テレビ、冷蔵庫、タンス、机、イス、ソファ、ベッド。
目を開けるといつもの家具が置いてある。
この家に住んでから何年目だったっけ。

ジリリリリリリリリ カチ

「ううん・・・」

目覚まし時計を止めた手が重い。
手だけじゃなくて体も重い。

「ふあーあ・・・」

あくびをしてテレビを点ける。新聞はいらない。
点けた時にやってる番組を見るのが僕の楽しみ方だから。
時刻は7時。朝ごはんは食パンでいいや。
今日から最終学年。クラス替えはしないって先生は言ってた。

ガチャ

ドアが重いのはいつものこと。
鍵をこれでもかってくらい厳重にかけてから家を出た。


始業式が終わって、新しい教室で教科書をもらう。
みんな知ってる人ばかりだけど先生のために自己紹介をするらしい。
アイウエオ順にやっていくから、僕の番はすぐにやってきた。

「雨露守東伍(ウロガミトーゴ)です。小さいころにアフリカから来ました。
髪も肌もみんなと似てるけど黒人です。1年間よろしくお願いします」

「それからメダロット持ってませーん」

「えー!?」

この下りも6年目ともなるとやる方もやられる方も飽きてきてるのがわかる。
僕はメダロットを持っていない。父さんが・・・。
義理の父さんからお金を振り込んでもらって生活してるから。
食べるぶんには困らないけど、おもちゃを買うのはちょっと厳しい。
値段が高めのメダロットならなおさら難しい。

「・・・ゴホン。では、次」

今年の先生にはウケなかった。がっかり。
席について自己紹介を追加してくれた友達と目配せする。
先生はウケないというより、何かを怖がってるみたいだと友達も感じたらしい。
それ以外は普段と変わらない初日だった。


ガチャガチャ

僕しかいない家のドアの鍵を閉める。
さてと、夕ごはんを食べよう。
学校ではいつも給食の残りを少しもらう。
冷凍のピザが残ってたからそれも食べようっと。

ピンポーン

「空犬宅配便でーす」

「今、開けます」

ガチャガチャ

かけたばかりの鍵を開ける。
そこには水色の服を着た宅配員さんが大きな荷物を持っていた。

「ジク兄ちゃん、こんばんわ」

「よう兄弟。今晩はピザ?」

ジク兄ちゃんはいつものようにずかずか上がり込む。
兄ちゃんっていっても本当の兄弟じゃない。
時々やってくるこの人は僕の家を食堂だと思ってるらしい。
夕方に来ては一緒にごはんを食べて帰っていく。
最初のころは驚いたのに、いつの間にか来る時間もわかってきた。

「今日は荷物、大きいね」

「重かった重かった!あ、ハンコは後でいいぜ。
それよりメシ!メシ食おう!」

帽子を取ると燃えるような赤い髪がくしゃっと現れた。
前は茶色だったような。いつ髪を染めてるんだろう。

「冷蔵庫使っていいか?」

「今は色々入ってるから、上のほうに入れといて」

持ってきた飲み物と食べ物を冷蔵庫と冷凍庫に詰め込む。
自分の家に入りきらない分を入れてるって聞いた。
貸すかわり、お腹が空いたり喉が渇いたときは好きにしていいって約束。

「いっただきまーす」

「いただきます」

手を合わせていただきますを言う。
物心ついたときからこれが好きで、友達にうるさがられたこともあるくらい。
兄ちゃんがテレビを点けるとニュースが流れるとこだった。
『本日未明、またもメダロットを悪用する集団が銀行を・・・』

「やっぱりまだまだ収まんねーか・・・」

テレビを見ながら兄ちゃんが呟く。
去年、たくさんのメダロットが誤作動する事件があったらしい。
年内に影響はなくなったと偉い人が発表したみたいだけど、
混乱に乗じた者による被害が増えている・・・って学校でも言ってた。

「僕はメダロット持ってないからわかんないよ」

去年は毎日のようにメダロット被害のニュースが流れてた。
でも、なぜだかこの町ではメダロットが誤作動したって話は聞かない。
他にも全く影響がない場所と被害が大きい場所とが極端に分かれてるとか。
セレクト隊ががんばってるのかな、やっぱり。

「ごちそーさん!」

「ごちそうさまでした」

食器を台所に運ぶ。食べてすぐ洗わないと溜まっちゃう。
その間にジクの兄ちゃんは玄関から届け物の箱を中に運んできた。

「デカいよな。これ」

いつもはよくわからない置物とか小さめな荷物が届く。
父さんは仕事で色んな国を回って、ついでにお土産を買ってるらしい。
僕にはよくわからない物ばかりだった。これもきっとそんな物。

「開けてみたくないか?開けてみたいよな?」

兄ちゃんの目がキラキラしてる。しょうがないなー。

「これって・・・?」

箱を開けると見たこともない人形が入ってる。ついでに腕時計も。
厚い本と、何かのパーツ。それと工具。よくわかんない。

「メダロットだよ、メダロット。しかもまだ発売してないモデル!
トーゴはまだ持ってなかったろ?」

目が点になってるのが自分でもよくわかる。
誕生日はまだ先のはず・・・。

「先に言っとくが、俺が買ったんじゃない!試作品だってさ。
テスターだとかなんとかでトーゴが選ばれたんだと」

どういうことだろう。テストして、終わったら返す借り物?

