、ごめんなさい。力入っちゃって・・・。
定期的にニシンくんのデータを取らせてほしいの。もしトーゴくんがよければ。
あ、これはカップの粗品。もしよかったらどうぞ」

くだけた言い方だとわかりやすくなった。
箱からメダロット研究所のマークつきのマグカップが見える。
うちは少ないからとてもありがたい。
もともと研究所にもらったメダロットだし、それくらいは協力しないと。

「ニシンはどう?」

「いいよ!」

ニシンが大きな目がついた頭で頷いた。
その下にあるモニターでも笑顔マークが映し出されてる。

「ありがとう!時間はいつごろなら空いてる?」

「夕方まで学校だから、夜なら。
夕ごはんのときはジク兄ちゃんが来るかもしれないけど」

「通いになりそうね。ところで、わたしも夕飯ご一緒していいかな?
研究所までは遠いから、帰る頃にはペコペコなの」

思ってたより普通の人でびっくり。
食卓が賑やかになるのは嬉しい。僕もニシンもまた頷いた。

「重ね重ねありがとう。今日は、データを取っても?
なるべくロボトルでの戦闘データを取れたらいいかな」

「うん、いいよ。庭でロボトルしよう」

ロボトルにも少しずつ馴れてきて、新しい相手がほしかった。
ちょうどいい腕試しになりそう!


「メダロット転送!」

ジジジジジ

騎士型のメダロットが出現する。
両手に盾を持って防御力が高そうだけど、たった1体だけ。

「攻撃パーツがないメダロットでロボトルするの?」

ロボトルのルールブックには
『対戦相手にダメージを与えられるパーツを、
最低ひとつは装着しておくのが望ましい』って書いてあったはず。

「今回のロボトルはデータ採取が目的だから攻撃パーツは必要ないの。
それでも油断すると負かしちゃうかも・・・」

ヤギウラさんが不安げに言った。
攻撃パーツがないメダロットとはロボトルしたことがない。
ちゃんと戦えるのかな?

「ジュンカはロボトルが何たるかまるでわかってないもので。
これも久しぶりの対戦なんですよ」

騎士型のメダロット、フサシがそう言うとヤギウラさんは申し訳なさそうにする。
下の名前がジュンカっていうのかな。

「ゴメンってば。あなたは直接的に言いすぎだよ、もう」

「それよりも早く始めましょう。さあ、どこからでもどうぞ」

はっきり言いたいことを言い合うフサシとヤギウラさん。
それでいて仲は良さそうに見えて、僕の緊張はなくなってしまった。

「遠慮なく攻撃しよう、ニシン!」

「ロボトルの始まり!」

ドドドドドドド

ニシンがヒザをついて右腕のストレートマシンガンを連射する。
弾の狙いがブレにくい集中攻撃。当たれば大きなダメージが叩き出せる。
何回かのロボトルで僕らはそう学んだんだ。

ギュン

フサシがニシンを中心に円を描くようにぐるぐる回る。
流れ弾がこっちに飛んできたから僕とヤギウラさんは身を隠した。

「1発も当たってない?」

連続で弾を発射するニシンの攻撃は全部、回避されている。
このままじゃらちが明かない。

「ニシン、ウェーブマシンガンを使って!」

「りょうかいい!」

ガチャン ババババババババ

左腕のウェーブマシンガンは弾がバラける。
そのかわりに素早く動く敵に当たりやすい攻撃。これなら当たる!
『左腕パーツ、ダメージ10%』

「はあっ!」

ガガガッガガッバキキッ

『頭部パーツ、ダメージ5%、12%、39%、51%』
フサシが弾丸の雨の中を突っ込んできた!
足を止めて狙ってたニシンは盾でぼこぼこに殴られ放題。
防御パーツで攻撃するなんて思わなかった。

「か、構えをといて!いったん離れるんだ!」

「逃がしません!」

ドゴッ

『頭部パーツ、ダメージ87%』
逃げようとしたニシンが車両型の脚部で蹴飛ばされる。
地面に這いつくばるニシン。
上半身を起こしたときにはもう、フサシが目の前にいた。

「あ・・・」

「続けますか?」

ニシンの後ろは壁。もう逃げ場所がない。
手首に巻いたメダロッチのコマンドから『降参コール』を選ぶ。

ビー ビー ビー

「まいりましたぁ」

へたり込んだニシンのモニターに『降参』の文字が表示される。
攻撃パーツがひとつもないメダロットに負けた。
しかもまともに攻撃したのは1回だけ。完敗だった。

「フサシ!真剣ロボトルじゃないって言ったでしょ!」

「いい攻撃でしたので、つい・・・」

ヤギウラさんがフサシを叱りつけてるのが歪んで見えた。
そうか、僕、悔しくて泣いてるんだ。

「泣かないでトーゴ。ボクたちもっと強くなれるよ。きっと」

ニシンがそっと手を差し伸べてくれた。
僕は手を掴んで立ち上がってからニシンに抱きつく。
フサシが申し訳なさそうに謝るまで、そのままずっと。

 

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