カチ カチ
「君があの場所にいた理由と、
謹慎中に待機していなかった理由はそれで全部か?」
「そうであります!」
セレクト署で俺はこってりしぼられていた。
アタッシャーズは突撃してきた隊長率いる部隊に逮捕された。
その場にいた俺ごと。手錠を嵌められるのは初めての経験だ。
「で・・・。他に言いたい事は?」
隊長は感情を感じさせない口調で淡々と言う。
手に持ったボールペンを回し始めた。
これは相当のお怒りだ。俺は除隊を覚悟する。
「いつから突撃の準備を?」
「お前が隊の面子を勝手に賭したあたりからだ」
思わず片手で顔を覆う。タイミングの悪い・・・。
デスクワークしていた隊員のひとりがおどけた調子で話しかけてきた。
「ヒャクヒよぉ。お前の後処理で俺たちはてんてこ舞いだったんだぜ?」
「黙っていろ」
隊長のお怒りが飛び火した。心の中で同僚に謝っておく。
「アタッシャーズは後々厄介になると予想されていたチームだった。
われわれとしても早めに潰しておきたかったには違いない。
無論、それは単独行動を取る理由にはならない」
「はい・・・」
隊長が書類をばんと置く。
脱隊届か・・・。恐る恐る見ると、そこにはこう書いてあった。
『表彰状授与要請書』
「これはどういうことでありますか?」
「お前の功績に対して上が大層喜んでおられてな・・・。
1週間後に授与式が開かれる事となった」
想像だにしていなかった知らせに面食らう。
口が震えているのが自分でもわかった。
「で、ではお咎めは・・・」
「なし・・・。だと思ったか?謹慎の残りはきっちり篭っていてもらう。
家から出るな。いいか、監視つきだ。買い物等にも同行する。
残り1週間だったな。さらに1週間を追加する。これが処分内容だ」
「はい。わかりました・・・」
そう甘くはなかった。脱隊せずに済んだだけ、よしとしよう。
気持ちが軽くなって思い出した事があった。
「ボス。実は謹慎中にメダロットを増やしまして。
是非とも隊に加えていただきたいのでありますが・・・」
「見込みはあるのか?」
隊長が手を組む。
セレクト隊のメダロットになるには厳しい試験を受ける必要がある。
それを突破する条件を、あいつはクリアしていた。
「もちろんであります!」
俺は自信を持って言った。
「ヒャクヒー」
セレクト署を出るとレックが走ってくる。
待っていろと言ったはずなのだが。
「グリニーがね、もしかしたらヒャクヒが落ち込んでるかもしれないから、
迎えに行っていいって」
歩きながらレックが言う。グリニーのやつ、余計な気遣いを。
気持ちとは裏腹に自然に笑みが溢れた。
「はは。そんな必要なかったのに」
「なんだー」
何だとはなんだ。こいつ。
俺はレックを小突いた。レックも俺を小突いた。
そうして他愛無い事をしながら帰路を歩いた。日差しが暖かい。
俺はふと疑問が沸き上がった。
「結局、どうしてレックがメダロットになったんだろうな」
「うーん・・・。わかんない!」
わからない。それが俺たちの出した答えだった。
それ以上はもう考えない。考える必要もない。
レックが帰ってきてからもうすぐ1ヶ月。
その事実の方が、俺たちにとっては重要だから。
「グリニーに土産でも買っていってやるか」
「ボクの分は?」
「グリニーにって言っただろ」
「えー!?」
暖かい。
とても暖かい日だった。