「借り物じゃねーぞ。全部プレゼント。俺が動作報告するのを条件に、だってよ」

何だかカタコトな声で説明される。
よく見たら胸ポケットから紙を取り出して読み上げてるみたいだ。
嬉しさとおかしさで自然に笑えてきた。

「僕の、メダロット・・・」

「早速、組み上げようぜ!」

僕らは箱に入ってるものをひとつずつ取り出した。


『まず、素体となるティンペットに武装となるパーツを取り付ける。
骨に肉体をくっつけると言えばわかりやすいだろう。
だがそれだけでは動かない。最後に最も大事な、頭脳にあたる部分。
メダルを装着してメダロットは完成する。
メダロッチはメダロッター(メダロットの持ち主)が、
メダロットに円滑な指示を出すための必需品。
メダロット同士を戦わせるロボトルではメダロッターとメダロットの、
知恵と勇気が試されることとなる』

「ええっと・・・。これでいいのかな?」

パチン

取扱説明書を読みながら何とか完成までこぎつけた。
クラゲの絵が刻まれたメダルをセットすると頭のモニターが光る。
光る目をキョロキョロさせて、メダロットは僕たちを見た。

「ここはどこ?キミは誰?」

「ぼ、僕の名前はトーゴ。ここは、僕たちの家。きみの名前は・・・」

動いた!僕が組み上げたメダロットが。えっと、名前、名前。
来年の制服を見に行ったとき入った服屋さん。
そこに置いてあったミシンと夕飯の魚を思い出す。

「きみの名前はニシンでどうかな?」

「ニシン。ボクはニシン!よろしく、トーゴ」

僕たちは握手した。初めてのメダロット。
友達というより、家族が増えたみたい。

「それじゃ、早速ロボトルしようぜ!」

「庭でやろう!」


うちは一軒家。だから庭がある。雑草もほとんど生えてない。
ロボトルするには絶好の場所。

「メダロット転送!」

ジジジジジジ

家の明かりで夜でも足元は見やすい。
影を照らしながら現れたのは大きな尻尾が生えたメダロットだった。

「なんじゃい、ジク。またサボっとったんかの?」

「今日の分は終わったっての!ロボトルやろうぜ、ロペ」

あれがジク兄ちゃんのメダロット?どことなく強そう。
僕たちだって負けてられないぞ。

「がんばろう、ニシン!」

「もちろん!」

僕のニシンと兄ちゃんのロペが対峙する。

「レフェリーはどーも集まりがわりーから、俺が開始宣言するぜ。
ルールはかんたん。相手に攻撃して機能停止させた方が勝ち。
いくぜ、ロボトルファイト!」

カーンと口で言う兄ちゃん。
僕は説明書を片手にニシンの性能を見る。
スリマードッグという機種名の犬型メダロットだと書いてある。
右腕が攻撃パーツらしい。

「ニシン、右腕パーツを使ってみて」

「これ?」

ババババババ

たくさんの弾丸が発射された。左腕が反動で暴れる。
『脚部パーツ、ダメージ15%』

「いきがええの」

ロペはその場から動いてないのにかなり外してしまう。
それでも弾が出たことに僕は驚いて、近寄ってしまった。

「すごい武器だ!」

ガツン!

銃口に近づいたところでジク兄ちゃんのゲンコツが落ちてきた。

「い!いたぁ・・・」

頭をおさえてうずくまると月をバックにした兄ちゃんが見下ろしている。
兄ちゃんがふざけないで怒るときには大体、いつも理由があった。

「バカヤロー!おもちゃだからって甘く見てると穴だらけになるぞ!
俺たちは庭に降りちゃダメだ!」

「はーい・・・」

すごすごと元の場所に戻る。ロボトル続行だ。
ロペが右腕をニシンに向ける。光がどんどん集まってきていた。

「ニシン、次は左腕パーツを使って!」

「やり方がわかってきたかも」

ドドドドドドドド

『右腕パーツ、ダメージ40%』

ピューン

ニシンの射撃攻撃でロペの腕が地面に向いた。
地面に向けて撃ち出された光線が短い雑草を焼き焦がす。

「やるじゃねーか。でも、まだ始まったばかりだぜ!」

「負けないぞ!」

その日のロボトルは兄ちゃんが電話で呼び出しを食らうまでずっと続いた。

 

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